夜行列車のシャワー
美味しいお寿司やお菓子を楽しみながら、椅子に座ってのんびり窓の外を眺める。窓から見える流れていく景色がおもしろい。もう夜だからあまり見えないけど、たまに駅とかも通り過ぎていってる。
中にはもう真っ暗になってる駅もあって、なんだかちょっと新鮮だ。
『なんか、リタちゃんの配信では珍しいのんびりした時間』
『リタちゃんの配信はいつものんびりしてるだろうが!』
『いつも以上ということでw』
ぱりぱりポテトチップスを食べる。ポテチ、美味しい。ポテチを食べて、ジュースを飲んで……。なんだか、とっても贅沢な時間だと思う。
『なんでポテチのお供がコーラじゃないんだ……!』
『ポテチと言えばコーラだろ!』
『知らんかったんか。リタちゃんはコーラ、というより炭酸が苦手だ』
師匠が見つかっていない間は、もうちょっと好きになろうと頑張っていたけど……。師匠が見つかってからは、別にいいかなって思ってる。それでもたまに試すけど。
だって、師匠にそれを話したら、ちょっと呆れられたから。好きなもの飲めよ、と。
でも。たまにはコーラもいいかもしれない。アイテムボックスからペットボトルのコーラを取り出して、コップに入れて、飲んでみる。
「…………。むう……」
『いつも通りの微妙なお顔』
『ぱちぱちはやっぱりだめかw』
『それがいいんだけどなあ』
私にはちょっと分からない。ぱちぱち、あまり好きじゃない。
『せっかくだから、電車の中も見て回ったら?』
『使ってない部屋ならこっそり見れるかも』
「ん……」
それはいいかもしれない。シャワーも気になるし。
「そういえば、車掌さんから何かもらったね」
切符を確認した時にもらった袋。何が入ってるんだろう。テーブルに広げてみる。
えっと……。小さい石けんとか、歯ブラシとか、使い捨てみたいなシャンプーとか……。そういうの、だね。いろいろ入ってる。
あとは、カード。これがシャワーカード、かな? シャワーを浴びるために必要なもの。
「いっぱい」
『いっぱいだね』
『それはもうリタちゃんのものだから、好きに使っていいんだよ!』
「おー」
それは、なんだかとってもいいもの、かな? せっかくだから、シャワーを浴びに行ってみよう。
シャワーカードを持って、部屋の外へ。外から鍵をかける時は、番号を押して……という操作。何番にしよう。んー……。適当でいいか。別に忘れないし。三、五、五、八……。
『配信で番号出しちゃっていいのかw』
『どうせ部屋は結界で入れないだろうから多分!』
『これ何か意味がある番号かな?』
『多分リタちゃんのことだから、マジで適当だと思う。この子、忘れることないだろうし』
『誕生日とか使ったらよかったのにw』
「誕生日は知らない」
知らない、というよりどうでもいいとも言う。精霊の森では、師匠が私を拾った日を誕生日として、毎年お祝いしてくれたけど。お祝いというか、ちょっと美味しいものを食べたり、一日中一緒に遊んでくれたり。
「楽しかった」
『あいつも親らしいことしてるんだなって』
『一応リタちゃんをちゃんと育ててるからな……?』
『あれ、でも今なら誕生日は妹ちゃんに聞けば分かるのでは?』
それは分かると思うけど、もう私にはどうでもいいものだから。私の誕生日は、師匠に拾われた日だよ。
ちょっと歩いて、シャワー室へ。同じ車両にあったから分かりやすい。中に入って、鍵をしめる。次にシャワーカードは……。ここかな。カードを入れる部分があった。下から入れる不思議な構造。
カードを入れると、シャワーが使えるようになるみたい。六分、だって。
『シャワーを使ってない間はお湯を止めたりすると、六分でもわりといけるからね』
「ん……」
それじゃあ……服を脱いで……。
『リタちゃん! 配信止めて!』
「あ」
そうだった。忘れてた。真美のコメントで思い出した。一度配信止めないと、ね。
『あああちくしょおおお!』
『このまま触れなければ……リタちゃんのすっぽんぽんが見れるかと……!』
『お前ら何度も言うけどキモいからマジでやめな?』
でも止めちゃうのもなんだし……。光球だけ転移させて、通路から景色とか見れるようにしておこう。
『お、いきなり映像変わった』
『光球だけ外に出されたっぽい?』
『多分リタちゃんの部屋の前の通路だな』
『通行人がこっち見てぎょっとしてるんだけどw』
『きょろきょろ見回してリタちゃん探してもいないんだぜー』
通る人のことは考えてなかった……。まあ、いっか。
服を脱いで、シャワー室へ。扉を閉めて、シャワーを持ってボタンを押す。おお、お湯が出てきた。温度調節もできるみたい。
「んー……。温泉の後だと、物足りない……」
こればっかりは、仕方ない、かな? もちろん悪いわけじゃない。電車の中だと思えば十分だと思う。
シャワーをしっかり浴びて、ぱっと魔法で乾かして服を着る。最後に洗浄ボタンを押すと、シャワー室の中が掃除されるみたい。すごい。
ぽちっと洗浄ボタンを押してから、外に出た。
『お、リタちゃん戻ってきた』
『おかえりー』
『どうだった?』
「んー……。まあまあ?」
『まあまあかーw』
『電車のシャワーやしな、しゃーない』
そうだね。時間がある人は、銭湯とかに寄ってから電車に乗った方がいいと思うよ。
一度部屋に戻って、一息。ジュースをコップにいっぱい入れて、飲む。お風呂上がり……シャワー上がり? そんなタイミングのジュースはやっぱり美味しい。
「んふー」
『めっちゃ美味しそうに飲むやん』
『そしてしれっと開封されるポテトチップス大袋』
『大袋を一人で食べるんじゃありませんw』
ポテトチップスが美味しいのが悪いと思います。
『おいシッショ! 親としてどうなんだこれは!』
『太らないし別にいいかなって』
『こういう時は魔法使いが心底羨ましくて憎らしい……!』
なんというか……。ごめんなさい?
壁|w・)魔女のセキュリティはがばがばです。
入れるものなら入ってみろ、みたいな。
森のお家でも鍵はかけないからね、仕方ないね!





