夜行列車
駅の中に入って、改札を通る、わけだけど……。
「この大きい切符、入れるの?」
新幹線に乗った時は切符を入れたけど、こんなに長いやつは入れてもいいのかな?
『だめだぞ』
『入れるのは乗車券だけで大丈夫です』
『その長いやつ、指定席券とか寝台券とかが一緒になってるやつだけど、ともかく長いやつは後で車掌さんに見せるんだよ』
「わかった」
乗車券だけを入れて、改札を通る。そうして、階段を上がると……。
「人が並んでる……」
まだ十分前なのにすでに人が並んでいた。そんな人たちが一斉にこっちを見てくるからちょっと怖い。なんなんだろう。私も並んだ方がいいのかな?
『リタちゃんが並ぶ必要はないよ』
『その人たちはね、シャワーカードを買うために並んでるんだ』
『その夜行列車のシャワーを使うためにはシャワーカードを買わないといけないんだけど、先着順なんだよ』
「へえ……。せっかくだから私も使ってみたい。並んだ方がいい?」
『シングルデラックスなら、後でもらえるから大丈夫』
『しかもシングルデラックス専用のシャワー室だぞ!』
ちょっと特別扱いって感じだね。
並んでる人の何人かがこっちにスマホを向けてきたから、いつも通りに手を振って……。そうしていたら、電車が入ってきた。たまに見かける電車よりも、なんだかちょっと大きい電車だ。
窓が上下に分かれてるけど……。二階建てってことなのかな。すごい。
電車を観察していたら、並んでいた人たちが吸い込まれるように電車に入っていった。私も入ろう。えっと……。この号車、だね。
「廊下が狭い」
『ぶっちゃけ行き交うのはかなり厳しい幅だよね』
『その分部屋を広くしてるんだと思う!』
そうなのかもしれない。じゃあ、早速部屋に入ろう。
えっと……。私は……この番号だ。ちょっと階段になっていて、私は上った先の部屋みたい。つまり二階部分、だね。
ドアを開けて、中に入った。
「おー……」
こぢんまりとしてるけど、ちゃんとした部屋だ。左側にベッドがあって、右側にテーブルと椅子がある。テーブルの左奥側に洗面台もあった。
「これ、水はどうなってるの?」
『多分水を入れてるタンクがあるんだと思う』
『さすがに電車に上水道とか通ってないからねw』
それは分かってる。通ってたらどうやって走るんだってことになるし。
でも、限りがあるなら、使うのは控えておいた方がいいかな? 私は魔法で水を出せるから、ちょっと使ってみるだけにしておこう。
「そういえば、シャワーの水もそうなの?」
『そうだぞ』
『だからシャワーには時間制限がある』
『先着順、つまり人数制限もそのためだな』
「なるほど」
限られた水だってことだね。水は大切だ。
椅子は……ふかふかではないけど、座り心地は悪くない。部屋も広いわけじゃないけどすごく狭いわけでもないから、大きな荷物があっても大丈夫だと思う。
ベッドは、ちょっと固め、かな? でも寝るには十分。あと、ちゃんと清潔だ。
そうして部屋の観察をしていたら、電車が動き始めた。
「おー……。ちょっと揺れる」
『まあ電車なので』
『その揺れを感じながら眠るのはなかなか幸せですよ』
「へえ……」
それはちょっと気になる。試しにベッドに横になってみよう。
んー……。これは、なるほど。悪くない。揺れが気になる人には辛いかもしれないけど、私は好き。とても好き。
『いや、リタちゃん。そのまま寝たらだめだよ?』
『お菓子とかもいっぱい買ったんだから!』
「そうだった」
お菓子。お寿司。ちゃんと食べないとね。
椅子に座り直して、アイテムボックスから買ったものを広げていく。お菓子いっぱい、ジュースいっぱい、そしてお寿司いっぱい……。
こんこん、とドアをノックされた。
「ん?」
『車掌さんだぞ』
『切符の確認だ』
『あの長いやつを見せればよろし。買ってない人が乗ってないかの確認だから』
「なるほど」
切符を取り出して、ドアを開ける。車掌さんと目が合って、そして一瞬だけ目を見開いたのが分かって、でもすぐに笑顔になった。
「ご乗車ありがとうございます。寝台券を拝見いたします」
「ん」
「失礼します」
切符を渡す。車掌さんはさっと確認すると、何か変な道具でカチャッと判子を押してくれた。なんだろう。挟むタイプの判子。ああいうのもあるんだね。
「こちら、アメニティです。それではごゆっくりどうぞ」
なんだか小さな袋を渡してから、車掌さんは戻っていった。
『これはプロ』
『プロ根性を感じた』
『どこでも写真を撮りたがるお前らとは違うんだよ雑魚が!』
『ぐぬぬ』
そんなこと思ってないと思うよ……?
これでもう、誰かが来るとはないらしい。中から鍵をかけられるみたいだから、しっかりとかけて……。外に出る時は、外にも鍵があるんだって。番号を入力して使うものなんだとか。すごい。
ともかく。お楽しみだ!
「お寿司」
椅子に座って、お寿司を広げる。全種類あるからか、とっても大きい入れ物だ。お醤油もたっぷり用意してくれてる。
それじゃあ、食べていこう。お寿司と、お菓子と……。今日はいっぱい。楽しみ。
壁|w・)わくわく夜行列車編。





