みんなでやればこわくない
「いや、あの……。そ、そう! ここで僕がひどいことをしてしまうと、日本のみんなに知られてしまう! それはまずいんじゃないかな!」
「分かった。やってる間は配信を止める」
「逃げ道が塞がれていく!?」
『もう逃げられないぞ(はぁと)』
『また懐かしいものを……』
『逃げ道が塞がれてるのは先王なのか勇者なのかw』
コウキさんが頭を抱えてしまってる。あまりひどいことはしたくないらしい。優しいと思う。その優しさは大事にしてほしい。
でも今は気にしなくていいよ。ほら、王様も今か今かとわくわくしながら待ってるから。
『王様がうきうきしてるのがなんとも言えねえw』
『これでやっぱりやめるは許されざるですよ』
『覚悟を決めろ、勇者ァ!』
「うう……」
コウキさんは喉を鳴らして、先王に向き直った。こんなに騒いでるのにすやすや寝てるけど、音が聞こえないようにしてるだけだから、いくら騒いでも大丈夫。
んー……。もしかして、だけど。
「血を見るのは嫌?」
「当たり前なんだけど!?」
「ふむ……。勇者殿は平和な場所で暮らしていると言っていたな……。ならば! 人を斬ることなんて今回だけの経験ではないか? 貴重だ!」
「そんな貴重いるかバカ!」
『王様こんなおもしろい人だったのかw』
『貴重だ、じゃねえんだよw』
『まあコウキの気持ちも分からんでもないかな』
日本の人はみんな優しいね。私なら、遠慮なくやるのに。
でも、そっか。血は見たくない。それなら確かに、剣とかは嫌だよね。仕方ない。
「じゃあ、コウキさん」
「う、うん……」
「先王に魔法をかける。ちょっと強めの結界。ただし痛みはしっかり伝わる結界。どう?」
「拷問用の結界かな?」
『優しさに見えてえげつなさが増してる気がする』
『それつまり、死んで楽になることは許されないってことで』
『拷問の魔女かな?』
拷問用じゃないから。でもとにかく、これで安心できるよね。
「まあ、それなら……」
『いいんかいw』
『何もせずに帰ることは雰囲気的に許されそうにないしなw』
それじゃあ、先王に魔法をかけて、と……。あとは、道具。
「王様」
「任されよ」
王様が頷いて部屋を出て行く。そうして、十分ほどして戻ってきた。王様の他に、何人かメイドとか執事を連れていて、剣とかの武器を持ってる。何故かみんな笑顔だ。
「え……。これ、捕まるやつでは……」
「安心してほしい、勇者殿。鬱憤がたまっているのはみんな同じだ」
「ええ……」
よっぽど、ろくでもない王様だったってことだね。こうして、みんなが協力してしまうほどに。じゃあやっぱり遠慮はいらないということだ。
「じゃあ、どうぞ」
「う、うん……」
まずは……目覚めの一撃。
「おらあ!」
「ぐふっ……」
先王が目を覚ました。がばりと起き上がって、コウキさんを睨む。
「きさま……! 勇者! どういうつもりだ!」
「コウキさん、弱い」
「弱いな、勇者殿」
「う、うるさいな!?」
『これはひどいw』
『日本人はそっちの人と比べて非力なんや! 見逃して!』
分かってるつもりだったけど、もうちょっと鍛えた方がいいと思う。いや、私も人のことは言えないけど、私には魔法があるから。
でもこのままじゃ逃げられそうだし、捕まえておこう。ぎゅっと。
「うおお!? なんだこれは!? おい貴様ら! わしを助けろ!」
影の縄で手足を縛られた王様がその場に転がった。何かわめいているけど、気にしない。
「あとは好きにしてね。さっきも言ったけど、攻撃は届かない。痛いだけ」
「う、うん……」
コウキさんは試しにとばかりに思い切り王様を蹴った。躊躇していたわりには力いっぱい蹴ったと思う。
「ぐお!?」
ん……。ちゃんと魔法は発動してる。安心だ。コウキさんにもなんとなく分かったのか、無言で王様が持ってる剣を受け取った。
「クソジジイが! よくもさらいやがって!」
そんなことを言いながら、剣でべしべし叩いてる。ちなみに結界があるから斬れないけど、痛みは斬ったのと同じ痛みになってるはず。
「魔女殿」
「ん?」
「これは、我らが参加しても……?」
「どうぞ」
コウキさんの攻撃だけ防ぐ、というわけでもないからね。この際だから、みんなで参加してくれていいと思う。
そうして、なんだかいつの間にかたくさんの人が集まってきて、先王をこれでもかというほど痛めつけていた。よほど悪い王様だったみたい。途中から護衛のはずの兵士さんまで集まってたから……。
「うわあ……」
コウキさんがどん引きして戻ってきたぐらいだからね。
『これはひどい』
『ここまで憎まれてるって、よほどでは……?』
『よく今までクーデターとか起きなかったな』
それだけうまくやってた、ということかもしれない。近くに魔道具も置いてあるから、それで身を守っていたとか。
枕元に置いてある魔道具は、二つ。結界と、攻撃用のもの。もちろん無効化してあるから問題はない。
それにしても……。これはしばらく、終わらないかな?
「王様。私はコウキさんを送ってくるから。魔法は、朝日が昇るまでだよ」
「了解した! おらあ!」
「あわわわわ……」
怯えてるコウキさんを連れて、私はその場から転移した。きっと自業自得なんだと思うから、コウキさんは気にしなくていいいよ。
壁|w・)周りの勢いに逆に冷静になった勇者(笑)でした。





