師匠の歌
とっても広い部屋。十五人ぐらい入れる部屋らしい。真ん中には楕円形のテーブル。そのテーブルを囲うように椅子があって、モニターとか何かの機械が部屋の端っこにある。
「リタちゃんこっちこっち!」
「ん……」
私は朱音さんの隣に座らされた。もう片方の隣は師匠。ちょっとだけ心配されてる気がする。
「よし! リタちゃん何歌う? なんでもいいよ!」
「知らない」
「え」
そもそも私はこっちの世界の歌をほとんど知らない。アニメとかの歌なら知ってるけど、それぐらい。それも歌ったことなんてないし……。
「じゃ、じゃあ……。シッショさん!」
「誰がシッショだ」
そう言いながら、師匠は箱みたいな機械で何か操作し始めた。
「師匠、使い方分かるの?」
「俺が生きてた時と大差ないみたいだからな」
『俺が生きてた時というパワーワード』
『まるで死んだことがあるみたいな言い方じゃん』
『死んだことがあるんだよ』
ちょっと反応に困るってやつだね。私はあまり気にしないけど。目の前の師匠は間違いなく生きてるから。
「じゃあ、これで」
師匠が操作を終えると、なんだか音楽が流れ始めた。何の曲だろう?
『ふっるwww』
『お前絶対生まれてない時代の曲だろw』
『とりあえず悪者にキックしたい』
「いいだろ、別に。昔のこてこてのアニメや特撮の歌が好きなんだ」
「わかる……!」
『わかる……!』
『わかりみがふかい』
『わかりみなんて久しぶりに聞いたな』
みんな頷いたり同意を示してる。そういうもの、らしい。
そうして師匠が歌い始めた。確かにアニメの歌だってすぐに分かる。技の名前とか叫んだりしてるし。でもちょっと楽しそう。
歌がうまいかどうかは……。よく分からない。だって私は聞いたことがないから。
「どうなの?」
「すごい方だと思う……! シッショさん、すごいですね!」
「誰がシッショだ」
ふうん……。やっぱり、すごいんだ。でも、そうだよね。だって。
「魔法、使ってただけはあるんだね」
私がそう言うと、ぴたりと師匠が動きを止めて、みんなが師匠を見つめ始めた。
『は?』
『シッショお前ズルしたんか!? したんだな!?』
『それはないわー! やっちゃいけないことだわー!』
「黙れ小僧。お前に俺が救えるか」
『お前はどこのオオカミだ』
『つまり……。音痴、なんですね?』
師匠は舌打ちして目を逸らした。そういうこと、らしい。
ちなみに師匠が使った魔法はちょっと不思議なもの。自分の声の高さを順番に変えていってるような、そんな魔法。多分、このカラオケの時にしか使えないと思う。もしくは変装とかで声を変えたい時、かな?
私も使いたいけど……。そもそもどんな高さにすれば歌に合うのか、ちょっと分からなかったりする。師匠も別の曲だと今の魔法は使えないはずだし、たまたま作っただけなのかも。
「おい、リタ。食べ物もいろいろあるぞ。注文するか?」
「食べ物!」
「全力で話を逸らしてる……」
『シッショお前……』
『娘にはかっこいい父親として見られたいもんな。仕方ないさ』
『気持ちは分からないでもないw』
師匠が見せてくれたのは、メニュー表。カラオケはみんなで食べる料理とか、普通にお腹を満たせる料理とかもあるみたい。ラーメンとかもあった。
「食べたい」
「何にする?」
「全部」
「さすがにやめような……?」
『全部www』
『リタちゃんなら言うと思ったけどw』
『さすがに匂いでやばいことになりそうだからやめてあげて?』
『食事に来たわけじゃないからな?』
むう……。それはそうだけど、でも全部美味しそう。でも言われてる内容はその通りだと思うから、厳選しないと……。
むむむ……。む。
「パフェ美味しそう」
「おお、パフェか。確かにうまそうだ。これにするか?」
「ん。チョコパフェがいい」
「はは。了解」
師匠がスマホで何か操作し始める。注文もスマホでするみたい。すごい。
「いやあ……。最近のカラオケってマジで便利だな……」
「師匠の時は違ったの?」
「電話みたいなやつを使ってたぞ。みんな平気で歌いながらだから、あれ店の人は大変だったんじゃないかな」
「おー……」
そういうもの、らしい。大変そうだね。
それよりパフェだ。パフェ、とても楽しみ。まだかな?
そう思っていたら、すっと機械を差し出された。曲を入れる機械だ。渡してきた人を見る。朱音さんだった。にっこり笑ってる。
「どうぞ?」
「…………」
『そういえば誰も入れようとしてなかったなw』
『そんなにリタちゃんの歌を聴きたいんかw』
『俺も聴きたいけどな!』
『逃がさないという圧を感じる』
『異世界魔女は逃げられない!』
むう……。で、でも、使い方が分からないし……。
「曲名とか、番組のタイトルでも分かるよ?」
「…………」
どうしてそんなに便利なの? 便利にしすぎてもだめだと思う。
壁|w・)逃げ道を塞がれる魔女の図。





