魔女の幼少時
三十分ほどして、ウナギが届いた。使い捨ての容器だけど、たっぷりのご飯にたっぷりのたれ、そして大きなウナギのお弁当。とってもいい香り。
「リタ」
「ん」
「待て」
「ん……」
『わんこに対するしつけかな?』
『ふりふりされてる尻尾がしゅんと垂れていく様子を幻視した』
『奇遇だな、俺もだ』
テーブルには、つまり私の目の前には、ほかほかのウナギ。ふっくらとしていて、とっても美味しそう。早く食べたい。
さすがにコスプレしたままで食べるのは、ということで真美たちが着替えるのを待っているところ。ちゃんとみんなで食べないとだめだから、おとなしく待つ。じっと待つ。待つ。待つ。
「お、お待たせリタちゃん!」
真美が慌てた様子で戻ってきた。ちょっと急いでくれたみたい。
「わあ……。リタちゃんの視線がウナギに釘付けになってる……」
「今ならおてもしてくれるぞ」
「え。…………。おて」
「ん」
真美が手を出してきたから手を置いておいた。それはいいからご飯。
『マジですんのかよw』
『プライドとかないのかこの魔女w』
『バカヤロウ! プライドで腹はふくれねえんだよ!』
そういうことだよ。プライドとかにこだわるのはただのバカだと私は思う。そんなものよりご飯を食べたい。ウナギがほかほか美味しそう。
「それじゃあ……。いただきます」
みんなで手を合わせて、食べ始めた。
んー……。ふっくらウナギ。さすがにお店で食べたものと比べるとちょっと劣ると感じるけど、それでも十分に美味しい。濃厚なたれがご飯に絡まって美味しいし、ウナギも柔らかくて食べやすい。ウナギ、いいよね。
「もぐもぐ」
「やっぱりこれ、コスプレしたままの方が良かったんじゃないか?」
「もぐ?」
向かい側に座る師匠を見る。師匠の隣、真美もなんだか苦笑いだ。納得しているような、そんな感じ。
「私はともかく、ちいはコスプレしたままでも良かったかも」
「んぅ?」
ちいちゃんがもぐもぐ口を動かしながら首を傾げた。口の周り、汚れてるよ。拭いてあげよう。
『ちっちゃい魔女が二人並んでご飯を食べるところが見たかった』
『三人でも良かったぞ!』
『むしろそれを期待してたのに!』
「いやあ……。さすがに、もらい物を初日で汚しちゃったら失礼すぎるから……」
『その気持ちは分かるけども!』
『どうも、作った人です。気にせずやってくれたら良かったのに』
『作成者さん!? 売り子はいいんかあんた!』
『もう全部売れました』
『草』
『まあサイズごと三着の数量限定だったらね……w』
あっという間だったみたい。おかげで売っていた人もすぐにコスプレ会場に行くことができたんだとか。みんなで写真撮影でもしてるのかな? 朱音さんとかもすでにいるかも。
でもとりあえず、今はごはんだ。ウナギ美味しい。
「私たちはいつでもコスプレできるからね。また付き合ってね、リタちゃん」
「ん」
『自慢ですか!?』
『リタちゃんの胃袋を射止めた者の強さか、これが……』
『胃袋を射止めたってなんかいやだなw』
『あながち間違いではないだろうけどw』
んー……。そんなことはないと思う。友達として大事だよ。うん。
そんなことを考えていたら、多分師匠に察せられてしまった。なんだかちょっとにやにやしてる。
「いやあ……。なんか、感慨深いな。ずっと俺にくっついてきてたリタが、ちゃんと友達作っていて……。成長したなあ……」
「小さいリタちゃんの話を詳しく」
「よし任せろ」
『こっちにも是非』
『ちっちゃいリタちゃんのお話が聞けると聞いて!』
『やんちゃしてそうw』
変なことは話さないでほしい。私もそこまで変なことはしていないはずだから。していない、よね? いやでも、秘密基地とかはいっぱい作ったかな……。
「例えば……。精霊の森にはリタの秘密基地がわりと多くてな。大きな木のうろにはだいたいちょっとした生活スペースができていたんじゃないかな」
「秘密基地! リタちゃんってわりと男の子っぽい趣味がありますね」
「まあ、実質男手一つで育てたようなものだから……」
秘密基地。師匠がいなくなってからあまり行かなくなったものだ。師匠とちょっとケンカとかした時に使っていたものだったから。
せっかくだし、ちょっと見て回ろうかな。せっかく作ったんだし、ちょっともったいない。
その前に。
「師匠」
「うん?」
「たくさんあるってどうして知ってるの?」
「やっべ」
「師匠?」
おかしい。師匠に秘密だから秘密基地だったのに、なんだか全部知られてしまっている気がする。精霊様にはばれていても仕方ないけど……。つまり。
「精霊様?」
『待ってください違います私じゃないですコウタァ!』
『無慈悲な流れ弾が精霊様を襲う!』
『これはもうダメかもわからんね』
『精霊様は犠牲になったのだ……リタちゃんの過去という、その犠牲にな……』
『まるで意味がわからんぞ』
んー……。いや、怒るつもりはないけど。師匠、顔を引きつらせてるけど、本当に怒るつもりはないからね。秘密にできなかった私の力量不足。
「今は亜空間もあるし、大丈夫」
「そ、そうか……。よかったよ……」
「解決ですね! じゃあ、師匠さん。次のリタちゃんのお話を……」
「わりと鬼畜だね、君」
『リタちゃんの幼い頃の話のために、犠牲になるべきなんだよお前は』
『シッショと精霊様が犠牲になった結果で聞けるのなら、十分な対価だと思います』
「味方がいない……!」
私の昔の話に価値があるのかちょっと分からないけど……。でもそんなに多くはないと思う。むしろ。
「師匠の失敗料理の話の方が多いと思う」
『それも詳しく』
『凍った牛乳みたいな失敗談がまだあるのか!』
「よしリタ、俺が悪かった。ちょっと黙ろうか」
「えー」
別に恥ずかしいと思う必要はないと思う。確かに日本の料理と比べるとちょっとあれだけど、私は結構好きだったから。
それに、失敗は成功のもと、なんて言葉も日本にはあるわけだし、努力の過程なんだから誇っていいと私は思うよ。
「それよりもだ。そろそろ行かないか? 一応約束してるんだろ?」
「ん……」
時計を見る。お昼の一時前。確かにそろそろ行った方がいいかも。朱音さんが待ってるかもしれないから。
「じゃあ、真美。行ってくる」
「うん。行ってらっしゃい。今日はカツカレーにするね」
「ん!」
「みんなリタに甘すぎないか……?」
『おまいう』
『今日のおまいう会場はここですか?』
『懐かしいのりだなあw』
よく分からないけど、そろそろ転移だ。師匠と一緒にその場から転移した。
壁|w・)ちっちゃいリタのお話。
秘密基地はリタがいつでも遊べるように、精霊たちが定期的に清掃していたりする……かもしれない。





