推しに会った人の反応
部屋を出て、廊下を歩いて別の部屋へ。次の部屋にもたくさんのテーブルが並んでいて、たくさんの本が置かれていた。本以外にもやっぱりいろいろあるみたい。
『こっちに来た!』
『俺のブースに来てくれるかなあ』
『わくわくがとまらねえ!』
視聴者さんもどこかにいるのかな?
「お。テイルスシリーズのコーナーがある。リタ、俺はあっちに行くぞ」
「ん。私も行く」
「リタも知ってる作品のコーナー探してみたらどうだ?」
「んー……」
じゃあ、そうしようと思う。私がいると師匠が手を出しづらい本もあるかもしれないし。
まだ開場してないからか、準備中の人が多いみたい。作品を並べて、ポスターを掲示して……。ちょっと忙しそう。準備をしてる人には、コスプレをしている人もいて……。
「私がいる」
『私がいる、というパワーワード』
『意味不明なワードだけど意味が分かる不思議なワード』
『おっきいリタちゃんがいる……!』
黒いローブに三角帽子はわりとキャラとしてたくさんいるらしいけど……。あの杖の形状は、やっぱり私だ。ちょっと近づいて売ってるものを見てみたけど、それは私の本じゃないみたい。
んー……。日曜日の朝の番組で、変身して戦う女の子の本だ。
「これぐらいかな?」
「ちょっと斜めになってない?」
「そう?」
顔を上げると、女の人が二人いた。二十代前半ぐらい、かな? ポスターを掲示しようとしていて、ちょっと首を傾げてるところだった。コスプレをしている人がポスターを持っていて、もう一人、普通の服の人が指示を出してる……のかな?
普通の服の人がちらっと手元のスマホを一瞥して、ポスターに視線を戻して、そして勢いよくスマホにまた視線を落とした。
『これは綺麗な二度見』
『相方さんがコスプレをしているぐらいだし、視聴者さんやな?』
スマホを見ていた人が、ゆっくりとこっちに振り返ってきた。私と視線が合って、目をまん丸にして、口をぱくぱくと開け閉めして……。大丈夫? 混乱しすぎじゃない?
『反応がおもしろいけど気持ちは分かるw』
『これは完全に油断してたなw』
『まだこっちには来ないだろうとか思ってたんだろうなあw』
そういうもの、なのかな?
スマホを持ちながら、隣の人、つまりポスターを持ってる人の服をくいくいと引っ張った。
「ちょ、ちょっと……。朱音……」
「なによ、萌花。というか、引っ張らないで。自信作なんだから。リタちゃんに見てもらうまで変なしわとかつけたく……」
「リタちゃんが見てる」
「は?」
萌花さんと呼ばれた人に怪訝そうに眉をひそめながら、朱音さんと呼ばれた人がこっちに振り返った。
そうして、私を見て、固まった。
『視線が~とかの曲が流れてそうw』
『完全に見事に凍り付いてると逆におもろいw』
『推しに偶然会った人のよう』
『まさにそれだと思うw』
朱音さんは……全然動かない。隣の萌花さんが不安になってまた服をくいくい引っ張っても、やっぱり反応しない。魔法で固められたと言われても不思議じゃないぐらいだ。
一分ほど見つめ合ったかな? それぐらいして、朱音さんがポスターから手を離して、自分のほっぺたをつねり始めた。
「痛い……」
『マジでそれをやるやつっているのかw』
『漫画の中だけかとw』
次に萌花さんの方を向いて。
「どうしよう。夢なのに痛い」
「落ち着いて朱音。現実だから」
「現実なわけないでしょ! 推しが目の前にいるのに!」
「会えるかもって楽しみにしてたのは朱音でしょ……」
「そうだけど! そうだけど……! だってまだ開場してないのに!」
「いや、カレーの店の人が来て先に中に入ったみたいって言ったじゃん」
なんだか、とっても混乱してる。落ち着くまで待った方がいいのかな。でもここにずっといても仕方ないし、どうせなら他も見てみたい。
んー……。次に行こうかな。でもその前に。
「そのポスターをまっすぐにしたいんだよね?」
「え? あ、うん」
「じゃ……。はい」
魔法でポスターを浮かせて、まっすぐ持ち上げてあげる。これでやりやすくなったんじゃないかな。
「すごい! まっすぐ!」
「いや朱音、リタちゃんをずっと見ていてポスター見てないでしょ」
「バカ! リタちゃんに間違いがあるわけないでしょ! むしろリタちゃんから目を逸らすなんてもったいない!」
「ええ……」
『これはだめな人だw』
『次に推しに会えるのはいつになるか分からないからね! できる限り視界に収めておきたいよね!』
『リアルイベントに参加した時の俺かな?』「
そういうもの、らしい。よく分からないけど。
「でもちゃんと確認してほしい。多分大丈夫だと思うけど、ちゃんと見て考えてね」
「は、はい! すみません!」
朱音さんがすぐに振り返ってポスターを固定し始めた。固定する前にちょっと見ていたから大丈夫だとは思うけど……。あまり信用しすぎないでほしい。
壁|w・)歌詞は書いちゃだめだよ!





