異世界魔女からは逃げられない!
「し、シッショさん!? いつの間に!?」
「誰がシッショだ! むしろこれだ! お前……これ……! ぶち殺すぞ!」
「シッショがキレたー!」
「ご乱心だ!」
「殿中でござる! 殿中でござる!」
「お前ら意外と余裕だな!?」
師匠は怒ってるけど、周りの人はあまり慌ててない。まあ師匠も怒りはしても日本で誰かを殺したりはしないだろうから安心してほしい。
でも、師匠は何を見て怒ったのかな。
「師匠。何を見たの? 見せて」
「え」
「え」
何故か、師匠だけじゃなくて本を売っていた人も凍り付いた。二人そろって青ざめてる。
「い、いやだめだ! これはだめだ! 見ちゃだめだ!」
「どうして? 私の本? 見たい」
「いや勘弁してください! リタちゃんが見に来るなんて思ってなかったんですよ! 見ちゃだめですお願い見ないで!」
「ええ……」
『めちゃくちゃ必死すぎて笑えてくるんだけど、多分マジで笑えない状況だと思う』
『本人には見せたくない、さらに師匠がぶち切れる……。まあ、そういうことですね』
『リタちゃんで何を妄想しているんですかねえ……』
どういうことだろう。本当に意味が分からない。師匠を見る。本を後ろに隠して首を振ってる。売ってる人を見る。いつの間にかテーブルの本にシートみたいなものを被して隠して、必死に首を振ってる。
「そこまで必死だと見たくなる」
「だめだ。絶対に、だめだ」
「むう……」
『まあまあ、リタちゃん。あまり気にしない方がいいって』
『もうそろそろ開場だし、人が少ないうちに他のも見て回ろうぜ!』
『ただしえっちぃのもあるから気をつけろよ!』
『あ、バカ』
ん……。私は見ない方がいい。えっちぃのは気をつけろ、つまり見ちゃだめ。
なるほど。
「見たい」
「鬼かお前は!?」
『草』
『ぶれないぞこの幼女!』
『だってその子実年齢やばいから!』
『興味津々だね!』
だって、大きくなったら見てもいいってやつだと思うけど……。私はもう大きくなれない。ずっと見れないということになる。いつになったら見てもいいのかな?
「師匠はどう思う?」
「え、あ、いや……えっと……。その、だな……。うん……」
『だめだシッショは頼りにならねえ!』
『使えねえ師匠だなおい!』
『ここはやはり真美ちゃんを頼るしか!』
『うん。本を作った人は死ね。今すぐ死ね』
『真美さん!?』
『あかんキレてる側の人だ!』
むう……。どうしてもだめみたい。でも見たいな。どうしてもだめなのかな。
『どうすんだよこれマジで』
『だからナマモノはだめだって言ってるのに!』
『私のリタちゃんで何を妄想したのかな』
『真美さんの自己主張が激しいw』
私はいつから真美のものになったの? 真美のご飯は美味しいけど、さすがに日本にずっといるつもりまではないよ。
ふと。何故か真美のコメントが流れた直後に激しく反応した人がいた。びくっとした人が、ちょっと離れたテーブルにいる。んー……。
私がそっちに行く前に、師匠が素早く移動して本を見て、おもいっきり相手を睨んで、そして急いで隠し始めた。またなの?
『こいつらwww』
『だから! ナマモノはダメだって! 言ってんだろうが!』
『だって! マジで即売会に来るとは思わないじゃん!』
『それはそうだけど!』
まあ……。うん。いいか。仕方ない、よね。
それじゃあ……。魔法でそっとお金を置いて、さっと本を回収して。これでよし。誰にも、視聴者さんにもばれてないはず。
師匠にはばれてるだろうけど……。うん。顔を青くして頬を引きつらせてる。ばれてるけど、何も言えないみたい。私の勝ちだ。
「か、カレー! カレー温まりました! リタさんいかがですか!?」
カレー会社の社長さんの声。カレー、食べたい。そっちに行こう。
『カレー会社の人、ぐっじょぶ!』
『慌てて温めたっぽいなこれw』
『やばい本持ってきたやつは反省しろ!』
気にしなくていいんだけどね。実際に私に何かしようとしたら反撃はするけど、何を考えるのもそれは自由だから。
今はそれよりも、カレーだ。
企業さんのコーナーの前に行くと、ほかほかのご飯にカレーを盛り付けてるところだった。レトルトの袋からとろっとカレーをご飯にかけてる。とてもいい香り。
「ど、どうぞ……」
「ん」
受け取って、食べてみる。スプーンですくって、一口。
んー……。
「美味しい」
「本当ですか!?」
「ん。でも、真美のカレーとはまたちょっと違う。もう一工夫。とりあえず辛さをもう一声」
「なるほど……。参考になります」
社長さんがささっとメモをしてる。美味しいレトルトカレーになったらいいな。
カレーも食べたし、次に行こう。他のものもいろいろ見てみたい。真美と一緒に遊んだゲームの本とかもあるのかな? 楽しみだね。
「師匠。行こう」
「あ、ああ……」
師匠と一緒に、部屋を出る。私たちが部屋を出ていく時に、大勢の人が安堵のため息をついていた。
「よかった……諦めてくれた……」
「お前のせいだぞ馬鹿野郎」
「マジでごめん……」
それが聞こえたのか、師匠が一言。
「もう手遅れなんだよ……」
うん。何のことか、私は分からない。そういうことにしておこう。
壁|w・)ナマモノに手を出してはいけない。いいね?





