カレーの会社の社長さん
「すごい……親子してる……すごい……」
『落ち着け参加者さんw』
『くっそもうちょっとゆっくり並ぶべきだった!』
『今から行ったらリタちゃんの後ろに……』
『すでに並び始めてるが』
『ちくしょう!』
列はどんどん長くなってる。まだまだ人が集まるみたい。そんな集まった人も、そして前にいる人も、みんなこっちを見てる。ちらちら、どころかはっきりと見られてる。
「すっげえ、本当に来てる……」
「しかも一般参加?」
「誰かチケット譲ってやれよ大丈夫かこれ」
『それな』
『なんか大騒ぎになっちゃいそう』
あまり騒ぎになるようだったら……さすがに帰らないといけない、かな? 師匠もそれなら分かってくれると思うから。残念がりそうではあるけど。
「師匠。どうしよう」
「あー……」
師匠もそろそろまずそうだと思ってるみたい。もともと大勢の人がいるのに、なんだかちょっと、人の集まりが変になってきてるような……。並ぶ前にこっちをちらっと見に来たりとか、そんな感じ。
師匠には悪いけど、やっぱり帰るべきかな、と思い始めたところで、
「み、見つけました!」
そんな声が聞こえた。
こっちに走ってくる人が二人。視聴者さんかな、と思ったけど、なんだか様子が違うみたい。
『熱心なファンかな?』
『さすがに視聴者にあんなバカはいないと思いたい……』
『数十万の視聴者がいるのにその望みは無理だと思うぞ』
こっちに向かってきたのは、四十代ぐらいの男性が二人。二人ともスーツを着てる。ここに集まってる人とはなんだか違う感じで、コメントでもちょっと疑問の声が出てる。
そのうちの一人が、すっと名刺を差し出してきた。
「初めまして。真美さんのカレーをレトルトにする会社の社長です」
「え」
『えええええ!?』
『なんて分かりやすい自己紹介w』
『でも名前ぐらい名乗れよw』
名刺を見てみる。見てみるけど……。確かに会社名は同じだ。
「真美。真美。この人に見覚えある?」
『うん。社長さんで間違いなよ。挨拶されたことがあるから』
『社長に挨拶される女子高生』
『かなり丁寧にもてなしをされてそうw』
『そりゃリタちゃんと定期的に会うほぼ唯一の地球人だからな』
『首相さんすらあまり会えないのにw』
いや、呼ばれたら会いに行くけど。首相さんからは呼ばれないだけだよ。まあ頻繁に呼ばれるようになったら無視すると思うけど。
「社長さんが何の用? どうしてここにいるの?」
「この即売会で企業出展していまして。さすがに無料ではありませんけど、一度皆さんの反応を知りたいと今回数量限定でレトルトカレ―を販売させていただきます」
「おー……」
『なにそれ知らない』
『謎に食品メーカーっぽいところが企業ブースに名前があるなと思ったら、これか!?』
『先に言えよちくしょう!』
なんだか大騒ぎ、だね。でも私はちょっと気になってることがある。
「第五弾?」
「はい」
「私、一度しか食べてない」
「まあ……。はい。真美さんはとても厳しく……。察してください」
「ん……」
『真美ちゃん何やらかしたん?』
『こんなの私のカレーじゃない、とかテーブルひっくり返したのか!?』
『そこまでしてないよ!?』
『つまり何かしらやったのかw』
どうなんだろう。これに関しては私は真美に任せてるから、口を出すつもりはない。むしろ何かあったら真美の味方をする。全力で。いや今はそれよりも。
「こちら、どうぞ」
「え?」
「さすがに一般参加は騒ぎになりそうですし、こちらの関係者として入場してください。運営の方にも許可は取りました」
「おー」
『これは有能』
『リタちゃんと会えないのは残念だけど、これは致し方なし』
『騒ぎになって中止になる方が笑えないからな』
お言葉に甘えることにする。師匠と一緒に社長さんについていく。そうして、人は多いけど別の騒がしさがある出入り口に案内された。
こっちは並んでいるとかじゃなくて、準備で大忙しの人たち、かな。いろんな人が指示を出したり何かを運んでいたりしてる。
「お祭りの準備の騒がしさって感じだな」
「楽しそう」
「だなあ。正直当事者にはなりたくないけど」
『サークル参加と違ってあの人らは仕事だろうしな』
『でもちょっと憧れはあるよね』
そういうもの、なのかな? ちょっとよく分からない。
建物に入って、階段を上がっていって、そうして広い部屋の一角に案内された。企業とサークルさんというものが一緒のスペースにいる、ちょっと特殊な部屋なんだとか。
何かのコーナーになってるみたい。コーナー名は……。
「異世界魔女コーナー」
「ぶっは……」
師匠に笑われた。あとで怒る。
壁|w・)さすがに普通の入場はやばいと判断されました。





