エルフの王女拉致事件
「それで、何かあったの?」
「お父さんが実はわりと有能だったと気づいたかな……」
「へえ……」
スランドイルのことだね。有能、だったんだ。でも考えてみれば当然かもしれない。私からすれば嫌いな相手だけど、それでもエルフの国をずっと統治していたんだから。
「すっごく……比べられて……。スランドイル王ならこんなことはなかったのに、とかいろいろあって……。もうやだ……」
「王様って大変だね。ちょっと怒ってこようか?」
「それはだめ!」
だめらしい。アルティの言うようにみんなが動くように、ぐらい言ってもいいんだけど。
「私もまだ分かってないことが多すぎるだけだから……。いろんな人に支えられてなんとかやれてるだけで、誰も助けてくれなくなったら私も何もできなくなっちゃう」
「その時はアルティぐらいなら精霊の森で保護してあげる」
「嬉しいけど、見捨てたくないから……。生まれ育った森だから」
それは……そう、だね。私も、精霊の森から引っ越せ、なんて言われても、納得はできないと思う。もしも師匠に言われても、私は残るって言うと思うから。
『生まれ故郷って特別だしな』
『でも聞いてるかぎり、そこまでひどい状況じゃなさそう?』
『王様としての教育とかほとんどされないままに王様になっちゃっただろうからな』
それを考えると、やっぱりアルティには悪いことをしちゃったかもしれない。
アルティは私に何かしてほしいわけじゃなくて、ただ会いたかっただけらしい。ちょっとかわいい、と思ってしまった。もっとなでなでしておこう。
「今は忙しいの?」
「気晴らしで一日お休みもらった……。今日のお仕事は宰相さんがしてくれるって……」
『お休みがある、だと……!?』
『そりゃお休みぐらいあるだろw』
『貴重な休みにリタちゃんと会いたかったんやな』
『てえてえ?』
『さすがにその判定はおかしいw』
んー……。気晴らしのお休みに呼んでくれたのは嬉しいけど、ここでただお話しするだけだと物足りないんじゃないかな。
うん……。よし。
「アルティ。今日一日はお休み、でいいんだよね?」
「え? うん」
「じゃあ、お出かけしよう」
アルティの手を握る。アルティは困惑した様子で私を見る。不安そうだけど、大丈夫。危険な場所じゃない。私の側にいれば、だけど。
「それじゃあ、行くよ」
アルティと一緒に転移する。行き先はもちろん、私のお家。
一瞬で見える景色が切り替わったことにアルティが目を大きく開いて驚いていた。そして目の前のお家にも。
「こ、ここどこ?」
「精霊の森。そして私のお家」
「精霊の森!? それに、家!?」
そんなに驚かなくていいと思う。楽しい場所だよ。
アルティの手を引いてお家に入る。アルティはまだ緊張した様子だ。そんなに緊張するようなことがあるとは思わないんだけど。
家の中はいつも通り。師匠がマグカップで何かを飲みながら本を読んでいた。
「うん? おかえり、リタ。そいつは……」
「アルティ」
「ああ。リタの双子だな」
アルティは師匠を見て固まってしまった。まるで幽霊を見たかのような反応で……。あ、そういえば、師匠を見つけたことを言ってなかった。
「あ、あの、リタ。行方不明っていう話は……」
「つい最近見つけた。元気」
「そ、そうなの……?」
そうなのです。師匠もなんとなく察してくれたのが、薄く苦笑いを浮かべていた。
「失礼。久しぶりですね、アルティ王女」
師匠がアルティに頭を下げた。座ったままだけど。そんな師匠に、アルティが両手を広げて手を振った。
「や、やめてください! 先代とはいえ、守護者様にそのようなことをされる身分じゃありません!」
「はは。君の言うとおり、あくまで先代だからな。俺には何の権限もないよ」
「精霊様と普通にお話しできるから師匠が言えば魔力を枯らすことも……」
「リタ。ちょっと黙ってようか」
「ごめん」
『そうか、よく考えたら師匠さんも普通に精霊様に報告とかできるのか』
『関わった過去の人の胃が心配だなあ』
私が言うのもなんだけど、あまり言わない方がいいことかもしれない。アルティも、気晴らしになると思って連れてきたのに、すっかり顔が青くなってるし。
師匠もどうしたものかと困ってる。何を言っても逆効果にしかならなそう。
「アルティ。師匠なら大丈夫。アルティに怒ったりもしてないから」
「そうだぞ。むしろあの森のエルフたちでは一番まともだと思ってるし」
師匠が言うには。あの後、精霊の森に無事に帰ることができていたら、こっそりと私とアルティを会わせるつもりだったみたい。アルティなら受け入れるだろう、と思ったんだって。
私もそれは大丈夫だったと思う。アルティはいい子だから。
「それで? アルティをここに連れてきて、どうするつもりなんだ?」
師匠の問いに、私は頷いて答えた。
「気晴らし。お菓子を一緒に食べようかなって」
「はは。それはいいな。疲れてる時の甘いものは最高だ」
師匠も納得してくれた。それじゃあ、いっぱいお菓子を食べようと思う。
「え、あの、リタ? なにするの? お菓子?」
「ん。お菓子。知らない?」
「森の外との交易でちょっと入ってくるけど……」
この世界の人族のお菓子。それももちろん美味しいけど、今回食べるのは日本のお菓子だ。いろんな種類があって、この世界のお菓子よりもずっと美味しい。だから期待してほしい。
「とりあえず、外に行こう」
首を傾げたままのアルティを連れて、私はまた家の外に出た。
壁|w・)精霊の森にらt……ご招待!
カクヨムで『ゲーム魔女の現代観光』というお話を投稿し始めました。
カクヨムコンにも出しているので、応援していただけると嬉しいです。
1日遅れになりますが、小説家になろうにも投稿していきます……!





