ピザトースト(ソースなし)
日の出と同時に起床して、朝ご飯。今日の朝ご飯は食パンにチーズを載せて、ベーコンを何枚か並べて焼いたもの。火の魔法で軽く焼いただけだけど、それでもチーズはとろとろに溶けてくれた。
「師匠。師匠。朝ご飯」
「うん?」
部屋から出てきた師匠に、お皿に載せたパンを渡す。師匠はそのパンを一瞥して、頷いた。
「ピザトーストか」
「ピザソースは忘れた」
「そうか……」
あれも買い置きしておいた方がいいかな。アイテムボックスに入れておけば、腐る心配はないわけだし。
それじゃあ、いただきます。
「んー……。ちょっと物足りないけど、こんなものだと思う」
「物足りないって言っても、ピザトーストと思って食べると、なだけだから。普通に食べる分には美味しいぞ」
「よかった」
問題ないみたいで安心だ。それじゃあ、そろそろ配信でも。
いつもみたいに光球を浮かせて、食べかけのトーストに向ける。これでいいかな?
『配信だー!』
『いきなりなんかピザトーストっぽいものがw』
『いや、ピザソースが見当たらない……。さては、買い忘れたな!?』
どうして分かるの? その通りだけどちょっと怖い。
「朝ご飯」
『うむ。美味しそうな朝ご飯である』
『とろとろチーズなだけで美味しそうだよね』
チーズは正義ってやつだね。とろとろに溶けたチーズは絶品だと思う。
『それで、今日はどうすんの?』
『今日も日本ですか!?』
『即売会の前にもう一度食べ歩きをですね……』
んー……。日本でもいいんだけど、たまにはこっちの世界も見てみたいと思う。でも、もう師匠も見つけたし、正直どこかに行こうとはあまり思えなくて。本当にどうしよう。
『そういえばリタちゃん、魔法学園には行かないの?』
『校長さんとかに師匠連れて行くべきだと思う』
「ん……。そうだね」
「あー……」
コメントを見ていた師匠が、なんだか変な声を出した。そっちを見てみる。なんだか気乗りしてないみたい? ちょっと苦い表情だ。
「行きたくないの?」
「いやあ……。かなり心配させただろうから、正直行きづらい……」
「後回しにするとさらに行けなくなっちゃう」
「そうだよなあ……」
別に悪いことはしてないんだから、気にせず行けばいいと思う。実は生きてました、みたいな感じで大丈夫だよ。みんな優しいから、それぐらいで怒るとは思わない。
やっぱりここはまた無理矢理連れて行って……。
そう考えたところで、それがきた。
「リタ。今はこの世界にいる?」
念話だ。声を届ける魔法。これは、シルフ様の声だね。私宛の声だったけど、師匠にもちょっと聞こえたみたいで眉をひそめていた。
『急に黙ってどしたん?』
『話聞こか?』
視聴者さんはもうちょっと黙っていた方がいいと思う。続けてシルフ様から念話が届いてくる。
「アルティが来たよ」
「んー……」
シルフ様の湖に来た、ということだよね。私に会いに来たのかは分からないけど、せっかくだし行ってみようと思う。魔法学園はまた今度、ということで。
「シルフ様から念話が来たから、エルフの里に行ってくる」
「大丈夫か?」
「平気。アルティに会うだけだから」
もしもスランドイルとかが出てきたら、その時はその時ということで。帰ってくるだけだよ。
『なんでエルフの里って思ったけど、シルフ様からの連絡ってことはアルティ案件か』
『妹ちゃんに会いに行くってことですね!』
『姉では?』
はっきりと分からないからどっちでもいいと思う。私もアルティも気にしてないし。
それじゃあ、と師匠に手を振って、エルフの里の湖に転移した。
エルフの里の湖。統括精霊シルフ様が暮らす静かな場所。エルフにとっての、聖域。
そんな湖の側に木製のテーブルがあって、アルティが突っ伏していた。なんだか、疲れてるみたい? 顔をのぞき込んでみたら、眠っているみたいだった。
私に会いにきたわけじゃないのかな? とりあえずほっぺたをつんつんしてみよう。つんつん。
すぐにアルティは目を覚まして、私と目が合った。
「あ、リタ……」
「ん。久しぶり……というほど久しぶりなわけじゃないけど……。こんにちは」
「リタ!」
「わぷ」
アルティが急に抱きついてきた。私を抱きしめて、頬ずりまでしてくる。どうしたのかな。何かあったのかな?
「アルティ。どうしたの?」
聞いてみる。アルティはちょっと頬を膨らませて、拗ねてるみたいだった。
「疲れた……」
「うん」
「疲れた……!」
「よしよし」
あのエルフたちの相手をしていたら、それはもうすごく疲れると思う。何があったのかは分からないけど、私でよければ甘やかせてあげよう。とりあえず抱きしめて、なでなでしておく。なでなで。
『まさかリタちゃんにママ味を感じることになるなんて……』
『いやこれはお姉ちゃん属性と見た!』
『リタおねえちゃん!』
視聴者さんはちょっと黙っていてほしい。
壁|w・)リタおねえちゃん!
ちっちゃい子がちっちゃい子に甘えるのはいいとおもいm





