バゲットサンド
翌朝。いつも通りに日の出と共に目を覚ました。いつもと違う光景が起きて最初にあるのは、ちょっと違和感がある。キャンプなんだから当たり前なんだけど。
師匠もちょうど起きたところみたいで、寝袋から出るところだった。私も出よう。よいしょ……。
『もぞもぞ助かる』
『かわいい』
「ん……。そういえば、配信したままだったね。まだ起きてる人がいるの?」
『徹夜しましたが何か?』
『こんな貴重な映像を見逃すなんてとんでもない!』
ただ寝てるだけなのに、何を言っているのか意味が分からない。バカ、という言葉が頭によぎったけど、言わないでおこう。
「バカなんじゃないかお前ら」
そう思っていたら師匠が普通に言ってしまった。
『辛辣ぅ!』
『言うな! わりと本気で思ってるから!』
『でも誘惑には抗えなかったんや!』
なんの誘惑だよ、と師匠が呆れてる。私も同じ気持ちだ。
テントから出て、景色を眺める。富士山がとっても綺麗だ。いい景色、だね。
「リタ。朝ご飯の準備するぞ」
「ん」
朝ご飯。何をするのかな。
「師匠。何するの?」
「とりあえずこんなものを買ってきた」
師匠がアイテムボックスから取り出したのは、なんだかとっても細長いパン。袋にはバゲットと書いてある。ちょっと固いパンだ。
「丸かじり?」
「さすがにしないよ。軽く作るから任せろって」
『シッショが……作る、だと……!?』
『大丈夫か!? カレーを作ろうとして茶色い水になったり、アイスを作ろうとして牛乳を凍らせるやつだぞ!』
「ケンカ売ってんのかお前ら」
ため息をつきながら、師匠はバゲットを袋から取り出した。それを等間隔で切っていって、食べやすい大きさにしていく。それをさらに、平べったく切った。
次に取り出したのは、フライパン。フライパンを熱して、大きなベーコンを入れた。ベーコンが焼けるとってもいい音が聞こえてくる。
『あああああ!』
『ベーコンを焼いてるだけなのになんでこんなに美味しそうなんだろう』
『コウタにメシテロされるなんて……悔しい!』
なんだか不思議な反応をしてるけど、師匠は別に料理が下手というわけじゃない。日本のご飯を再現できなかった、というだけ。
私を拾ってくれてから、ずっといろいろ工夫してご飯を作ってくれていたぐらいだから。
ベーコンを焼いて、塩こしょうで味付けして。その間に魔法でレタスを用意してる。ざく切りにしたレタスを何枚も用意して、お皿の上へ。
さらにバゲットもフライパンで少し焼いて、その間にベーコンとレタスを挟んでいく。さらにチーズも入れて、チーズだけ熱してとろとろに。加えてケチャップとマスタードをたっぷりと。
「こんなもんでいいかな。プロの料理と比べるとしょぼいだろうけど……」
『十分すぎる』
『とてもお腹が減りました』
『シンプルだけどそれがいい!』
私もこういうのはシンプルな方が好き。あまりたくさん具材を入れられると、それだけで食べづらくなってしまうから。
師匠から渡されたバゲットを両手でもって、ぱくりと食べる。
おー……。ベーコンがしっかりと焼かれていて、香ばしい。塩こしょうはちょっと多めかもしれないけど、でもこれぐらい濃いめなのも好き。ちょっとくどいように感じそうだけど、レタスがほどよく中和してくれてる。
さらにチーズがとってもとろとろ。食べていて楽しくて美味しい。ケチャップとマスタードもほどよい量。うん。とっても美味しい。
「んふー」
『めっちゃうまそうに食べるやん』
『ちょっとバゲット買ってくる』
『ちょっとベーコン買ってくる』
『お前ら単純すぎるだろw バゲットサンド買ってくるわ』
バゲットの固さもいい感じ、だね。うん。好き。
「いっぱいあるぞー」
「ん」
「いっぱい食べろよー」
「ん!」
いっぱい食べる。
具材も一つずつ変えていってくれてる。ベーコンの次は、シンプルに厚切りのお肉。松阪牛の残りらしくて、お肉がすごい。やわらかいお肉のサンドもとてもいい。
たっぷりの生ハムを挟んだものも美味しかった。ちょっと塩辛いけど、それがいい。生ハムはとても美味しい。
『すごい勢いで食べてる』
『いっぱい食べる君が好き』
『もっきゅもっきゅって聞こえてきそうw』
いっぱい食べて、満足。朝からとても贅沢した気分。
あとはお片付けだ。料理に使った道具を魔法で綺麗にして、アイテムボックスにしまっていく。
あとは……もうちょっと後で、だね。まだ周りの人も起き始めたところみたいだから。
椅子に座って、景色を眺めながらみんなの様子を見る。テントから出てきて、朝ご飯を作り始めてる。ただみんな朝はわりと簡単に済ますみたい。
世菜さんたちもテントから出てきたけど、朝ご飯はパンみたい。そういえば、昨日の夜にみんな朝に弱いって聞いた気がする。朝まで料理をする元気はないらしい。
さっきのバゲットサンド、残しておいた方がよかったかな。もう全部食べちゃったから今更だけど。
そうしてのんびりと過ごして、お片付けの時間だ。世菜さんたちもテントを片付け始めたから、私たちもそうしよう。
「よし……。やるぞ、リタ」
「がんばる」
『なんだこの気合いの入れ方は』
『テントを片付けるだけなのに、魔王に挑む勇者かのようだ』
『魔女の挑戦(テントの片付け)』
説明書を広いて、片付け方を見ていく。それを順番にやっていけばできる、はず。
そうして、たっぷり三十分かけて、テントを袋に入れることができた。ちょっと疲れた。
最後にテーブルと椅子も片付ければ、私たちが使っていた道具は全部この場からなくなった。あとは帰るだけ、だね。
「わ……。もう片付いてる」
いつの間にか、世菜さんたちがこっちに来ていた。小さなバイクを押してる。えっと……原付、だっけ? そういう種類だったと思う。
「君らも帰りか?」
師匠が聞くと、部長さんが頷いて答えた。
「そうっす。県立の高校に先生がいるんで、報告だけして帰ります」
「んー……。送る? 地図を見せてくれたら、その学校の前まで転移で送るよ」
荷物が多くて大変そうだからそう提案してみたけど、世菜さんたちは少し考えて首を振った。さすがにそこまでお世話になれない、だって。むしろたくさん助けてもらったから、これぐらいはしてあげてもいいと思ったのに。
「その代わり、またこっちの学校にも遊びに来てね」
「ん。分かった」
三人に手を振って、私と師匠はその場から転移した。
壁|w・)バゲットサンドの動画は暴力的だと思います!





