師匠の行きたい場所
「犯人」
「ええ……」
「はなしなさいよ!」
マーヴェルさんの部屋に連れてきた。私の魔法でぐるぐる巻きになった犯人を見て、マーヴェルさんは頭を抱えてる。どうしたのかな。
「あの……。魔女殿。この者で間違いありませんか?」
「ん」
「そうですか……。この者は護衛の魔法使いですね……」
護衛。そういえば、カカスさんのところ以外の場所で魔法使いは見てなかったと思う。護衛がいるっていう話だったから、魔法使いがいてもおかしくなかったのに。
そのうちの一人がこの魔法使いってことだね。
「それで、魔女殿。何か証拠などはありますか?」
「証拠……」
どうだろう。この人の部屋を探したら何か見つかったりしないかな。今のところはないんだけど……。
「そんなものないわよ! だって無実だもの! むしろこの魔女が怪しいのでは!? この魔女を捕まえるべきよ!」
「ねえ」
「なによ!?」
「攻撃された以上、私はあなたを殺してもいいと思ってる」
「は……。え?」
「犯人じゃなかったら、殺す。だって攻撃されたから。犯人なら、依頼だから引き渡す」
「…………」
『推定犯人さん、黙っちゃった』
『リタちゃんの目がマジだからな』
『この子、身内に甘いだけで容赦はないから……』
そんなことはない……と、思う。
「ちゃんと自白したら、マーヴェルさんが保護してくれるかも?」
「話します」
ということになった。
まあ……。人も殺してるみたいだし、その後どうなるかは知らないけど。
犯人さんを雇ったのは、そのまま護衛先の上級妃だったみたい。理由は単純で、ライバルを消すため。最初は弱めで人を襲って気付かれないかを確認して、それから事件を起こした……みたい。
次が本番でカカスさんを狙おうというところで、私が来たからちょっと焦って攻撃してきた、らしい。
ちなみに。その前の嫌がらせみたいなことは、完全に別件だって。あれは後宮ではよくあることで片付けられた。
うん。とりあえず。
「心の底からつまらない依頼だった」
「お疲れ、リタ」
いろいろ事情を聞いてから、私は一度精霊の森に戻ってきた。明日の朝にもう一度行かないといけないけど、なんだかこう、精神的に疲れた。
人の悪意がいっぱいな場所。きらい。
『平和な後宮なんてほとんど聞かないよね』
『だいたい誰かが何かを企んでる気がする』
『もう夜も遅いし、さっさと休もうぜ』
うん。今日はもう寝ようと思う。その前に。
「師匠。疲れた」
「みたいだな」
「撫でて」
「よしよし」
「んふー……」
『リタちゃんがふにゃふにゃだ!』
『これは本当に疲れてるやつ』
『また日本に来て遊んでリフレッシュしようぜ!』
是非ともやりたい。次はどこに行こう。美味しいものが食べたいな。師匠と一緒に温泉もいいかも。何しよう。
「師匠。温泉行こう」
「転移で行けるなら冬がいいな。今行っても暑いだけじゃないか?」
『気持ちは分からないでもない』
『寒い時の温泉って……いいよね……』
『体の芯からぽかぽか温まる感じがいいんだ』
そうらしい。冬の温泉も行こう。それはそれとして、だよ。
「温泉、楽しいよ?」
「あー……。いや、な。リタ。どうせなら、行ってみたかったところがあるんだ」
「ん?」
「前世って言えばいいか……? その時でも一回も行けなかったからさ。是非とも、行ってみたい」
それは、なんだろう。師匠が一度は行ってみたかった場所。すごく気になる。
私が興味を持ったのが分かったみたいで、師匠がチラシを一枚差し出してきた。えっと……。
「どうじんし、そくばいかい……?」
「そう」
『うおおおおおい!?』
『お前どこに行こうとしてんの!? リタちゃんに何を見せようとしてんの!?』
『テメエ恥ずかしくないんかボケ!』
『恥を知れカス!』
おおー……。すごい言われようだ。それぐらいのことだって師匠も思ってるみたいで、反論を一切しない。ただ黙って受け入れてる。
コメントが落ち着くのを待ってから、言った。
「オタクとして一度は行きたいんだよ分かるだろお前らも……!」
『お、おう』
『前世はオタクじゃったか』
『まあ以前は配信でアニメとかゲームの話もしてたぐらいだしw』
そうなんだ。アニメ、いいよね。ゲームも楽しそう。私はあまりやったことがないけど。
ともかく。もうすぐこの、同人誌即売会というのがあるみたいで、そこに行くことになった。
楽しみもできたところで、今日はそろそろ寝よう。まずは、あのとってもつまらない依頼を終わらせないとね。
壁|w・)実はマーヴェルさんを犯人にしようと思っていたのですが、それをすると長くなりそうだったので見ず知らずの犯人さんになってもらいました……。





