荒ぶる師匠と精霊様
「ずいぶんと楽しそうだな」
部屋に入ってきたのは、男の人。二十歳かもうちょっと上ぐらい、かな? 大人の人だ。この場所で男の人は初めて見たかもしれない。
『後宮に男ってことは、もしかしてこの人が王様では?』
『わっかいなおい』
王様。偉い人だ。
「ようこそ、陛下。いらっしゃるのなら事前に連絡を頂きたいのですけど……」
「後宮は俺の庭だ。庭に出入りするのに連絡がいるか?」
「そう……ですね」
カカスさんは表情を隠してるけど、ちょっと苦々しそうな、そんな感じ。王様がいきなり来るのは普通ならないこと、なのかも。
王様の視線は、まっすぐ私に向いてる。私を見つめたまま、こっちに歩いてきた。
「初めまして、だな。魔女殿。まさか本当に魔女が来るとは思っていなかった」
「ん……」
「ところで。フードで顔を隠すというのは、俺の前で失礼だとは思わないか?」
それは、そうかもしれない。でも私はフードを取るつもりはない。一応、魔女として来てるから。
王様がフードに手を伸ばしてくる。私は一歩後ろに下がってそれをかわした。
「なぜ逃げる」
「フードを取るつもりはないから」
「魔女ごときが、一国の王の前で失礼だろう。この国には魔女に並ぶ魔法使いも多くいる。特別扱いされるわけではないぞ?」
なんだこいつ。なんだこいつ。
『よし許可する殺せ』
『許可しますリタ。殺しなさい』
『お前ら保護者組だろもうちょっと落ち着け!』
なんだろう。怒ってる人を見ると冷静になるってこういうことなんだね。師匠と精霊様のコメントを見たら落ち着いてきた。ただ、精霊様。変なことしちゃだめだよ?
でも、んー……。どうしようかな。とりあえずは……。
「私に並ぶ魔法使いがいるなら、どうして魔女を呼んだの?」
「大臣どもがうるさかっただけだ」
王様は呼ぶ気がなかったと。なるほど。
もう帰っていいかな?
「早くフードを外せ。顔がよければ、側室ぐらいにはしてやらんでもないぞ?」
『俺の弟子を側室扱いとはいい度胸だなクソ王が』
『なるほど分かりましたその国滅ぼしましょう』
『まてまてまてまて!』
『どうして今日の二人はこんな荒ぶってんの!?』
知らない。よく分からないけど、機嫌でも悪いのかもしれない。それで国を滅ぼしていたらきりがないと思うけど。
ちょっとだけため息をついて、私はカカスさんに言った。
「カカスさん」
「うん?」
「楽しかった。ありがとう」
とりあえずもう面倒だから、私は帰ろうと思う。カカスさんはちょっと大変かもしれないけど、頑張ってほしい。何かあったら助けにくるから。
「おい!」
「ぎゅっと」
影で王様を縛っておく。王様はその場に倒れてしまった。もぞもぞ動いて、芋虫みたい。
「貴様! こんなことをしてただですむと……」
「知らない。何ができるなら、やってみるといい」
抵抗する時は本気でやるよ。その時は、ちゃんと敵とみなすから。
王様に軽く手を振って、私は部屋を後にした。カカスさんには悪いことしちゃったけど……。きっと大丈夫だと思いたい。
それにしても……。
「この依頼、全然楽しくない……」
てくてく歩きながらそう言ったら、同意のコメントがたくさん流れてきた。
『リタちゃんにとってはつまらない場所だろうしな』
『さくっと終わらせて帰りたいよね、これ』
『結局今日は日本にも来てないし』
晩ご飯、カカスさんにもらったからね。でも今から食べに行ってもいいけど……。ご飯、あるかな?
「真美。真美。ごはん、何かある?」
『え、ごめん、食べてたからいらないかなって……。レトルトカレーでいいかな?』
「ん」
レトルトカレーも美味しいから十分だ。それじゃあ、転移して……。
んー……。
「ごめん、真美。やっぱりいらない」
『え、そうなの?』
『なん……だと……!?』
『リタちゃんがカレーを断った……!?』
私をなんだと思ってるの? カレーライスよりも優先されることだってある。退屈な依頼を早く終わらせたい今とかだと、特にね。
「真美のカレーライスなら最優先にしたけど」
『あ、はい』
『レトルトなら別にいいやってことですね』
もちろん本音を言えば食べたいけど……。でもここでそれを優先すると、この退屈な依頼がまた続くかもしれないから。
だから、うん。
「ぎゅっ」
「うわあ!?」
とりあえず捕まえておいた。
『ちょ!?』
『いきなり転移したかと思ったらいきなり人を縛ってる』
『リタちゃんにそんな趣味が!?』
そんな趣味って、どういう意味? よく分からない。
周囲を見る。どこかの建物の屋根の上。んー……。上級妃の誰かの建物、かな?
「くそっ! なによこれ! はなしなさい!」
捕まえたのは、女の人。魔法使いさん、だね。多分それなりに使える人だと思うけど……。それにしても、まさかこんなに早く動くなんて思わなかった。
『リタちゃん、そいつってまさか……』
「ん。犯人さん。私を攻撃してきた」
『え』
『うわあ……』
『よりにもよってw』
他の人を攻撃したとしても、その魔力の痕跡を追えばすぐに捕まえられるけど。でも、今回は私だったね。前に来た人にも攻撃したみたいだし、調べられるのは嫌なのかな。
これでこの依頼が終わったらいいんだけど。それじゃあ、連れていこう。
壁|w・)危うく国を滅ぼすところでしたが、リタが呆れていたので精霊様は自重しました。
犯人さんの特殊魔法。魔力で細い針を作って、相手の急所を射貫く。
暗殺に特化した危険な魔法。魔法ずどん! 相手はしぬ! つよい! さいきょ!
(注・この評価は一般人のものです)





