上級妃さん
上級妃は一人につき一つ、建物があるみたい。豪邸っていうほどではないけど、三階建ての家だ。家の前には女の兵士さんも立ってる。
『なんかこの世界の後宮ってちょっとイメージと違う』
『異世界だしな!』
『多分後宮も不思議翻訳でそうなってるだけだろうし』
地球にあった後宮とはまた違うのかな? 用途みたいなのは一緒だと思うけど。
私が向かうと、兵士さんがこちらを怪訝そうに見つめてきた。
「ここに何用でしょうか?」
「んー……。調査?」
『なんで疑問形やねんw』
『兵士さんもちょっと困惑しちゃってるじゃん!』
いや、だって、とりあえず来てみたかっただけだから……。
兵士さんは少し考えて、なるほどと頷いた。
「事件の調査に魔女が来ているとのことでしたね……。あなたがそうですか」
「ん」
「それでは、どうぞ。失礼のなきようお願いします」
「ん」
『リタちゃんすでにめんどくさそうになってるんだけど』
『気持ちはわからんでもない』
失礼のないように、なんて言われても、何が失礼になるのかよく分からないから。
兵士さんの横を通ると、メイドさんが一人待っていた。私を見て、頭を下げてくる。そのメイドさんが言った。
「ようこそ、魔女様。お待ちしておりました」
「見ていっていい?」
「はい。ご案内させていただきます」
メイドさんに先導されて、私はそれに続くことになった。
一階はこのメイドさんたちが働くための部屋、みたいな感じだ。メイドさんだけじゃなくて、ここ専用の炊事場なんてものもある。上級妃はそれぞれ料理も専用に用意できるみたいだね。
やっぱり美味しいのかな? ちょっと気になる。
二階は、上級妃が自分たちで暮らす部屋。それに客間もある。たまに王様がやってきて、ここで上級妃と談笑とかするらしい。
「もちろん夜にいらっしゃれば……」
「うん」
「…………。いえ、なんでもありません」
「え?」
何故かごまかされてしまった。不思議。
『リタちゃんちっこいからな! そういう知識がないと思ったのかもな!』
『事実ほとんどないからな!』
『赤ちゃんはコウノトリが運んできてるとか思ってそう』
赤ちゃん……。分からない。
「あとで師匠に聞いてみる」
『やめてくれ頼むから! お前らも変なこと言ってんじゃねえ!』
『さーせんwww』
『以後気をつけてますw』
『気をつけて話をそっちに誘導するぜ!』
『やめろ!』
本当になんなんだろう。師匠が言いたくないなら、無理に聞こうとは思わないけど。
二階で最後に案内された部屋に、大きな椅子に座る女の人がいた。真っ赤なドレスを着た人で、この人が上級妃なのかも。ただ、私から見てもセルカさんの方がきれいだったと思う。
「ようこそ、魔女殿」
にっこりと笑って、上級妃が言った。
「げせんな者がここに入って来られるなど光栄なことだろう? ゆっくり見ていくといい」
「なんだこいつ」
『リタちゃん落ち着けw』
『俺らも思ったことを一瞬で口にするんじゃないw』
いや、だって。初対面の相手に対してげせんとか、常識がないと思う。とっても不愉快だ。もうとりあえずこいつを犯人にしたらいいんじゃないかな。そんな気がしてくる。ばくっとしていい?
「ほれ、歓迎の品だ。食べていいぞ」
そう言って、テーブルにある果物を勧めてくれた。遠くの国から魔法で可能なかぎり鮮度を維持して取り寄せた高級品、らしい。ブドウみたいに見える。じゃあ、遠慮なく。
んー……。甘酸っぱい。けど、うん。結構美味しい。これはいいものだね。
「とてもいい人」
「そうだろう?」
『おいwww』
『果物で懐柔されるなw』
『あかんこの魔女チョロすぎるw』
失礼な。ちゃんと調べるよ。
ちょっとだけ上級妃さんとお話をして、三階へ。三階は寝室だって。寝室だけでもとても広い。そしてなぜか上級妃さんも一緒に来た。暇なのかな?
「ほれ。どうだ。とても柔らかなベッドだろう?」
「おー……。ふかふか」
「うむ。とっても寝心地がいいのだ」
「羨ましい」
「うむうむ。よければ、そうだなあ……。明日にでもお昼寝でもしようか。どうだ?」
「ぜひ」
「うむ」
『なんだこいつ、からの謎の仲良し』
『ミレーユさんの時も似たような感じだったなあ』
『わりとリタちゃん、第一印象に左右されないよね』
話してみると話しやすい、というのはよくあることだと思う。この人は話しやすいというか、ただの自慢したいだけの人。しかもただ自慢するんじゃなくて、体験させてその反応を見て喜ぶ人だね。だから果物もくれたんだと思う。そしてベッドでお昼寝を誘ってくるんだと思う。
「つまりは変人」
「おい」
『ちょwww』
『納得の評価だけど本人に聞こえるように言うなw』
『上級妃さんも怒っちゃうぞ!』
ん……。ちょっと、不機嫌そう。じゃあ、お詫びの品で……。
「これ、あげる」
「なんだこれは?」
「みかんもどき」
「なんだと!?」
わ、ひったくるように取られてしまった。あげるつもりだったからいいけど、せっかちさんだ。
「これが……幻の果実……みかんもどき……!」
「幻……」
『幻www』
『もどきにめちゃくちゃな評価がついてるw』
『精霊の森だといくらでも取れるのにな』
一年中とれる不思議果物だからね。本当にいつでも食べられるんだけど……。いや、喜んでくれてるなら、いいか。
みかんもどきを十個ほど渡してあげたら、なんだかすごく喜んでくれて、明日も歓迎してくれる、ということになった。喜んでくれたならいいかな。
壁|w・)ちょっと言動はあれですが、そんなに悪い人じゃない上級妃さんです。





