表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
350/483

下級妃さん

「こんにちは」


 洗濯をしているメイドさんの後ろから声をかけると、びくっとメイドさんが震えたのが分かった。勢いよく振り向いて、私をまじまじと見てる。私には気付いてなかったみたい。そうしてから、慌てたように立ち上がった。


「し、失礼致しました! 魔女様ですよね! 何かご用でしょうか!」

「ん。聞きたいことがある」

「はい! なんでしょう!」

「下級妃と中級妃ってなに?」

「…………。ええ……」


 なんだかとっても呆れられたのはなんとなく分かった。


『いきなりの質問がそれだとみんな困惑すると思う』

『そもそも後宮に調査しにきた魔女が後宮の仕組みが分からないって言ってるのがw』

『教えなかった人たちが悪いからね! 仕方ないね!』


 なんだかみんな、知ってて当たり前、みたいな感じだよね。


「えっと……。あの、洗濯しながらでもいいですか……?」

「ん」


 軽く杖を振って魔法を使う。メイドさんの洗濯物はみんな綺麗になった。さっきまで洗っていた服もしっかりと水気も含めて飛ばしてある。あとは綺麗に折りたたむだけ。

 メイドさんはそれを見て、あんぐりと口を開けていた。


「すごい……! これが魔法……!」

「綺麗にする魔法。知らない?」

「後宮に魔法使いはいないんです」


 メイドさんが言うには、この国の後宮に魔法使いは本来入れないらしい。魔法は本当にいろんなことができる。もし犯罪に使われたら、一般の人では防ぐのが難しいぐらいに。だから魔法使いの出入りはかなり厳しく管理されるのだとか。

 例外は、上級妃の護衛とか、本当に上の人に関わる人たちだけ。だから洗濯とかそういうのは魔道具頼みらしいけど……。その魔道具も、みんなが持ってるわけじゃないらしい。高いんだって。

 だから、下級妃のメイドさんはみんな手洗いらしいけど……。でも、どうしてこの人はみんなが終わってから洗ってるんだろう。周りで洗濯物が干されてるから、他の人はもう洗った後だよね?

 聞いてみると、なんとも言えない表情で目を逸らされた。


『いじめやな』

『なんかどろどろしてそう』


 人間関係はどこも大変だね。私には関係のない場所だし、あまり深入りしないようにしようと思う。それよりも。


「さっきの質問の答え」

「あ、そうでした」


 せっかくなので移動しながら、ということで、歩きながら教えてもらった。

 下級妃と中級妃は、とても簡単に言えば貴族か平民か、みたいな差らしい。下級妃は平民から選ばれた人たち。美人で有名とかであれば、平民でも国から声をかけられるのだとか。あとはお金を持ってる商家とか、貴族でも下の方、男爵家とか。

 中級妃は、貴族の中でも上の方の人たち。子爵家の一部と、伯爵家以上。これぐらいになると、魔道具も潤沢に持ってるらしい。


 ついでに、上級妃は今のところ三人だけ。王様が何度も通う特別な妃候補。ここから正妃が選ばれるだろうって言われてる。ただ恨みも買う立場だから、護衛も雇われてるのだとか。

 上級妃。どんな人かな。どんな部屋に住んでるのかな。ちょっと気になる。あとで見に行ってみよう。

 話ながら歩いて、目的地に到着。妃候補たちが住む館の、一番端っこ。それがこのメイドさんの主さんが住んでる部屋、らしい。


「失礼致します」


 メイドさんが部屋に入ると、シンプルなドレスを着た女の人が椅子に座っていた。


「おかえり。あれ? お客様?」

「はい。事件の調査のためにギルドから派遣された魔女様です」

「へえ……!」


 女の人は立ち上がると、嬉しそうな笑顔で言った。


「初めまして。セルカです。恥ずかしながら、平民です」

「ん……」


 改めて、セルカさんを見る。とっても綺麗な金髪で、腰まで届く長さ。しっかり手入れをしてるみたいで、まっすぐに整ってる。ドレスも派手さはないけど、だからこそこの人に合ってると思う。美人さんだね。


『めっちゃ美しい』

『一目惚れしそう』

『落ち着け。一目惚れしたら地獄だぞ』

『俺らでは会えないからな!』


 そうだね。視聴者さんは気をつけてほしい。

 私がセルカさんをじっと見ていると、メイドさんが言った。


「お美しいでしょう? 平民とは思えないほどに。この美しさがあるので、陛下も一度、こちらにいらしたことがあるんです」

「へえ」

「ま、そのせいで陰湿な嫌がらせを受けてるんだけどね」


 そう言いながら、なんだかとても楽しそうにけらけらと笑った。

 なるほど、貴族らしさはないと思う。いや、私が知ってる貴族って、ミレーユさんとかそのあたりぐらいだけど。


「嫌がらせってどんなの?」

「ドアや窓の前の動物の死骸を置かれたり、廊下を歩いてたらよく分からない言いがかりをつけられたりとか、かな」

「ん……。陰湿」

「ねえ。ま、気にしてないんだけどね!」


 強がりとかじゃなくて、本当に気にしてないらしい。話を聞いてみたら、殺されるわけじゃないだけ十分、とのこと。ここに来る前はもっと危ない目にもあったらしい。


「でも正妃とかが決まったら、下級妃のあたしは多分お払い箱よね。またあの生活に逆戻りか」

「セルカ様……」

「いや、いつも言うけど様付けしなくていいから。平民だってば」


 やっぱり楽しそうに笑ってる。とっても強い人、だね。やり返したいとか思ってるわけでもないみたいだし……。いろんな人がいるなあ。


「まあ、でも最近みんなぴりぴりしていて怖いのよね。だから魔女様、犯人、見つけてね」

「ん。セルカさんも、危ないことはしないようにね」

「絶対にしないから!」


 最後まで楽しそうに笑うセルカさんに見送られて、私はその部屋を後にした。

 それじゃあ……。次は、上級妃の部屋に行ってみよう。どんな部屋か、今から楽しみだね。


壁|w・)名前もあっていかにも重要キャラっぽく見せていますが、モブです。

この後の登場の予定はありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
りたかわ!(ついに略し始めた人
目立つモブかあなるほどなるほど
なるほど、つまりこのセルカさんが次の犠牲者 読者に深く印象付けることで早々に犯人候補から除外させるも、最後に実は替え玉だったことがわかり真犯人に!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ