後宮のある国
今回は隠遁の魔女として受ける依頼、ということで、フードを被って転移した。国の場所はちょっと遠い場所。エルフの里がある森よりもさらに遠い場所だ。場所が分かってるから転移で一瞬だけど。
転移した先の国は、大きな城壁に囲まれた国だった。こういう国の特徴として、よく魔獣に襲われる、というものがあるらしい。
国の南側に大きな山があって、北側は広大な森、だね。広大といっても、精霊の森ほど広くはない。その両方から魔獣が出てくるのかな?
東側と西側は大きな道がある。馬車がたくさん行き交ってるから、他の国との交流は盛んなんだと思う。魔獣を警戒してか、どの馬車にも護衛がいるね。
そんな護衛の人たちは、空から下りてきた私に驚いているみたいだった。
国の東門に並ぶ馬車。入国の順番待ちみたい。時間がかかりそう。
「なので特権をフル活用する」
『Sランクのお出ましだオラァ!』
『おうおうお前ら邪魔するならばくっとするぞ!』
『おやびん! やっちゃってくだせえ!』
誰がおやびんだ。
入国の処理をしている兵士さんたちに向かって歩くと、すぐに兵士さんの一人がこっちに気付いた。怪訝そうに眉をひそめてる。私が目の前まで来ると、兵士さんは困ったように言った。
「申し訳ないですが、順番に手続きをしています。列に並んでお待ちいただいて……」
「ん」
「はい?」
ギルドカードと依頼書を渡す。受け取った兵士さんはそれを見て、確認して、息をのんだ。しばらくお待ちください、と言って慌てたように奥へと走っていってしまう。しばらく待たないといけないかな?
『ふー! きもちいいー!』
『相手の驚く顔……最高ですね!』
『おらおらこっちはSランク様だぜヒャッハー!』
『お前らわりとやばいことを自覚しろよ……?』
変な趣味でもあるのかもしれない。気にしないようにしよう。
兵士さんはすぐに戻ってきて、なんだかとても丁寧に案内された。門を通って、国の中へ。
国はとても綺麗だった。石畳でしっかりと整備された道で、馬車もとても走りやすいと思う。どの道もわりと広くて、馬車の行き交いも余裕だ。
大きな通りはお店が多くて、とても活気がある。美味しいものもあるかな。楽しみ。
「魔女様。どうぞこちらへ」
さっきの兵士さんに案内されたのは、ちょっと豪華な馬車。紋章のある旗まである。この国の紋章、かな? 国の紋章って何のためにあるのか、よく分からないけど。
兵士さんが言うには、この馬車で後宮に直接案内してくれる、とのこと。その後の詳細は後宮の責任者に聞いてほしい、とのことだった。兵士さんも詳しくは知らないらしい。
「では、十分にお気をつけください」
「ん……? わかった」
『なんだかめちゃくちゃ意味深やな』
『これもしかして、かなり被害があったのでは……?』
『つまり、リタちゃんも危険……てこと!?』
『そうかな? そうかも。……いや、そうか?』
『ごめん危険になるイメージができないわ』
私だって、別に無敵っていうわけじゃないからね。場合によっては死んだりすることもあるかもしれない。
馬車に揺られながらそう言ったら、たくさんのコメントがまた流れた。
『つまりどういう場合で?』
『攻撃関係は結界で防がれるわけじゃん?』
『毒も魔法でどうとでもなるわけじゃん?』
『ちなみに吸った瞬間に死ぬような毒は?』
『精霊が放っておくと思うのか……?』
『転移の罠だ!』
『地球まで転移するようなやつに転移が通用するか?』
魔法、魔力関係なら、効果を発揮する前に気付くと思う。
んー……。油断はだめってことだよ。私が予想もしていないことで追い詰められたりするかもしれないからね。慢心はだめだって師匠も言ってた。
『さすししょ』
『さすが賢者!』
『さすけん(笑)!』
『お前らケンカ売ってんのか』
師匠も見てるみたい。精霊様と一緒に見てるのかな? 心配性、だね。
しばらく馬車に揺られながら小さな窓から外を眺める。通りはたくさんのお店がいっぱい。あ、串焼き肉もある。あとで買いに来よう。楽しみ。
大きな壁の門を通って、中に入って。馬車が止まった。
「お待たせしました。どうぞ、魔女様」
「ん」
声をかけられたので、馬車から降りた。
なんだかとても大きな建物があった。二階建ての、とっても大きな建物。妃候補、というのがたくさん住んでるらしい。一階には下級妃が、二階には中級妃が、とかなんとかいろいろ聞いた。よく分からないけどとても多い、ということ。
さらにちょっと遠くの建物には、この後宮で働く人の仕事場があるのだとか。炊事場とか、いろいろ。炊事場。
『炊事場と聞いてそわそわすんなw』
『間違いなく美味しいものはあるだろうけどな!』
『いらんこと言うなw』
「ん……。調査をしないといけない」
『おいwww』
『職権乱用すんなw』
知らない。怪しいから調べる。とっても大事。間違いない。ごはんも怪しいから食べてみないと。
『ご飯が怪しいならさすがに食べないのでは?』
『そんな正論が魔女に通じるわけがないだろうが!』
とてもバカにされた気がする……。
「魔女様? 聞いておられますか?」
「聞いてない」
『聞いてないを即答すんなw』
『正直かw』
「あ、その……。で、では、まずは責任者の部屋までご案内しますね」
ということで、案内してもらうことになった。どんな人なんだろう。
ところで……。こっちを見てる魔法使いさんは……。まあ、いいか。まずは挨拶、だね。
壁|w・)炊事場を真っ先に調査したい魔女さんの図。
毒とか入れられるかもしれないからね! 怪しいからね! だから食べてみないといけないね!
でもさすがに挨拶が先です。





