新しい依頼
改めて、ちゃんとお話。セリスさんとミレーユさんが並んで座って、その対面に私と師匠が並んで座った。
「改めて……。ご無沙汰しております、賢者様。無事のご帰還、大変喜ばしく思います」
「どうも。俺とリタの関係は知ってる、でいいんだよな?」
「はい。聞いております」
「そっか。じゃあ、何も言うことはないかな。しばらくはおとなしくしてるから、俺のことは気にしないでくれ。旅に出るつもりも今のところはないし」
そう言って、師匠は手を振って椅子に深く座ってしまった。出されたジュースを飲み始めてる。もう会話に参加するつもりもないらしい。
「あ、あの! では賢者様! 是非魔法についてお話を……」
「パス。俺は基本的にはもう関わらないからさ。何かあったらリタに言ってくれ。リタはまだあちこち見て回るらしいから」
師匠はこの世界を旅するのはもうある程度満足したらしくて、当面の間は森に引きこもるつもりらしい。たまに気晴らしに出るかもしれないらしいけど、遅くても夜には帰ってくる、とのこと。
つまりは毎日師匠と一緒。嬉しい。
「リタさん、嬉しそうですわね……」
「ん」
「ふふ……。よかったですわね」
「ん!」
『ちゃんと再会を喜んでくれるあたり、やっぱりミレーユさんはいい人だなって』
『なんだかんだと最初の友達だからな』
『友達だったん?』
ん? 友達……友達、だと思う。あれ? でも、友達ってなんだっけ。友達って、どういう関係から友達なんだろう。友達ってなに?
「ミレーユさん」
「あら。なんですの?」
「私とミレーユさんは、友達?」
「突然ですわね……。もちろんわたくしはそう思っておりましたけど……。あれ? 違いましたの?」
「んーん。友達」
うん。友達だ。よかった。
『マジで確認するとは思わんかったw』
『言われたミレーユさんがちょっと照れててかわいい』
『師匠さんとギルマスさんの保護者っぷりよ』
にやにやしてるね。何がおもしろいのか、よく分からないけど。
それじゃあ、今日はミレーユさんとのんびりお話ししよう。いろいろとあったかもしれない。そう思っていたんだけど、セリスさんが一枚の紙を私に差し出してきた。
渡されたものは、依頼書、だね。何かの依頼かな。えっと……。
「後宮の、調査?」
「ぶっ」
師匠が思いっきり噴き出した。咳き込んで、私が手に持っている依頼書をひったくるように奪ってしまった。そのまま読み始める。なんだか慌ててるみたいだけど、どうしたのかな。
視聴者さんたちは、ちょっと騒がしい。うるさいほどに。
『後宮キタアアア!』
『まさかの後宮! あるんか!』
『妃候補として行くんですね分かります!』
『リタちゃんが妃候補はやばすぎるw』
『王様はロリコンか何かかな?』
えっと……。つまり、後宮っていうのは、お嫁さんの候補が行くところ、なのかな?
お嫁さん。結婚。日本でもよく聞くけど、本当によく分からない。男の人と女の人が一緒に暮らすことを結婚って言うみたいだけど……。あれ? ということは……。
「私と師匠は結婚してるの?」
「ぶふっ!?」
私が聞くとミレーユさんとセリスさんが咳き込んだ。二人も、なに?
「お、おまえ、そういうことは冗談でも言うな!」
「うん……? 男の人と女の人が一緒に暮らすことを、結婚、て言うんだよね?」
「ああ、そういうことですの……」
「危うく賢者様を憲兵に突き出すところだったわ……」
『誰もまともに教えなかったからなあw』
『いやだって、改めて教えるのって難しくない?』
『一緒に暮らすこと……は違うかな。家族になること?』
『あれ? 師匠さんが該当しちゃうぞ?』
「やっぱり師匠と……」
「違うからな!?」
むう。違うらしいけど、本当によく分からない。みんなはもうちょっと分かりやすく説明してほしい。何がどう違うのか、まったく分からないよ。
師匠を見る。目を逸らされた。ミレーユさんを見る。なんだか困ったような笑顔。セリスさんを見る。苦笑いだ。みんな教えてくれるつもりはないらしい。まあ、いいけど。
「それより、師匠。依頼は?」
「ああ、うん……。後宮で、魔法を使った暗殺騒ぎがあったらしい。実際に何人か死んでるみたいで、その調査を実力のある魔法使いに依頼したいみたいだな」
「ふうん……」
「王族とかが関わる上に、すでに何人か依頼を失敗してるから、Aランク以上の依頼になってるみたいだな……」
「ええ。その上、後宮だから男は受けられない。魔法に関わることだから、魔法使いでなければならない。もっと言えば、見た目が王様の好みだと、また面倒なことになる……」
「つまり、リタが適任ってことだな。ちっこいし」
「ちっこい言うな」
自覚はあるけど、言われたいわけじゃない。
「どうだ、リタ。行ったことのない国だし、後宮なんて普通じゃまず見れないぞ」
「見れないの? 師匠も見たことがない?」
「知識としてはあるが、見たことはないな」
おー……。じゃあ、本当に珍しい場所だ。つまり。
「精霊の森よりも珍しい……!」
「それはおかしいですわ!?」
うん。違うみたい。でも、やっぱり普通は見ることができない場所らしいし……。それならちょっと、興味がある。行ってみたい。
「受ける」
「ありがとう! お願いするわね」
ということで、新しい依頼を受けることになった。国の場所を教えてもらって……。お昼には出発しよう。どんな国か楽しみだね。
「いいか、リタ。その国の王から何かされそうになったら、許可する。ぶち殺せ」
「ん」
「やめて!? 本当にそれはやめて!」
『師匠さんが過激すぎるw』
『リタちゃんも頷いてるし、これ国大丈夫か?』
『絶対に人選ミスだと思うなあw』
セリスさんが頭を抱えてるけど、大丈夫。ちゃんとがんばってくるよ。
壁|w・)というわけで。今回はリタの後宮見学です。
なお推理要素は一切ありません。まったり遊びに行くだけです。





