師匠を引きずる弟子の図
壁|w・)ここから第三十話のイメージ。
冒頭のみほんのり三人称。
その日、ギルドは突然の来訪者によって静寂に包まれた。
朝、依頼を受けにきた多くの冒険者で賑わうギルド。そんなギルドに入ってきたのは、二人の人物。一人は以前から時折顔を出している、幼い少女の新人冒険者。Sランク冒険者、灼炎の魔女ミレーユに目をかけられている少女だ。
そして、もう一人。死亡説が流れていた、かつてこのギルドにも訪れたことがある旅人。多くの場所で目撃されていた、灼炎の魔女すら超えるといわれる魔法使い。賢者だ。
そんな賢者は今、少女に引きずられていた。
「はやく。挨拶は大事だよ、師匠」
「いや……。別にいいんじゃないかと俺は思うんだ。リタ一人で行けば……」
「おい」
「はい」
これは、どういう状況だろう。一般冒険者が見れば、新人冒険者に引きずられる賢者、という図である。なんだこれ。どういう状況だあれ。
少女に叱責、というより威圧されて、しょぼしょぼ後に続く賢者様。一般冒険者の皆様は、頭に疑問符を浮かべながらそれを見送った。
とりあえず思ったことは、関わり合いにならないようにしよう、ということだった。
・・・・・
「というわけで。師匠を見つけたから連れてきた」
「どうも」
「…………」
ギルドマスター、セリスさんの部屋に入って、師匠を紹介した。何故かセリスさんもミレーユさんも凍り付いた。不思議だ。
「師匠。二人が固まった。どうしよう」
「知らん。挨拶が終わったなら帰ろうか」
「ん」
『こいつらwww』
『いきなり来て死んだはずの人を紹介された人の気持ちにもなってみて?』
そういうこと言われても困る。いまいち想像できないから。
ちなみに、コメントは私と師匠の二人に聞こえるようにしてる。師匠はコメントを聞いて苦笑いだ。そんなに変なことをやった覚えはないけど。
でも待っているのも面倒だし、本当に帰ろうかな。そう思ったところで、ミレーユさんが我に返った。震える指で師匠を指さして、
「け、賢者様……!」
そんなことを言った。
「けんじゃさま……」
「やめろ、リタ。繰り返すな。こう、心にくるんだよ……!」
「かっこいいよ?」
「お前それかっこわらいがついてるだろ。微妙に笑いそうになってるのが分かるからな?」
『賢者様(笑)』
『真面目に賢者様って呼ばれてるの見るとほんと……おもしろい』
『けwwwんwwwじゃwwwさwwwまwww』
「ケンカ売ってるだろお前ら……」
あまり視聴者さんに反応しない方がいいよ。ミレーユさんが戸惑ってるから。
師匠はすぐにそのミレーユさんの反応に気付いたみたいで、こほんと咳払いしてごまかした。じっとミレーユさんを見て、なるほどと頷いた。
「久しいな。リタからミレーユって名前を聞いた時からもしかしてとは思ってたけど……。Sランクになってたんだな」
「は、はい! そうですわ! ご無沙汰しております、賢者様! まさか、ご存命だったなんて……!」
「しぶとく生き残ってるよ」
「ええ、ええ! これほど嬉しいことではありませんわ! 是非ともまたあなたから指導を受けさせていただきたく……!」
そんなことを言いながら、ミレーユさんは師匠にどんどんと近づいてる。とても、とっても近い。ぐいぐい体を前に出してる。むう……。
とりあえず。ミレーユさんを引っ張って距離を空けさせた。
「あら? リタさん、どうしたのです?」
「ん。近い。離れてほしい」
「あら……。もしかしてやきもち……」
「怒るよ?」
「申し訳ありませんでした」
『謝罪が早いw』
『無表情なのに微妙に怒ってるのが分かるからなあw』
『だからってもうちょっと落ち着いた方がいいと思うぞ』
それはそうかもしれないけど、嫌なものは嫌だから。
ミレーユさんは微苦笑して、少し離れて元の位置に戻った。ソファに座って、にこりと笑う。いつもの笑顔、だね。
「そんなに警戒しなくて大丈夫ですわ、リタさん。わたくし、賢者様は尊敬していますが、そこまで魅力を感じてはいませんもの」
「師匠を悪く言いたいの?」
「あなためんどくさいですわね!?」
『草』
『褒めて近づかれるのは嫌だけど悪く言われるのも嫌だとw』
『マジでめんどくさいぞリタちゃんw』
そんなことないよ。気のせいだ。冗談だから。多分。だから師匠、忍び笑いをしないでほしい。ちょっと恥ずかしくなってくるから。
壁|w・)ちょっと短めだけど許して……許して……。
師匠に近づかれるとむっとするけど悪く言われるといらっとする、そんなうざ……めんどくさいお年頃。





