試作品
真美のお家に到着。真美はすでにキッチンで晩ご飯を作っていた。この香りはカレーだけど……。いつもとちょっとだけ違う気がする。
「いらっしゃい、リタちゃん」
「ん。カレー? いつもとちょっと違う気がする」
「うん。じゃーん」
真美が見せてくれたのは……何も書かれていない銀色の袋。でも、ちょっとだけ見覚えがある。カレーのレトルトだ。でも何も書かれてないのは初めて見たかもしれない。
「真美。真美。それはなに?」
「うん。試作品」
「試作品」
「リタちゃんのカレーの試作品」
「え」
『なんて?』
『早すぎませんかねえ!?』
『企業の選定から試作品完成まで三日ほどしか経ってないんですが』
『それだけ企業側が本気だってことなんだろ』
私もまさかこんなに早く試作品が来るとは思わなかった。やっぱり、開発元のメーカーが近いからというのが大きいのかな。
真美のカレーを再現するメーカーは、心桜島に本社を持ってきたメーカーに決まった、とは聞いてる。私が一番評価したメーカーではないみたいだけど、開発するにはやっぱり真美が行きやすいところがいい、ということで選ばれた。
それでも確か三番目の評価をしたメーカーだったと思う。あのカレーはなかなか美味しかった。
ちなみに。開発は心桜島のメーカーがして、量産はまた別のメーカーがすることになるらしい。私はよく分からないから真美に任せる。
「もしやっぱりだめだと思ったら言ってほしい。断りに行くから」
「やめてあげてね……?」
『開発が頓挫したら魔女が直接乗り込んでくるんか』
『ちょっとしたホラーやなw』
『悪評が広まるという意味でもホラーですがそれはw』
そこまでは私は知らない。そうならないように頑張ってほしい。
でもみんなが言うには、本来の開発ほど時間はかからないのでは、だって。今回はレシピもしっかり分かってるものを作るから、そこまで難しくはないだろう、と。
というわけで。実食だ。
てとてと駆け寄ってきたちいちゃんを撫でて、テーブルにつく。そうして出されたカレーは、お肉と野菜がしっかりと入った美味しそうなカレー。トンカツがあったら見た目は完璧だったと思うけど、さすがにレトルトでサクサクトンカツは無理かな。
それじゃあ、一口。
「んー……」
美味しい。美味しいのは間違いない。でもこれだと、カレー専門店のカレーの方が美味しいと思えてしまう。むう……。
「美味しいけど、これじゃない」
「だね……」
『マジで? レシピそのまんまなんやろ?』
『そうそう変わるものなんか?』
あらかじめ完全再現はほぼ無理だっていうのは聞いてる。レトルトにするとなるとそのままで使えないものがあったり、できたてよりも味が変わってしまったりもするらしい。だからそれを含めて調整しないといけないから、ここからが大変なのかもしれない。
今回のはあくまで試作品。味を確認して、調整の方向を決める。そういうものらしい。
「できるだけ近くなるように頑張るからね」
「ん。楽しみにしてる」
完成したら、真美のカレーの味がいつでも楽しめるということだと思う。楽しみ、だね。
ご飯のあとは、ぬいぐるみを渡す。今日のぬいぐるみはレッサーパンダだ。ちいちゃんに渡すと、すごく喜んでくれた。
「ふわふわ! もこもこ!」
もふもふしながらちいちゃんはにっこにこだ。とってもかわいい。とりあえず撫でておこう。なでなで。
『ええなあ、癒やしやわ』
『仲良しなのはいいこと』
ちなみに、魔法の訓練はまだまだ、というところ。才能があるわけじゃないからね、じっくりいこうね。
真美にもぬいぐるみを渡すと、とても喜んでくれた。すぐに部屋に飾りに行ってる。ちょっとのぞくとぬいぐるみがいっぱいだ。とてもかわいらしい部屋だと思う。
『こうして見ると真美ちゃんも女の子なんやなって』
『料理に特化した化け物かと思ってたぜ』
「リタちゃん、ちょっとその視聴者さんに軽く呪いかけておいて」
「わかった。小さい不幸に襲われる呪いをかけておく」
『ちょwww』
『まあ自業自得だわなw』
化け物呼びは失礼だと思うからね。私に対してなら聞き流すけど、真美に対してはだめだ。一般人なんだから。
ちなみに、テーブルの端に足の小指をぶつけたらしい。まあ、それぐらいかな。
『なあところで俺一つ思いついたんだ』
『なんだなんだ?』
『あの動物園のぬいぐるみを通販で頼めば、リタちゃんや真美ちゃんとおそろいのぬいぐるみを持てるのでは!?』
『なん、だと……!?』
『天才かお前は!』
『なおすでに全種類売り切れてます』
『早すぎるわwww』
なんだか視聴者さんがわいわいしてるね。あの動物園のぬいぐるみはとてもかわいかったから、やっぱりみんな欲しくなるものなのかな。
「みんなぬいぐるみ好きなんだね」
「あ、あはは……」
『ぎゃあああ!』
『リタちゃんの純粋な瞳が俺らを襲う!』
『不純な動機でぬいぐるみを買ってごめんなさい……』
んー……。よく分からない。真美は苦笑いしてるから、ちゃんと意味も分かってるみたいだけど……。結局どういうことかは教えてくれなかった。
晩ご飯も食べてぬいぐるみも渡したし、そろそろ森に帰ろう。精霊様にもぬいぐるみを渡さないといけないから。
真美にサンプルのレトルトカレーを五つほどもらって、精霊の森に帰ることにした。師匠と精霊様にも食べてもらおう。
壁|w・)このお話はフィクションです。さすがに3日で試作品とかないと思います。……ないよね?





