特別編・芋煮会
壁|w・)今日は特別編、です。
朝。いつもみたいに配信をしていたら、気になるコメントが流れてきた。
『今日、山形で芋煮会あるはずだよ』
「芋煮会?」
『でっかいお鍋で芋煮を作るんだ』
『なんとパワーショベルを使って作るんだぜ』
『ちなみに芋煮のために新品かつ消毒されたショベルを使う徹底ぶりです』
「おー……」
パワーショベルって、工事とかで使う大きな機械だよね。それは、見てみたい。どうやって作るのかな。美味しいのかな。
詳しい場所はどこかな。スマホを使って、えっと……。い、も、に、か、い……。
『いつものたぷたぷ』
『最初よりは慣れたっぽいけど、でもまだまだたどたどしいなあw』
気にしないでほしい。えっと……。山形県、だね。東北地方にあるみたい。他にも名物はあると思うけど……。とりあえず、今日は芋煮を食べに行こう。観光はまた今度、ということで。
というわけで、転移だ。
「来た」
『前振りなく転移するのは草なんだ』
『場所ぴったりだね』
『リタちゃんが見える!』
うん。ちょうどいい場所に出てきたみたい。真下におっきなお鍋が見える。あんなに大きいのは初めて見たかもしれない。
「おー……。料理中?」
『すでに始まってるよー』
『完成が楽しみです』
大きなお鍋にたくさんの具材が入っていて、おっきなショベルがそれをすくい上げてる。本当におっきい。お風呂にもなりそう。いや、入らないけど。食べられる趣味はない。
でも、人もすごくいっぱいだね。食べられるかな?
そう思っていたら、たくさん並んでる人たちがこっちに手を振ってる。手を振り返して……、あれ? 違うみたい。呼ばれてるのかな。
「なに?」
そっちに行ってみたら、何故か驚かれてしまった。本当に来るとは思わなかったみたい。
「いえ、えっと……。こ、これ……! あげます!」
「ん……?」
話しかけたお姉さんに何かを渡された。整理券、だって。これと芋煮を引き換えるらしい。でも、いいのかな? お姉さんが食べられなくなるんじゃ……。
「私は去年食べましたので……! その代わり、一緒にいさせてもらえたらなって……!」
「ん……。わかった」
それぐらいでいいなら、甘えさせてもらおう。芋煮、食べたいし。
『あー! ずるい!』
『リタちゃんと一緒に芋煮を食べたい人生でした』
『お前の人生どうなってんの?』
もうちょっといい人生にしてください。
お姉さんと一緒にちょっと待つ。すると芋煮ができあがったのか、呼ばれ始めた。整理券に書いているグループで順番にもらうみたい。私は、Aゲートの一番。あれ? これもしかして、すごくいいやつじゃないの? いいのかな?
「ほらほら! もらいに行きましょう!」
「あ、うん」
お姉さんに促されて、芋煮をもらいに行く。あまり待たずに私の番になった。
「あ、リタちゃんだ」
「ちっちゃい!」
ちっちゃい言うな。
芋煮を渡してくれたのは、若い人たち。お姉さんが言うには、学生のボランティアなんだとか。お手伝いしてる人、だね。みんながんばってる。
お箸と一緒に芋煮をもらって、ちょっと離れる。んー……。いい香りだ。
「芋煮」
『うん……。うん?』
『いや、そりゃ芋煮だけどw』
『何が言いたいんだリタちゃんw』
いや、別に。
早速食べてみよう。具材は、里芋に牛肉、ネギとかこんにゃくとか。食べてみると、醤油を基本にしてるみたいでそんな味。でもお肉の味もしっかりと感じられて、とても美味しい。
「もぐもぐ……」
「美味しいです?」
「ん!」
「あはは。それはよかった」
『夢中で食べてる』
『俺も行ってみたいけど、九州からは遠すぎる……』
『来年は絶対行く!』
なんだかすごく豪快で楽しいし、一度は見てみてほしいかもしれない。美味しいし。私も来年は作るところから見てみたいなあ。朝から食べられるなら、多分作るのは夜からだよね。がんばって起きないと。
「ん……。お姉さんも、どうぞ」
「え、いいの?」
「ん」
ちょっと夢中で食べちゃったからあまり残ってないけど……。もうちょっと残しておけばよかった。でも美味しかったから。ごめんなさい。
お姉さんは笑いながら気にしないでほしいと言ってくれた。優しいね。
『なあ、これって……』
『やめろ、言うな』
『きっと相手が女性だからリタちゃんも譲っただけだと思う』
ちょっと意味が分からない。美味しいものはみんなで楽しまないといけないよ。きっとこの芋煮会も、そういうのがあると思うから。多分。
食べ終わった後は、ちょっとお姉さんと一緒に回ってみることになった。あまり食べられなかったけど、他にもいろいろとあるらしい。塩芋煮とか、サンマとか。
最初は塩芋煮。最初のお鍋とは違ってちょっと小さいやつだけど、それでも大きいお鍋だ。塩ベースの味付けだって。
ちょっと並んでから、受け取る。お金はお姉さんが払ってくれた。ちょっと悪いと思ったけど、私は現金はなかったから……。でも一緒に回るだけでいいらしい。優しい。
塩芋煮は具材は同じようなものみたいだけど、味付けが塩になってるだけで全然違った。これも美味しい。とても美味しい。もぐもぐ。
「芋煮いっぱい」
「いっぱいですねえ」
『芋煮、いいよね。ご飯と一緒に食べたい』
『俺は酒のつまみかなあ』
『ちょっと芋煮作るわ』
ごはんのおかず……。いいかもしれない。真美に作ってもらおうかな。それならごはんと一緒に食べられるから。
次は、サンマ。炭火焼きで食べられるみたい。
お皿に一匹、まるまるだ。小袋のお醤油ももらった。焼き魚っていいよね。私も森でたまに魚を捕って食べるけど、やっぱり焼き魚にするのが好き。
お醤油を使って、食べる。ぱくりと。
『頭からそのままいったw』
『いや、リタちゃん骨あるよ!? 大丈夫!?』
『気にせずばりばり食べていらっしゃる……』
骨ぐらいなら、ちゃんと噛んでかみ砕けばいいと思う。小骨がささっても、魔法でどうとでもなるから。でも魔法が使えない人は真似しちゃだめだよ。危ないから。
んー……。炭火焼きにしてるからか、なかなか香ばしい。それでいてふっくらしていて、食感もいい。サンマ、美味しいね。
「あとは、プロレスとかステージとかでいろいろやってますけど……」
「食べ物」
「あ、はい」
『知ってた』
『花より団子の食欲の魔女だから……』
『イベントも楽しいけど、リタちゃんは食べ物優先だからね、仕方ないね』
きっと他の人も配信とかしてると思う。私は気にせず食べ物を食べる。食べ物。
屋台のスペースもあって、そこではお祭りみたいな場所になっていた。買えるのは、山形のご当地グルメとか、そういうものみたい。
なんだかたくさんある。どれも美味しそうだ。
「どれを食べます?」
「全部」
「ですよね」
『ですよねw』
『芋煮会ってこういう屋台もあったんか』
『実はあるんですよー』
芋煮以外も楽しめるのはとってもいいと思う。
いろいろ食べた。かき氷もあったし、串にささったお肉とか、ホタテとか。お団子もあったし、お祭りみたいに焼きそばとかもあった。いっぱい食べられて、とっても幸せ。
「んふー」
「ぜえ、ぜえ……」
『お姉さんwww』
『リタちゃんに連れ回されてめちゃくちゃばててるw』
『リタちゃんと一緒に回りたいとか言うから……』
ん……。ちょっと疲れてしまったのかも。付き合わせてごめんなさい。
時間は、お昼をとっても過ぎた頃。たくさん食べられたし、そろそろ帰ろう。
「お姉さん、今日はありがとう。楽しかった」
「い、いえ……。いい思い出に、なりました……」
「…………。ごめんね?」
「大丈夫、です!」
『お姉さん強い!』
『お疲れ!』
最後に一緒に写真を撮って、転移で帰る……。その前に、もう一度お鍋、見ていこうかな。
お鍋の上あたりに転移したら、まだ芋煮は残っていたけどかなり減っているのが分かった。ショベルは今もがんばって動いてる。芋煮をすくって、横の器に豪快に入れてる。
うん……。とてもいいものが見れた。教えてくれた人には感謝、だね。
「来年は朝から見にくる」
『それは……大丈夫なんか?』
『知らん。調べろ』
スマホもあるんだし、その時は調べてみよう。
それにしても、すっごく大きなお鍋だよね。どれぐらい作ってるのかな?
「何食分作ってたの?」
『例年通りなら三万食のはず』
『よくよく考えなくても数がおかしいw』
三万……! すごく多い。それが残りもせずに全部なくなるんだから、とっても大きいイベントだ。
美味しかったし、来年も忘れずに来たいな。視聴者さんがきっと教えてくれるはず。
それじゃあ、そろそろ帰ろう。帰ったら真美に芋煮を作ってもらって、ほかほかのごはんと一緒に食べよう。きっと美味しいはず。
最後に私の写真を撮ってる人たちに小さく手を振って、真美のお家に転移した。
来年も楽しみ、だね。
壁|w・)SNSで芋煮会が流れてきたので、そういえば希望にもあったなと思い出し、勢いで書きました。
たくさん調べてみましたけど、芋煮会、楽しそうですよね。屋台ブースとか行ってみたい。
なお、作中の時系列は決めてません。ご想像にお任せします。





