師匠のお家
夜。精霊様に見送られて、師匠の実家の前に転移。インターホンを押そうとして、ちょっとできなかった。ちょっと、怖い。
「んー……」
気持ちをごまかすために、配信を開始。すぐに見慣れた光球と黒い板が浮かび上がる。
『お、今日は遅い時間やな』
『てっきり師匠さんとのんびりしてお休みかと思った』
『日本か? どこにいんの?』
「師匠の実家。朝ぐらいに師匠を連れてきた」
『おお、マジでか』
『てことは、迎えに来たってことやね』
「ん」
そうして視聴者さんとお話ししていたら、ちょっと気持ちが軽くなった気がする。よし、大丈夫。
インターホンを押す。するとすぐに、声が聞こえてきた。お母さんの、じゃない。師匠のだ。
『はい』
「ん……」
『リタか。上がっていいぞー』
『かっるw』
『勝手知ったる我が家的なのり』
『でも実際リタちゃんは身内に入ってそうw』
そうなのかな? そうだったら嬉しい。
門を抜けてドアを開ける。すると師匠が立っていた。私を待っていたみたいに、よ、と軽く手を上げて。
「待ってたよ、リタ」
待ってた。それは、どうしてなのかな。もしかして、ここで暮らすとか、そういう話をするために、とか……。
そんな私の不安が少し顔に出ていたのか、師匠は軽く首を傾げて私の首根っこを掴んできた。首根っこというか、服の後ろ側、だけど。持ち上げられて、視線を合わせられる。なにこれ。
『なにこれ』
『なんか、首根っこを掴まれて持ち上げられてる猫みたい』
『リタちゃん。にゃーんって言ってみて。にゃーんって』
「にゃーん」
「いや、なんで鳴くんだよ」
『かわいいだろ文句あっか!』
『かわいければいいのです!』
さすがに意味が分からないと思う。
師匠は薄く笑って下ろしてくれた。私の頭をぽんぽんと撫でてくる。そうして手招きされるままについていくと、リビングで師匠のご両親が待っていた。
テーブルの上にはたくさんの唐揚げ。それにほかほかのご飯もある。いっぱいだ。
「待っていたわ、リタちゃん」
「からあげもいっぱいあるぞ。食べていきなさい」
「唐揚げ……!」
師匠のお母さんの唐揚げ。とても美味しいもの。
椅子に座って、早速ごはん。いただきます。
山盛りの唐揚げから一つ取って食べると、揚げたてなのかばりばりしていてとても美味しかった。肉汁たっぷり。とてもいいもの。
「んふー」
「幼い頃のコウタを思い出すなあ」
「本当に美味しく食べてくれるものね」
「やめてくれないかな」
そんな感じで、師匠たちはわいわいと楽しそうに話してる。もうしっかりお話はできたみたいで、とても自然な感じ。仲良しで、いいと思う。
いいと思う、けど……。やっぱりそれを見てると、不安になってしまう。
『なんかリタちゃん元気ない?』
『めちゃくちゃ美味しそうな唐揚げなのにどうしたよ』
『独り占めしたいとか!?』
いやそれはないけど。みんな私のことをなんだと思ってるのかな。
ふと、師匠がこっちを見てることに気が付いた。
「リタ、どうした?」
「ん……。なんでもない」
「あっはっは。それが通用すると思うなバカ弟子め」
「うあー」
鼻をつままれる。やめてほしい。私の鼻はのびないから。うあー。
「で?」
「んー……。師匠、ここに住むの……?」
「は? 何言ってんだお前」
「え」
「え」
師匠が首を傾げる。私も首を傾げる。なんだか、私と師匠の中で全然違う感じ。
するとお母さんが薄く笑って言った。
「なるほどね。コウタがリタちゃんの家からこっちに引っ越さないか、心配なのね」
「は? あー……。ああ、なるほど。そんな心配してたのか」
「ん……」
「バカだなあ、お前は」
そう言って、師匠は私の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。ちょっと乱暴なこの撫で方は、恥ずかしいのをごまかす時の撫で方だ。ちょっと痛いけど、これも気持ちいいから好き。
「俺の今の家は精霊の森のあそこだよ。だから、心配するな」
「ん……」
師匠のお家は、あそこ。それを聞いて、ちょっと安心した。師匠はちゃんと帰ってきてくれる。とても嬉しい。
『そんな心配してたんかリタちゃん』
『ご両親と再会、だもんなあ』
『その流れでもしかして、と思うか』
『結論。前もってちゃんと言わないお前が悪い!』
「ええ!?」
それはおかしいだろ、と光球に向かって言う師匠と、たくさんのコメントが流れていく黒い板。なんだかそのやり取りは、昔、横で見ていた師匠の配信みたいだった。
「唐揚げ、持って帰っていい?」
「ええ、もちろん。たくさん持っていってね」
「ん!」
唐揚げをたくさんもらった。真美のカレーで唐揚げカレーにして食べよう。きっと美味しい。
「んふー」
うん。安心して食べる唐揚げは、やっぱりとっても美味しいね。
壁|w・)ちょっと不安だったけど、ちゃんと帰ってきてくれるってことで安心なリタでした。
なお、一番書きたかったのは「にゃーん」です。いや、その、思い浮かんだから……。





