久しぶりの精霊の森
転移先は、森のお家。お家を見た師匠は、おお、と小さく声を上げた。そのままだ、と。
「いやあ……。めちゃくちゃ懐かしく思えるな……」
「ん。師匠の部屋もそのまま。入る?」
「いや、今はいいよ。ところでリタ」
「ん?」
「あれはなんだ?」
師匠が指さした先にあるのは……。畳、だね。日本で買って、こっちに持ち込んだものだ。もうすぐ夜だけど、お昼あたりならお日様があたってぽかぽかぬくぬく。お昼寝に最適。
そう説明したら師匠はなんだか優しい目で私を見つめてきた。
「なに?」
「いや、なんでも。昼寝、好きだったもんな」
「ん。お昼寝は気持ちいい」
食べることの方が好きだけど、お昼寝も好き。特に今は畳の上でのお昼寝は最高だと思ってる。
『まあ反応するわな』
『明らかにあの一角だけ浮いてるからなw』
『どうだ、あの畳は! 神秘的な畳だろう!』
「神秘的な畳ってなんだよ。伝説の剣ならぬ伝説の畳ってか? そんな装備嫌だよ」
『伝説の畳w』
『武器なのか防具なのかw』
あれで戦うのはどっちにしても難しいと思うけど。
軽くお家をぐるっと見て、次に世界樹に転移だ。ここからなら大丈夫、ということで師匠の転移で世界樹の側に移動した。
むう……。私もかなり転移については研究したけど、術式はやっぱり師匠の方が上だと思う。私よりも魔力の揺らぎが小さい。私でもほとんどないはずなのに、それよりも。
「師匠はやっぱりすごい」
「急にどうした……? それより、リタ」
「ん?」
「世界樹がぬいぐるみ置き場と化してるんだけど」
『草』
『そうか、師匠さんからすればぬいぐるみ置き場は初見かw』
何か変なのかな。私がおみやげで買ってきたら、精霊様がよく飾ってくれてるけど。別に私が、そこに飾ってほしいって言ったわけじゃないよ。私は自分の部屋に置いてあるから。
そう言うと、師匠が言った。
「何やってるんだよ精霊様……!」
「いえ、あの、これは、違うんですよ……?」
師匠の視線の先、世界樹の側に精霊様がいて、ちょっとだけ慌ててる様子だった。少し恥ずかしそうにも見える。
「そ、それよりも……! 久しぶりですね、コウタ! ご無事で何よりです!」
「ああ、うん……。久しぶり、精霊様。俺は久しぶりに見た世界樹に木の実がなっていて驚いたよ。ぬいぐるみという木の実が」
「か、かわいいでしょう!? 文句ありますか!? あるんですか!?」
「いや、ないけどさ。知らない人が見たら、絶対自分の正気を疑うなって……」
『ただでさえやばい森なのに、命からがらたどり着いた先で見たものは、たくさんの人形が飾られる世界樹……』
『神秘的というか、ホラーかな?』
「大丈夫です、大半の人間はたどり着くまでに死にます」
『なおさら怖いわw』
精霊様が言うように、普通の人はそもそもたどり着けないだろうから気にしなくていいと思う。私が見てきた人でも、アリシアさんがなんとかたどり着けるかなっていうぐらいだろうから。
もうすぐ夜、ということで今日はここで晩ご飯だ。せっかく森に帰ってきたから、ということで、森のものでご飯にする。とりあえずワイバーンでいいかな?
ちょっとだけ空を飛んで、あちこち飛び回ってるワイバーンの中から適当に選んで一匹落とす。すぐに解体して、世界樹の側に持っていった。
そこからお肉を焼く。強めの火力で焼いていこう。
ご飯は、精霊様が作ってるお米で。日本のレトルトのお米の方が美味しいけど、今日はこっちの気分らしいから。
ワイバーンのお肉をほかほかのご飯に載せて、完成。ワイバーンのお肉の丼だ。
師匠はその丼を食べると、ほう、と感嘆のため息をもらした。
「はあ……。うまい……。あっちの世界のご飯と違って、マジで美味い……」
「それほどひどかったのですか?」
「ひどかったっていうか……。どれもこれも何故か甘いんだよ……。元日本人の感覚としてなら、そうだな……。毎食甘いお菓子を食べてる気分だな……」
『ええ……』
『なんだその地獄は』
『お菓子はたまに食べるから美味しいんであって、ずっとそれはきついわ』
そうなのかな。私はお菓子大好きだから、気にもならないと思うけど。あ、でも、カレーが食べられないのは嫌だ。やっぱりずっとお菓子は嫌だね、うん。
「しっかし……。異世界転移とか、正直諦めかけてたんだけどな……。すごいな、リタは」
「ん?」
『あれ?』
『あ、そうか。こいつ知らないのか』
師匠が私の反応に、そしてコメントに首を傾げてる。私もコメントを見て違和感に気付いた。そっか、師匠は知らないんだね。
「師匠」
「うん?」
「異世界なんて存在しない」
「は? いや、何を言って……」
「地球は天の川銀河にある惑星。この世界は、アンドロメダ銀河にある惑星。さっきまで師匠がいた世界も、別の銀河の惑星」
「…………」
師匠が固まってしまった。とても衝撃的なことみたい。
さらに精霊様が、師匠の魂を召喚した時に時間もずれたらしい、ということを言うと、師匠は乾いた笑みを浮かべて言った。
「帰って寝る」
『ちょwww』
『現実逃避するなw』
「うるせえ! 情報量過多にもほどがあるんだよ! ちょっと整理させてくれ頼むから!」
そう言うと、師匠は本当にお家に帰ってしまった。お部屋はちゃんと綺麗にしてあるからいつでも寝れるけど、どうしたのかな。怒っちゃったのかな?
私がちょっと不安になっていることに気付いたのか、精霊様が私を撫でて言った。
「大丈夫ですよ。あの子もちょっと混乱しているだけですから」
というより、と精霊様が続ける。
「混乱しない方がおかしいですから……」
『ですよねーw』
『そりゃそうだw』
そういうものらしい。じゃあ、続きはまた明日、だね。明日は一日ゆっくりできるはずだし、師匠をご両親のお家に連れて行ってあげよう。
壁|w・)ようやく帰ってきた、という感動を情報の暴力で黙らせていくスタイル。





