甘い焼きおにぎり
魔王を倒した……倒した? 消した? それを報告するため、師匠はこの世界に唯一ある人間の国の王城に向かった。報告した後は引き留められる前にさっさと帰る予定だ。
私は宿でお留守番。師匠が食堂で買ってくれたごはんを食べてる。
「もぐもぐ……。変な味」
私が今食べてるのは、見た目は焼きおにぎり。見た目は、だけど。
師匠が軽く教えてくれたけど、これを見つけた時は師匠はとても喜んだみたい。とりあえず米は食べられるって。その後に軽く絶望したらしいけど。
『美味しそうな焼きおにぎりに見えるけど』
『異世界に醤油ってあるのか』
『で、どんな味なん?』
「ものすごく甘い」
『甘いの!?』
『醤油っぽいものも米っぽいものも全部見た目だけかよw』
見た目だけ、だね。びっくりするぐらい甘い。この世界の主食の一つらしいけど、お菓子だって言われた方がまだ納得するぐらい。
味だけなら、そこまで悪くはないけど……。どうしても見た目がこれだから、焼きおにぎりの先入観があってすごく微妙に感じてしまう。
そうしてのんびり食べていたら、師匠が転移で戻ってきた。
「戻った。よし、さっさと帰るぞ!」
「もぐもぐ。まだ食べてる」
「早く帰ろうとか言ってなかったか……?」
『食べること大好きな子なもので』
『ご飯を与えたお前が悪い』
『なお味の評価はちょっと微妙よりらしいです』
「ええ……」
ちょっと微妙だけど、悪くはないからちゃんと食べる。師匠はなんだかちょっと急いでるみたいだけど、ご飯ぐらいはちゃんと食べたい。
そう思っていたら、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「師匠!」
「来やがった……!」
「ん?」
入ってきたのは、ヤトだ。すごく走ってきたみたいで、息を切らしてる。
「魔王を倒したって、いつの間に……って、誰ですかあなた!」
「もぐもぐ」
「無視するな!」
『いやあ、すみませんね』
『優先順位は間違いなくヤトよりご飯だろうからね』
『あんまりご飯の邪魔をするとぶっ飛ばされます』
それは、うん。多分する。ご飯はちゃんと食べないと。師匠がコメントを見て頬を引きつらせてるけど、師匠だって間違いなく怒ると思う。
「あー……。ヤト。こいつは俺の弟子のリタだ。俺を見つけて、転移で来てくれたらしい。魔王もリタが消し飛ばした」
「つまりこの子が師匠の弟子……!? こんな子より私の方が弟子にふさわし……」
私を見たヤトが一瞬言葉に詰まった。そしてなんだかじろじろ見てくる。なんだろう。威圧でもしてみる? 師匠に怒られそうだからやらないけど。
そしてヤトは叫んだ。
「なんて魔力……! 化け物じゃないですか!」
「む……。化け物言われた」
「あー……。あの魔法を見た後だと否定できないな……」
「え」
『え、じゃないんよリタちゃん』
『化け物が裸足で逃げ出すレベルの化け物です』
『つまり……新魔王!』
魔王じゃないから。
ヤトはきっと私を睨み付けると、言った。
「この人は私の師匠になってくれる人です! 譲りません!」
「師匠。お口直しにレトルトカレー食べる。いる?」
「お、頼む。久しぶりだな、日本のカレー」
「聞いて!?」
聞いたところで意味があるとは思えないから、聞くつもりはないかな。
アイテムボックスからパックご飯とレトルトカレーを取り出して魔法でさっと温める。さすがに無視し続けるのはかわいそうだから、ヤトにも一食分ぐらいわけてあげよう。
そうしてカレーライスをみんなで食べた。
「あー……。うまいなあ……。やべ、ちょっと泣きそう……」
『コウタは転生してから初めてか』
『ずっと再現しようと頑張ってたことを思ったらなんか泣けてくるな』
『他にもいろいろ食べられるぞ!』
「な、なんですかこのスパイシーな食べ物は……! とても辛い! でも美味しい!」
「甘口なんだけど……」
『草』
『この子辛口食べたらどうなるんだこれw』
『お米っぽいやつですら甘いのなら辛いものなんてほとんどないのかもなあw』
それにしても、甘口でスパイシーはちょっとびっくりだ。
そうして、完食。改めて帰ることになった。ヤトも、食べてる間に整理がついたみたいで、もう文句は言ってこなかった。
「残念です……。師匠には、是非ともこの国に残っていただいて、今後も力を貸してほしいと思っていましたのに……」
「師匠言うな。あとそれはさすがに、この世界で生きるお前らの仕事だよ」
師匠はそう言うと、部屋に置いてあった本をどさりとヤトに渡した。えっと……。植物に関する本とか、土に関する本とか……。これ、どうやって世界を元に戻していくかに関わる本かもしれない。
師匠はなんだかんだと面倒見がいいと思う。突き放す言い方をしながらも、こうして手がかりは残していくわけだし。
「この世界の精霊たちも、ひとまずヤトに協力するらしい。がんばれよ」
「私精霊見えないんですけど!?」
「うん。がんばれ」
「ちくしょうやってやりますよ―!」
ヤトは文句を言いながらも、早速本を読み始めた。師匠が気にかけるだけあって、ちゃんと頑張れる人みたい。いい人、だと思う。
「でもこの人ががんばらないとだめなの? えっと……。国とかががんばらないといけないと思う」
「こいつ第二王女」
『王族かいwww』
『こんな王族で大丈夫か?』
「大丈夫だ……と思う。問題ない……はずだ」
『おい師匠さんwww』
ちょっと不安なんだね。
ともかく。ようやく、精霊の森に帰ることになった。きっと精霊様が首を長くして待ってるから、早く帰ってあげないとね。
壁|w・)食べ物全てがお菓子みたいに甘い世界。そんな世界はお嫌いですか?
なお師匠さんはげんなりしていました。





