師匠とおしゃべり
たくさんたくさん泣いた。たくさん泣いたらちょっと落ち着いてきた。
「ぐす……」
「よしよし。落ち着いてきたか?」
「ん……。ごめんなさい」
「いや。まあ、俺も会えて嬉しいから、気持ちは分かる。ところで……」
今も師匠は頭を撫でてくれてる。その師匠の目線は、私の側にある黒い板に向いていた。今もコメントが流れていってる。
『やっほー、魔法使いさん!』
『生きとったんかワレェ!』
『心配したぞこのやろう!』
「あー……。これ、配信してるのか?」
「ん」
「おお……。てことは、ちゃんとこの世界の場所が分かってるってことか……」
その辺りはばっちりだ。カリちゃんが調べてくれたから、ここから私の星、そして地球、両方ともしっかり場所が分かってる。だから、すぐ帰ることもできるよ。
「配信、楽しいか?」
「ん! いろいろあった!」
「へえ……。例えば?」
「ん……。投げ菓子でお菓子をもらってる。地球に行く魔法を作った。大好きな友達ができた。いろんな美味しいものを食べたし、あとミレーユさんとかお友達も増えて……」
「待って。ちょっと待って。情報量が多い!」
『草』
『いやマジでいろいろあったんだぞ、コウタ』
『お前の両親にも知られてるぞコウタ!』
「いやなんでお前ら俺の本名を……って、両親!? え、待て待ってくれなにそれ!?」
なにそれも何も、そのままだ。師匠のご両親と会って、今もたまに唐揚げをもらってる。とっても美味しい唐揚げだ。
「師匠のお母さんの唐揚げは美味しい」
「ははは。俺はいろいろ衝撃が多すぎて、再会の感動が吹っ飛んだよ」
『気持ちは分かるw』
『ちなみに一国の首相と取引したりしてるぞ』
「お、おお……。なんか、スケールが想像以上だ……。すごいな。本当にすごいな……」
「ん。がんばった。地球はとっても美味しい」
「言いたいことは分かるが地球を食ってる化け物かお前は」
師匠は小さくため息をつくと、あ、と何かを思い出したような顔をして、何故か気まずそうに目を逸らした。また私に視線を戻して、言う。
「カレーライス……食べたか?」
「…………。ん」
「なるほど……。お前、俺のカレーライスは生ゴミだったとか思っただろ」
「そんなことはない」
「あっはっは。顔に出てるぞバカ弟子め」
「むあー……。やーめーてー……」
ほっぺたをぐにぐにされる。やめてほしい。私のほっぺたはそんなにのびないから。うあー。
『今さらっと顔に出てるって言ったぞこいつ』
『ごめん全然わからんかった』
『さすがリタちゃんを育てただけはあるな!』
しばらくぐにぐにされていたけど、満足したのかはなしてくれた。ちょっと痛かったけど、このやり取りも懐かしくて嬉しい。
「えへへ……」
思わずちょっと笑うと、師匠がまた撫でてくれた。温かくて好き。
「師匠。精霊の森に帰ろう。すぐに帰れるから」
この世界に留まる必要はないはず。ようやくこうして会えたんだから、しばらくは一緒にのんびりしたい。
でも、師匠は少しだけ困ったような笑顔になった。
「悪いな、リタ。この世界を見捨てるのは、ちょっと俺にはできないんだ」
「どうして? 師匠を拉致した世界なのに」
「それでも……。世話になった人はやっぱりいるからな」
師匠はお人好しだと思う。そんなの、無視してしまってもいいと思う。だって本当は関わりがない世界のはずだから。
「リタ。地球で親しい人ができたんだろ?」
「ん」
「地球に何かあって、見捨てろと言われたらどうする? その親しい相手を見捨てられるのか?」
「…………」
それは……。それは、できない。私でできる範囲でどうにかしたいと思う。思う、けど……。
「その言い方はずるい」
「ああ……。悪い。でも、そういうことなんだ」
師匠の目を見る。師匠も私をじっと見てくる。私が何を言っても、師匠は譲らないと思う。師匠はこういうところは頑固な人だから。
私の世界でも賢者と呼ばれるぐらいには、いろいろやってたみたいだし……。仕方ない、かな?
「わかった。でも、私も手伝う」
「いいのか?」
「ん」
多分だけど、先に師匠が帰る魔法を作れたとしても、私に頼んできたんだと思う。そういうことを言ってたし。それなら、うん……。頼ってもらえるのはすごく嬉しいから、がんばりたい。
『てことは、帰還はおあずけか』
『精霊様も心配してんだからはよ帰れよ!』
『だからさっさと終わらせようぜ!』
「お前らは相変わらず無茶言うよな」
コメントを見て、師匠は苦笑いだ。ただやっぱり、コメントを見る目もどこか懐かしそう。
「それじゃあ、どうして俺が召喚されたか、だ」
そうして、師匠はこの世界について語ってくれた。
壁|w・)師匠の感動を情報量で吹っ飛ばしていく魔女スタイル。





