再会
そっと二人に近づいていく。ここは図書館みたいな建物なのか、本がいっぱいだ。師匠は調べ物をしてるみたい。
「またそんなもの調べてるんですか……!」
そんな、ヤトの声が聞こえてきた。
「師匠! 役目を思い出してください!」
「師匠言うな。ついでぐらいには調べてやるけど、転移魔法の片手間だよ」
「転移魔法なんて、人間が使えるわけがないでしょう!」
「使えるけど?」
「距離の話です! 世界を跨ぐ転移魔法なんて不可能です! そんなことより、この世界を救ってください!」
「分かってる分かってる」
「分かってないじゃないですか!」
この世界の事情は分からないけど、師匠はそれよりも転移魔法を研究してるみたい。世界を跨ぐほどのもの……。帰ろうとしてる、でいいよね?
「魔王を! 倒してください!」
『なんて?』
『魔王キタアアア!』
『マジであいつテンプレ召喚されてんのかよwww』
魔王、ね。その魔王が世界を滅ぼそうとしてるとか、そんな感じなのかな。でも滅ぼしちゃうと自分も住めないと思うんだけど……。よく分からない。
「転移魔法が完成したら、弟子を連れてもう一回来てやるよ。二人がかりなら余裕だから」
「師匠一人でもいけるはずです!」
「師匠言うな」
ん……。やっぱり、帰ってこようとしてくれてる。それが、とても、嬉しい。
その後もヤトは師匠にずっと何かを言ってる。魔王を倒せとかなんとか……。早くどこか行ってくれないかな。師匠とお話しできない。
師匠はため息をつくと、本を十冊ほどアイテムボックスに入れて建物を出た。そうして歩いていく師匠に向かって、ヤトが叫んだ。
「師匠のバカ! 薄情者!」
追いかけることはしないみたい。じゃあ、このまま師匠についていこう。
師匠が向かった先は、宿、かな? 私の世界でもよく見る宿だ。一階にカウンターと食堂があって、二階が部屋。師匠はその二階の部屋にまっすぐ向かった。
そっと、私も入る。見つからないように、隠蔽魔法をかけまくる。全力だ。
師匠はテーブルに本を広げて、椅子に座った。
「ん……。研究中」
『めちゃくちゃ真面目に取り組んでるな』
『ちゃんと帰ろうとしてたんだなあ……』
『転移先で楽しくやってるんだろうと思ってた。マジでごめん』
本をずっと睨み付けてる。すごく、集中してる。ちょっと邪魔しにくいなあ。それに、研究をする師匠の姿も久しぶりに見たから、なんだか嬉しい。
「師匠、かっこいい」
『お、そうだな』
『やっぱ師匠大好きだなw』
ん。
じっと見守っていると、師匠が小さく舌打ちした。
「あー、くそ……。参考にならないなこれも……。家の本、もうちょっと読み込んでおけばよかったな……」
家の本、すごく貴重だからね。歴代の守護者の研究もたくさんあるみたいだから。私も、それらの本がなかったら、地球に行く魔法を作るのにもっと時間がかかったと思うし。
うん……。うん。もう、いいや。我慢できない。
だから。
「師匠」
隠蔽を解いて呼びかけると、師匠の動きが完全に止まった。
ゆっくりと、こっちに振り返る。私を見て、ぽかんと口を開けた。
「は……? リタ……?」
「ん」
「いや……え? 待て……。待て待て。え?」
『混乱してらっしゃるw』
『いやまあそりゃそうだろw』
『まずは正気を疑うよなw』
そうらしい。師匠も自分の頬をつねって、痛い、とか言ってる。漫画とかで似たようなものを見た気がするね。
次に師匠は、私の頬に触れた。
「この魔力……リタ、だな……」
「ん。がんばった」
「ははは……。そっか……。そうかあ……」
そうして、師匠は力無く笑った。
「まさか、先に見つけられるなんてなあ……」
そう言って、師匠が頭を撫でてくる。すごく、気持ちいい。師匠の、撫で方だ。
「リタ。大きくなったな」
「ん……? 背は変わってない。ちっこいってよく言われる」
「外見じゃないよ」
ああ……。あったかい。師匠の手だ。師匠の……ししょうの……。
「ぐす……」
「え」
「じじょおおお」
「おおお!?」
私は思わず師匠に抱きついてしまった。だって、久しぶりの、師匠の温もりだから。もう手放したくない。ずっと一緒にいてほしい。あんな不安な気持ちになるなんて、悲しい気持ちになるなんて、もう嫌だから。
「うああああ」
「お、おお……。マジ泣きだな……。そんな泣き虫だっけか?」
「じじょうが……じんだって、ぎいだがらあ……!」
「あー……。そっか。そうなってたんだな。悪かった。ごめんな、リタ」
「ひぐ……んー!」
「おー……。久しぶりのぐりぐりだな」
師匠の体に体をこすりつける。師匠の温もり。忘れられなかったもの。確かにここにある。ああ、よかった。嬉しい。嬉しい、はずなのに。涙が止まらない。変になってる。
「よしよし」
「んー……」
師匠が優しく撫でてくれる。ずっと、取り戻したかった、欲しかった、温もり。ああ、なんで変な我慢をしてたんだろう。もっと早く声をかければよかった。
ずっと。私が泣き止むまでずっと、師匠は私のことを優しく撫でてくれていた。
壁|w・)ちょっとあっさりすぎた気がするけど、これ以上にはできなかったです……。
というわけで、再会でした。あたまぐりぐり。
次回更新は8月1日です。





