赤こんにゃくと近江牛
転移したものの、どこにお店に行けばいいか分からない。視聴者さんに聞いてもいろんなお店を出されて、これだというお店はないみたいだし……。ちょっと、困った。
どこでもいいと言えばどこでもいいんだけど……。せっかくだし、頼ってみよう。
「戻ってきた」
「うおわあ!?」
琵琶湖ニキのお兄さんに声をかけてみた。
『まさかの帰還である』
『完全に油断してたなこいつw』
『八幡市に戻ってきてからってまた来るとは思わんわなw』
お兄さんはお船の側で缶コーヒーを飲んでいた。黒い缶だから、すごく苦いやつだと思う。私はあまり好きじゃない。
「えっと……。なんでまたここに?」
「赤こんにゃくのお店を教えてほしい」
「そうきたか……」
やっぱり地元の人に聞くのが一番だと思うから。
「あー……。じゃあ、知り合いのお店でもいいかな。味は保証する」
「ん」
お兄さんのオススメに連れていってもらうことになった。でも本来は居酒屋らしくて、今はやってないのだとか。だから電話して、ちょっと開けてもらうように頼むらしい。
「いいの?」
「むしろいい宣伝の機会だろうし、文句は言わせないさ」
『宣伝効果は確かにすごいと思う』
『最初の餃子の店とか連日大繁盛らしいからな』
『世界中の人が見てる配信だからなあw』
宣伝効果はよく分からないけど……。迷惑になってないかだけ、ちょっと心配。
すぐに電話は終わった。どうやら開けてくれるらしくて、お兄さんの案内で移動することになった。
「いやあ、まさかリタちゃんが戻ってくるとは思わなかった……。すっかり油断してたから」
「ん。ごめん」
「いや、責めてるわけじゃないから!」
そんな話をしながら十分ほど歩いて、到着。
いわゆる日本家屋、だね。横開きのドアとのれんがあって、いざかやって書いてある。ドアには貸し切りの札。ここに入るみたい。
お兄さんは迷いなくドアを開けた。
「入るぞー」
お兄さんに続いて、私も入る。中はちょっとこぢんまりとした感じ。カウンター席が八つあるだけ、だね。
『ほーん、雰囲気はなかなかいい感じでは?』
『昔ながらの居酒屋って感じ』
『やばいちょっと行きたい』
『ただ立地が悪すぎるw』
そうらしい。駅からも遠いし、ちょっと奥まった場所にあるしであまり人気はないんだとか。味はいいんだけど、とお兄さんも苦笑いしていた。
お兄さんが真ん中の席に座ったから、私はその隣に座った。
「いらっしゃい。おお、ほんとにリタちゃんだ……」
カウンターの奥にいた店主さんは、お兄さんと同年代ぐらいに見える若い人だ。お兄さんが言うには、同級生、というものらしい。幼なじみ、だって。
『幼なじみ、だと……!?』
『そんなものリアルにあるのか!』
『なお男である』
『強く生きろ』
「お前らケンカ売ってんのか?」
コメントを読んだお兄さんが光球を睨みながらそう言った。意味はよく分からない。
「そのバカは放っておいて……。リタちゃん、赤こんにゃくだったよな?」
「ん。美味しいの?」
「おう。待ってな」
まず出してもらったのは、赤こんにゃくを切ってそのままのもの。まずは赤こんにゃくの味から、ということみたい。
見た目は、すごく赤い。こんにゃくとは思えない見た目だ。とりあえず一切れ。
んー……。なんだか、不思議な味。こんにゃくよりほんのり甘みがあるかも。あと食感もちょっと違って、もっちりしてる。いや、でも歯ごたえもある、かな? これもこんにゃくと違うね。
うん。悪くはないけど、ちょっと物足りない。単品ならこんなものかな?
「それじゃあ、次はこれだ」
次は、赤こんにゃく煮、というもの。醤油やみりんと一緒に煮たものらしい。それにちょっとだけ唐辛子を加えるのがポイントなんだとか。
結構美味しい。見た目通りにちょっとぴりっとした辛みがあるのもいいと思う。でもちゃんと赤こんにゃくの味も感じられて、おかずにはちょうどいいかな。ご飯が欲しくなる。
「あとはシンプルに味噌汁に使ったもの、とか」
お味噌汁。こんにゃくの代わりに赤こんにゃく、だね。んー……。このお味噌汁、すごく美味しいと思う。落ち着く味。
「お味噌汁美味しい」
「お、そうか?」
店主さんが嬉しそうに笑った。本当に美味しいよ。
『結構がんばってる感じ?』
『よくよく考えたら赤こんにゃくって料理じゃなくて素材だしなあw』
『赤こんにゃくばっかりじゃなくて近江牛だって食ってほしいんだが!』
「おう、あるぞ」
店主さんもコメントを見ていたみたい。そう言って次に出してくれたのは、またちょっと違う料理と、ステーキの二つ。
「こっちはうちの自慢の、近江牛の味噌漬けだ。白味噌でつけてしっかり味をしみこませてから焼いたものだな。もう一つはそのまんま、近江牛のステーキ。近くで買ってきた」
『おいwww』
『ストレートすぎるw』
お肉。ステーキ。お肉は好き。
とりあえずステーキから食べてみる。ぱくりと。
「おー……! お肉、美味しい。すごく柔らかい……!」
「だろ?」
すごくいいもの! この味噌漬けもただ焼いたお肉と違って、味噌の味もしっかりとまざりあっていて、不思議な味だ。とても美味しい。
「んふー」
「いやあ、嬉しいね。もっとあるからどんどん食べてくれよ」
「ん!」
いろんな料理食べたい。たくさん食べたい。
その後はいろんな料理を食べさせてもらって、あとはいつも通りに写真を撮った。ちょっとお店の今後が不安だったらしいけど、この味ならきっと大丈夫だと思う。また食べにきたい。
「それじゃあ、ごちそうさまでした」
「いやいや。また是非とも来てくれ」
「機会があれば観光案内もするよ」
「ん。琵琶湖ニキも元気でね」
「リタちゃんから琵琶湖ニキって言われるのはなんか微妙だ……」
そういうもの、なのかな?
『なんでや! 個人で認識してもらえて羨ましいぞコノヤロウ!』
『俺だってリタちゃんと写真撮って握手して名前呼んでもらいたいのに!』
『でも気持ちは分からないでもないけどな!』
んー……。まあ、うん。じゃあ、呼ばないようにしておこう。
改めて二人に手を振って、空を飛んだ。
壁|w・)やっぱりお肉も好き。