留学生のリタ
朝。学園の自室に転移して、バナナを食べながらのんびりと待つ。誰かが迎えに来てくれるって話だったよね。先生の誰かとは思うんだけど、誰かな。
配信を開始しつつのんびりと待っていると、日がすっかり昇ってからドアがノックされた。
「はい」
ドアを開けると、そこにいたのは中年ぐらいのおじさんだ。どうしてか少し緊張してるみたい。んー……。学園長から何か聞いてるのかな。
おじさんは私を少しの間見て、どうしてか安心したようなため息をついた。
「初めまして、リタさん。僕はタレス。君のクラスの担任になる」
「担任?」
『そのクラスをまとめる先生と思えばいいよ』
『何かあったらその先生に相談すればいいと思う』
ふうん……。とりあえずこの先生を覚えておけばいいってことだね。なら、大丈夫。
「リタです。よろしく」
手を差し出すと、タレスさんは少しだけ驚いた後、嬉しそうに手を握ってくれた。
「魔女の弟子って聞いていたからどんな子かなと思ったけど……。安心したよ」
「どう予想されていたのかとても気になる」
「あ、あはは……」
ごまかすように笑いながら歩き始めるタレスさん。このまま教室に案内してくれるらしい。
『多分、高慢で生意気な子供を予想していたのでは?』
『気を配るように間違いなく言われてるだろうし』
そうなのかな。私は勝手に見て回るから気にしないでほしいんだけど。
女子寮を出て、お城に向かう。階段を一つだけ上って、二階の廊下を歩く。さすがお城と言えばいいのかな、床は石造りですごく綺麗だね。
『校舎とは思えないほどに豪華やなあ』
『再利用してるだけとは言え、贅沢すぎるわこれ』
『だがしかし教室にエアコンはない!』
『やっぱクソだわここ』
エアコンって、部屋の温度を変えてくれる機械だっけ。それ一つあるかないかでここまで言われるなんて、そんなに便利なんだね。ちょっと気になる。
「リタさん」
「ん?」
「これから案内するのが僕のクラスで、リタさんが一応は在籍するクラスになるけど……。これは、強制じゃない。他に受けてみたい授業があれば、リタさんは自由に見学することが許されてる」
「おー……」
それはとても嬉しい。でもそこまで特別扱いしていいのかな。他の生徒が怒ったりしないのかな。
聞いてみると、タレスさんは笑いながら教えてくれた。
「確かに特別待遇ではあるけど、魔女の弟子というのは伝えさせてもらうつもりだよ。その肩書きさえあれば、この学園で疑問に思う人は生徒含めていないはずさ」
さすがは魔法学園、なのかな。私が思ってる以上に魔女の名前は重たいものみたい。あまり軽々しく使わないようにしないといけないね。
案内された教室には大きなドアがあった。タレスさんが言うには、ドアの向こうは生徒が座る席が並んでいて、一番奥に魔法板があるらしい。
『魔法板ってなんぞや』
『多分黒板みたいなものじゃない? チョークの代わりに魔法で文字を書いたりとか』
『なにそれ楽しそう!』
楽しいかどうかは分からないけど、その認識で間違いないよ。というより。
「私がみんなのコメントを流してる黒板も、魔法板だけど」
『まって』
『それ初耳なんだが』
『今明かされる衝撃の事実!』
言っても分からないだろうから言ってなかっただけだよ。今まで誰も疑問に思ってなかったのがいい証拠だと思う。多分師匠も同じ考えだったんじゃないかな。
「それじゃあ、一緒についてきてほしい」
「ん」
タレスさんがドアを開けて入っていく。私もすぐにそれに続く。
教室の中は、長いテーブルがいくつも並ぶ部屋だった。三人ほど並んで使える程度のテーブルが、横三列、縦五列で並んでる。実際には二人ずつ使ってるみたいだけど。
教室の奥に広い台が置いてあって、その台の上にもテーブルと、そして真っ黒な魔法板が浮かんでる。あそこが先生用ってことだね。
タレスさんに手招きされたので、一緒にその台の上へ。みんなの視線が、タレスさんじゃなくて私に向いてる。どれもが興味深そうな視線だ。
『転校生に興味津々な生徒って感じ』
『とても分かる』
『リタちゃんの噂とか流れてたりすんのかな』
あるかもしれない。だって、視線の中に知ってるものがあったから。
最前列に座るエリーゼさんが、目をきらきらさせて私を見ていた。ちょっと怖いかも。
「みんな、おはよう」
タレスさんがそう言うと、さすがに視線はタレスさんの方へと向いて……、いや半分以上は私に向けられたままだね。
「今日は留学生の紹介だよ。この子はリタ。期間は詳しく決まってないけど、しばらくの間、君たちと一緒に学ぶことになる。ただ、この子はどの授業に出てもいいと学園長から許可されているから、いないこともある」
エリーゼさん以外の生徒たちが不思議そうに首を傾げた。改めて聞いても特別待遇だからね。人によっては不快かもしれない。
「何故、と思うかもしれないけど……。この子は、隠遁の魔女の弟子なんだ」
そうタレスさんが言うと、みんなが目を丸くした後に小さな声でささやき始めた。さすがに黙って聞き流すのは難しかったらしい。
でも、反応は千差万別だね。
「隠遁の魔女って聞いたことある?」
「ないよ。先生が言うぐらいだから自称じゃないだろうけど」
そんな、そもそもとして知らない人がいるのはもちろんだし、
「隠遁の魔女って、つい最近に魔女の称号と二つ名が与えられた最新の魔女だよね!」
「スタンピードをたった一人で解決したなんて聞いた!」
私のことを知ってる人もやっぱりいるみたい。スタンピードの方で知った人が多いみたいだね。あれはさすがに少しやりすぎた気がする。
タレスさんが苦笑いしつつ手を叩くと、すぐに静かになった。
「質問がある人は、リタさんの迷惑にならない程度に本人に聞いてください。席は……」
「ここ! ここが空いてます!」
叫んだのは、エリーゼさんだ。確かにエリーゼさんの隣は空いてるけど、そのもう一つ隣は普通に生徒がいるよ? どの机もみんな空けてる部分だよ?
「えっと……。いいのかな?」
さすがにタレスさんも困惑しながらそう聞くと、もう一人の生徒も笑いながら頷いてくれた。
「それじゃあ、リタさん。今日はあの席で」
「ん」
正直なところ、エリーゼさんの隣はあまり気が進まないんだけどね。悪い子じゃないけど、質問がすごく来ちゃうから。楽しくないわけじゃないんだけど、たまに疲れる。教えるより研究する方が楽しいから。
でも、知らない人の間に座るのもちょっと怖いし……。それなら、エリーゼさんの隣の方がいい。
「よろしくね」
そう言って隣に座ると、エリーゼさんは花が咲いたような笑顔で頷いた。
壁|w・)さらっと配信魔法の補足説明。
学園生活、ようやくスタートです。なお、あまり長くはやらない予定……かもしれない。
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