1年前には、婚約破棄されることを、すでに知っていましたので……
ビルント侯爵家の長男、ラウルス・ビルント様は、私にとって王子様のような存在でした。
ラウルス様は端正な顔立ちで、礼儀正しく、文武両道なことから、あらゆる女生徒たちから憧れの対象として見られている。
すれ違うだけで、女子たちから黄色い声援が送られるほど。
それに対し、ラウルス様は笑顔で応えるため、余計声援が増える。
まさに、彼を慕う子女たちは数え切れないほどいる。
「そんな、ラウルス様と婚約されているなんて、本当に羨ましいですわね」
「あはは……」
わたくしこと――アリウルは苦笑した。
そう、ラウルス様は私と婚約している。
許嫁というやつで、幼い頃に両親が決めたことだ。
「ねぇ、ラウルス様とは普段どんな会話をなさるんですか?」
「わたくしも聞きたいですわ。普段のラウルス様のこと」
だから、あらゆる女子たちに羨ましがられる。
こんな風に質問攻めにあうなら、まだマシで、嫉妬された女子たちに嫌がらせなんか受けることも。
「そうですね、普段でもあんな感じですよ」
困惑しつつ、そう答える。
実際、ラウルス様は二人きりのときでも、いつものように凜々しい態度で私に接してくれる。
「本当アリウル様は羨ましいですわ!」
羨ましい。
ラウルス様と許嫁なんて、なんて羨ましいんだろう。
何百回と聞いた言葉だ。
とはいえ、悪い気分ではないのよね。
ラウルス様のおかげで自分はなにもしてないが、こうしてみんなから憧憬の対象として見られるのは、正直悪くない気分だ。
「あっ、ラウルス様よ!」
「こっちに来てるわ!」
確かに、目線の先には、ラウルス様がこっちに向かってきていた。
今は学園で友達たちとお昼を食べている最中だったので、ラウルス様もちょうど食べ終わったところなんだろうか。
「やぁ、子猫ちゃんたち、ご機嫌はいかが?」
ラウルス様は私たちに近づくと、楽器を奏でてるような魔性な声をもって、そう呟く。
彼の声は、聞くだけで心臓を打ち抜かれるような力を持っている。
「あの、ラウルス様、今度わたくしとダンスパーティに行きませんか?」
「あぁ、ずるいですわよ。わたくし、舞台のチケットを持っていますの? もしよければ、ご一緒に」
ラウルス様に話しかけられるチャンスと知ると、彼女たちは一斉にデートのお誘いをする。
一応、ここに婚約者の私がいるんだけどね……。
よく、私がいる前でそんなことができるわね。
それに対して、ラウルス様は完璧な対応した。
「君たちのお誘いは嬉しいけど、ごめんよ。僕には、すでに心に決めた人がいるんだ。ねっ、アリウル」
そう言って、ラウルス様は私の手をとった。
瞬間、黄色い声援と共に「羨ましい」なんて声が聞こえてくる。
「ラウルス様、こんな公衆の面前で、恥ずかしいです」
そう言った自分の声はどこか浮ついていた。
「いいじゃないか。僕と君の仲を見せつける絶好のチャンスなんだから」
ラウルス様は微笑みながらそう言う。
トクン、と心臓が跳ね上がる音が聞こえた。
やっぱり私、この人のこと、好きだ!
幼い頃は、全く意識してなかったのに、歳を重ねるにつれ、ラウルス様はかっこよくなる。
その上、私のことをすごく大切に扱ってくれる。
こんな人と結婚できるなんて、私はなんて幸せなんだろうか……!
◆
『一年後、あなたは婚約破棄されます』
「……え?」
そう告げられて、ショックで動転する。
〈予言の鏡〉、そう呼ばれる魔法の道具を偶然手に入れた。
その鏡に話しかけると一度だけ、その人の未来を教えてくれるというものだ。
ちょっとした出来心だった。
お父様が、珍しい物を手に入れたと言って、〈予言の鏡〉を見せてくれたのだ。
だから、夜中にこっそり〈予言の鏡〉が置いてある部屋に来て、話しかけたのだ。
「私とラウルス様の未来を占ってください」
と。
その結果、告げられたのは、婚約破棄されるという事実だった。
『ラウルス様ですか、なるほど、文武両道、完璧な顔立ち、性格も完璧な男ですね。彼、一見、あなたのことを好きであるかのように振る舞っているけど、実際は、あなたのことなんとも思ってないですね。いや、あなたのことを嫌っています』
「……え?」
『でも、それは当たり前かと。なにせ、あなたはなにもかも平凡以下。いや、むしろ悪すぎる。唯一誇れるのは、家柄だけですか。そんなラウルス様があなたに好意を抱いてるわけがないのは当たり前かと』
「う、うそよ! だって、私に好きって言ってくれたわ!」
『それ、嘘ですね。そうやってあなたに好きと囁くのは、そうすることで自分の好感度が上がると思っているから。所詮、あなたはラウルス様にとって、自分を引き立てるための道具。内心は、ラウルス様は婚約破棄したくて堪らないって感じです。ふむふむ、他の女と無理矢理くっついて、あなたと婚約破棄するつもりのようです』
「……やめて」
気がつけば、そう口にしていた。
けれども、〈予言の鏡〉は止まらない。
『婚約破棄されるのは、一年後の舞踏会です。それまでに、気持ちの整理でもつけておくのが賢明かと助言します』
という言葉を残して〈予言の鏡〉はなにも喋らなくなった。
その日から、私の気分はひどく落ち込んだ。
てっきり、憧れのラウルス様との幸せな生活が待っていると思ったのに、なにかもが幻想だったのだ。
数日はショックで食事も喉に通らなかった。
両親には心配されたが、こんなことを誰かに話せるわけがない。
「一人にして……」
そう言って、私は部屋に引きこもりがちになった。
心の整理がつくまで、誰とも会いたくない。
三ヶ月も経つと、流石に気分は落ち着いてきた。
確かに、〈予言の鏡〉が言っているのは、紛れもない真実だった。
私はかわいくないどころか、少し太っているし、勉強もできなければ、魔法も使えない。
性格だって、別にいいわけではない。
そう、私とラウルス様が釣り合っていなかったのは、誰の目にも明らかだった。
「だから、婚約破棄されるのは当たり前よね」
そもそも、ラウルス様と結婚できるからって、今までなんの努力もしていなかった私が悪いのだ。
むしろ、ラウルス様の婚約者という立ち位置は、自分には重すぎる気もする。
婚約破棄されることを、むしろ前向きに捉えてもいいのではないだろうか。
よしっ、完全にふっきれた私は引きこもりをやめ、再び学園に通うことを決意した。
「あら、アリウル。もう大丈夫なの?」
「今まで、ご心配かけて申し訳ありません、お母様。私はもう大丈夫ですから」
「そう、だったら安心ね」
そう言って、お母様は微笑む。
「そういえば、アリウル、少し痩せた?」
お母様の言葉で初めて気がつく。
確かに、ショックで食事が喉も通らなかった日々が続いていたからなのか、少し痩せた気がする。
そうだ、いい機会だし、自分磨きでもしてみようかしら。
それから、私は学校に通いながらも、何でも努力するよう心を改めた。
どうせ、ラウルス様には婚約破棄されるのだ。
ならば、他の殿方と結婚するためにも、努力をしないと。
「やぁ、アリウル。今日も美しいよ」
ラウルス様はというと、変わらずこんな調子だった。
周りからは羨ましいっていう声援があがる。
まぁ、これが演技だってわかっているのですけどね。
甘い言葉を囁きながら、裏では私のことを馬鹿にして、他の女と遊んでいるに違いない。
そう思うと、なんか腹が立ってきた。
もう、ラウルス様に対する好きって感情は、とっくに消え失せていた。
だから、冷静に対処する。
「ラウルス様、そう言っていただけるのは光栄ですが、正直、あなたにそう言われても、私はなんとも思わないので」
「え……っ」
ラウルス様が目を見開くのがわかる。
よし、これからはラウルス様に冷たく接することにしよう。
どうせ婚約破棄されるんだし、これでいいはずだ。
◆
未来で婚約破棄されるのを知ってから、確実に私は変わった。
ということか、むしろ日々が充実しているような気さえする。
「なんだか、アリウル様、最近きれいになりましたよねー」
「そうかしら? 自分ではそうは思わないけど」
「ええ、絶対そうですって」
「まぁ、そこまで言うなら、信じますけど」
今までは、ラウルス様と婚約してるなんて羨ましいって言葉しか言われなかった。
それが、徐々に、自分に対して、なにか言われることが増えた。
勉強も礼儀作法も努力しているおかげで、褒められることも増えた。
それがなんだか、楽しいとさえ思えるようになったのだ。
というか、今までの私が怠けすぎだったのだと反省だ。
「あぁ、ラウルス様は今日もかっこよかったですわねー! いいですわねー、ラウルス様と婚約してるなんて、本当に羨ましい限りですわ」
だからといって、ラウルス様がみんなの憧れの対象という事実には変わりない。
以前と同じく、ラウルス様との婚約を羨ましがられることはしょっちゅうだ。
「あんな男、別に大したことないですよ。正直、結婚なんてしたくないぐらい」
だから、ラウルス様のことは貶すことにした。
〈予言の鏡〉によれば、今頃、ラウルス様は婚約破棄の計画を着々と進めているんだろし、別にいいだろう。
「そんなっ、ラウルス様ほど完璧な殿方なんて存在しないですわよ」
「あんな男、皮がいいだけです。私たちに、かっこよく振る舞っているだけで、内心私たちのこと馬鹿にしているんですよ」
「そ、そんなことないと思いますけど」
「いいえ、絶対そう。ああやって、猫かぶって、キャーキャー言われることで自尊心満たしてる最低な男よ」
「ラウルス様のことを貶すなんて、さ、最低ですわね! そこまで言うなら、ラウルス様との婚約を破棄してくださいまし!」
「どうぞ、どうぞ。欲しいなら、あげるわよ。婚約破棄なんて、むしろ自分から進んでやりたいぐらい」
「さ、最低ですわね! あなたっ!」
ラウルス様の悪口言い続けたからだろう、友達が減ってしまった。
でも、冷静に考えれば、そういう友達は、始めから私と仲良くしたいと思っていなくて、ラウルス様に近づきたいから、私と仲良くしていた人ばかりだった。
「私もラウルス様みたいな人、苦手なんだよねー。なんか眩しすぎるというか」
「あ、それわかる。私もラウルス様のような完璧な男より、どこかしら欠点ある人のほうがかわいげがあって、好きかも」
「そうそう、欠点があるほうが、支えてあげたいって思うよねー」
気がつけば、私の周りにいる友達は、自然と自分と波長が合う子ばかりになっていた。
以前の友人関係は失われてしまったけど、今の友人のほうが話していて、楽しい。
なにせ、ラウルス様の悪口を言うと、彼女たちは同意してくれるし。
「やぁ、僕の愛しの人よ。今日も美しいね」
ラウルス様はというと、相変わらず私に対して、甘い言葉を囁き続けた。
「あ、ラウルス様。私はあなたの顔を見て、不快になりました」
だから、堂々と彼に対して、冷たく接することにした。
どうせ婚約破棄されるんだし、今まで以上に嫌われてしまっても構わない。
「えっと、アリウル嬢、今日は機嫌が悪いのかな?」
「ええ、さっきまで機嫌が良かったのに、あなたが来たから、機嫌が悪くなったんです」
「え、えっと……」
「あと、公衆の面前で、さっきのようなセリフを言うのやめてもらえます? あなたのキモいセリフを聞くと、鳥肌が立つんで」
「わ、わかったよ」
困惑しながらも、彼は頷いてくれた。
ラウルス様もこれ以上、ここにいると私の機嫌が悪くなるとわかってか、大人しく去ってくれた。
それから、私は仲良い友達との談笑を再開した。
「確かに、あのセリフはキモいねー。なんで、だろー?」
「ナルシストみたいだからだと思いますの」
「なるほど、鳥肌の正体はそれね」
という感じの談笑だ。
うん、やっぱり今の生活は楽しい。
◆
それから私はラウルス様に冷たく接し続けた。
「やぁ、アリウル。今日はご機嫌いかがかな?」
すれ違いざま、ラウルス様がそう言ってウインクをしたら、
「私はあなたの顔を見て、機嫌が悪くなりました」
と、返した。
また、あるときは、
「ねぇ、今から、この僕と一緒に食事はどうかな?」
「嫌です。あなたと食べるなら、泥を一人で食べるほうがマシですので」
また、あるときは、
「ねぇ、アリウル。劇場のチケットが手に入ったんだけど、欲しくないか? ほら、以前君が好きだと言っていた舞台だよ」
「あら、ありがとうございます。楽しみたいので、一人で行きますね」
という感じで、冷たく接し続けた。
ラウルス様の婚約者のくせして、冷たく接するのはサイテーだと、他の女子生徒たちからは顰蹙を買うようになったが、今まで「ラウルス様と婚約なんて羨ましい」と言われ続けるよりは、ずっと気分がいい。
というか、冷たく接していれば、ラウルス様も私のことを嫌って話しかけなくなると思っていたけど、意外としつこい。
まぁ、「冷たくあしらわれても、話しかけてる自分はなんて優しいんだろう」とでも思っているのだろうか?
実際、周りの女子生徒たちは、ラウルス様に対して、そう思っているみたいだし。
◆
「今日が、婚約破棄される日ですね」
〈予言の鏡〉に占ったのが、ちょうど1年前。
そして、今日、婚約破棄される舞台となっている舞踏会が開かれる。
確か、学校主催の舞踏会だ。
当然、ラウルス様も参加される。
どんなふうに、婚約破棄されるんだろうか?
なんだか、楽しみにも思えてきたかも。
それじゃあ、婚約破棄をされに舞踏会に挑みましょうか。
「アリウル嬢、君に言いたいことがある!」
舞踏会の終盤、ラウルス様が声を張り上げた。
どう見ても真剣な眼差しだ。
これから婚約破棄されるのは明らか。
「あら、大声なんて出されてはしたない。一体、なんのご用かしら?」
皆が注目する中、私は堂々とした立ち振る舞いでそう口にする。
「ぼ、僕と――」
僕と婚約破棄してくれ、ってところかしら。
それで、僕には君がいかに相応しくないかってことを主張して、私を貶す未来まで見えましたね。
その上、僕には他に素晴らしい人がいるから彼女と結婚する、と紹介される可能性まであるのかも。
「ぼ、僕と、婚約破棄してください。お願いします」
土下座するラウルス様の姿がそこにあった。
あれ? 想像していたのと、大分違いますね。
「えっと、理由をお聞きしてもいいですか?」
「だって、君、僕のこと嫌いだろ?」
「ええ、そうですけど……」
まぁ、好きか嫌いか言われると嫌いだ。
婚約破棄するとわかっている相手を好きになれるはずがない。
「ほら、やっぱりそうじゃないか! 僕は君のこと、こんなにも愛しているというのに、君はそうじゃない。だから、婚約破棄してくれ。正直、君に嫌われているとわかっていながら、結婚なんて辛すぎてできそうにない」
と、ラウルス様は涙を流しながら、そう主張した。
普段人前では見せないラウルス様の表情に、会場の人達は困惑している。
というか、今、この人、なんていいました?
『僕は君のこと、こんなにも愛しているというのに』って言いましたか?
あれれ? どういうことですの?
「えっと、ラウルス様も私のこと嫌いなんでしょう?」
「なに言ってんだよ。僕は君にいつも好きだって語りかけているじゃないかっ!」
「あんなの全部演技だって、わかっていますけど」
「えっと、確かに、演技ではあったけど……君が好きな気持ちに変わりはない」
ラウルス様は言いづらそうなことを告白するような表情をしていた。
演技ではあったけど……私のことが好き?
「えっと、もう少し、事情を詳しく聞かせてください」
ひとまず、彼の本心を聞いてみよう。
◆
僕――ラウルス・ビルントは自分で言うのもなんだが、恐ろしいほど優秀で完璧な人間だと思う。
かっこいいのは当然として、文武両道でなんでもそつなくこなすことができる。
ただ、一つだけ不満があるとすれば、それは許嫁である――リリウス公爵家の長女、アリウル・リリウスの存在だ。
アリウルは見た目も少し太っていてかわいくないし、なにかが得意ってわけでもない。
なにより嫌いなのは、僕が婚約者であることを自慢することだ。
僕は、自分でいうのもなんだが周りからものすごくモテる。
僕自身は、異性にはあまり関心はないが、モテるという事実に浸るのは嫌いではなかった。
だから、より異性から好まれるよう振る舞うよう意識していた。
それは、嫌いなアリウルも例外ではない。
けど、決めてはいた。
どんな手を使ってでも婚約破棄をしようと。
婚約破棄するのは簡単ではない。
アリウルのほうが家柄も上だし、婚約破棄するにはなにか正当な理由が必要だ。
けど、準備はできている。
アリウルよりも上の家柄の娘を利用すれば、できなくはないはずだ。
そう思っていたのだが、
「正直、あなたにそう言われても、私はなんとも思っていないので」
家に引きこもったアリウルが出てきたと思ったら、僕に対して邪険な態度をとるようになった。
それからもアリウルは僕に対して冷たくなった。
引きこもっている間に、なにがあったかわからないが、アリウルは変わったのだ。
その上、アリウルは痩せて見た目も美しくなっていたし、勉学や礼儀作法に関しても努力するようになった。
アリウルは変わったのだ。
だから、気になって何度も話しかけた。
なのに、アリウルは決まって僕に冷たくした。
冷たくされればされるほど、僕はなぜかアリウルのことが気になって仕方がなくなってきた。
今まで、僕の周りには、僕に対してチヤホヤする女しかいなかった。
僕に対して、邪険な態度をとるアリウルの存在は、僕にとって未知の存在だったのだ。
そして、気がつけば、僕はアリウルのことをいつも目で追うようになっていた。
それが、好きだってことに気がついたのは後になってから。
だというのに、アリウルは僕に対して、冷たい態度しかとらない。
だから、決めたのだ。
僕はアリウルから身を引こうと。
◆
「え、えっと……」
ラウルス様の本心を聞いて、戸惑っていた。
つまり、以前は私のことが嫌いだったけど、冷たくされたことで私のことを好きになったってことなのかな?
……えーっと、もしかして、彼ってドMなの?
うん、よくわかんないや。
まぁ、でも好きと言われて悪い気はしない。
なにせ、昔の私が彼を好きだったのは、紛れもない事実なんだから。
「そういうことだから、僕は君から潔く身を引くよ!」
そう言って、彼はどこかへ走り出そうとする。
「ま、待ってください!」
気がつけば、ラウルス様の腕を掴んでいた。
「別に、私もあなたのこと、嫌いではないので」
「え、えっと……」
こうなったら話すしかないのだろう。
ここ最近、自分になにがあったのか。
なにせ、ラウルス様は全て話してくれたのだから。自分も話さないとフェアではない。
だから、話した。
〈予言の鏡〉のことを。
その鏡のせいで、なにがあったかを洗いざらい全て話した。
「――ということです」
「そうか、話してくれてありがとう」
そう言って、彼は微笑む。
話してくれてありがとう、か。なんて優しい言葉なんだろう。
その笑顔に少しだけドキッとされた。
「それで、アリウルは僕のこと好きなの? 嫌いなの?」
「それは……」
どうなんだろう。
昔の私は彼のことが好きだった。けど、〈予言の鏡〉と出会ってから、好きって感情が失せていたのも事実だ。
そして、今はどうかというと……。
「保留じゃ、駄目ですかね?」
好きか嫌いかなんて、しょっちゅう変わることを身を以て体験したばかりだ。
私もラウルス様もそうだった。
だから、未来の自分がどう思っているかなんてわかりようがない。
「だから、婚約破棄も保留ってことで」
だから、好きか嫌いか決めるのは未来の私に託そうと思う。
「アリウル、愛してる……っ!」
そう言って、彼は私のことを強く抱きしめた。
すると、パチパチと拍手が鳴り響く。
そういえば、ここは舞踏会の会場だった。つまり、今までやりとり全部見られてたってことか。
これは、非常に恥ずかしい……。
うん、やっぱり彼のこういう大胆なところは、嫌いだ。
だから、あとで、そう言ってやろう。
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