初めましてご挨拶
うちの学校は桜の名所らしくその時期になると桜を見に、と観光客がよく来る学校だった。残念ながら今は葉桜の季節だが。と若干暑さすら感じる陽気を
眼鏡越しに恨めし気に見つめた。
県立赤崎高等学校、うちは水泳と桜が有名な学校だと本庄百合葉は自認している。
つい最近、といっても二十年ほど前にできた学校でそうにも近くにあった墓地を取り潰して作られたらしい学校は、『その筋の人間』からすればどうやら噂に事欠かないような場所であるらしい。らしいとしか言えないのはそういう話を聞くほど本人は怪談というものが好きではない、というよりはミーハーではなかったのだ。
ただ学校は広い、広い学校はステータスだ、なんていうのは両親の一言だが実際県立高校にしては広い校に多い人数いわゆるマンモス校であるのだと思う。プールは三か所あり、体育館は二つある。実業棟があり、選択授業には生物バイオテクノロジーなどという大学顔負けの授業もあるほどだ。
その中で本庄百合葉は本当に平凡な人間である。授業態度もテストも平々凡々、だからと言って運動ができるのかといわれたら運動だって平凡な類だし見た目だって特筆するべきは金色のフレームの丸眼鏡をこの年で使っているくらいだ。しいて言うならば、百合葉という名前で性別を間違えられるくらいだ。
閑話休題、というわけではないが、本当に特筆すべき点は入学式から席替えをしていないが故に、半年ほど隣の席に居座っている少女だと百合葉は感じる。記憶力はそこまで悪いわけではない、よく言うとここも平々凡々である。
音時アンネという少女だ。学校指定の臙脂色のジャケットを椅子の背もたれにかけては、ワイシャツとこれまた学校指定のグレーのニットジャケットを腕まくりしている。そこから見える肌はいっそ生白いほど白く、数年日焼けしていないくらいではこうはならないだろうといいたくなるほどの、いっそ生気がないほどの白い肌と、それをさらに白く見せるほど黒く長い髪が特徴の少女だ。
じぃ、とその様子を見つめていると百合葉の視線に気づいたのか、アンネは小首をかしげて声を彼にかけてきた。
「本条くん?どうしたです?アンネにご用事ですか?」
「いや、別に……」
ただ、どうやったらそんなに白くなるのかと思って、なんて一歩間違ったら性的言動にとられるのじゃないかと思えば恐怖で口からそんな言葉なんて出ない。
音時の特筆すべき点なんて山ほどあるけれど、と百合葉は思う。一番はこのちょっと片言チックなしゃべり方である。外国人とも帰国子女とも聞いてはいないから素でこの喋り方なのだろう。かわいい、などと思ってしまうのは見目の美しさも相まっているのだろうか。
今度こそ閑話休題だ。
「本条くん、アンネは気になることがあるです!」
「気になること?」
「はいです!なんであの赤い桜だけはまだ咲いてるですか!」
指をさした音時の指先も生白くて、いわゆるアルビノなんじゃないかとすら思うが、多分違うのだろう、目が黒いことが何よりの解答な気がする。百合葉はそう思いながら口を開く。
「あぁ、ほかはもう葉桜だからか。それはな」




