#01
初めての投稿ですが、どうぞよろしくお願いします。
─白樫や粗樫と言った、カシ類の広葉樹が広がる森の中。
天高く伸びる木々の枝葉の隙間からは太陽の光が差し込み、枯葉と枯木で作られたクッションのような、柔らかい地面が斜面に沿って広がる。その森を駈ける陰が、二つばかり。
─ドカラッ、ドカラッ。
重い、しかし軽快なリズムを重ねる2つの足音が、大地を揺らし、木々に誤字を落ち着けている鳥たちは、飛び去ることも無く足下を眺めている。
茶色い毛を生やした、鹿のような動物─シアプカと呼ばれている─に跨り、二人は樫の木を巧みに避けていく。木綿の貫頭衣に身を包んだ少年と少女の視線の先には、一頭の猪の姿が。
「ヤヒロ、私は横から回り込むから。貴方はこのまま!」
「分かった、気をつけろよヤエ!」
「言われなくとも!」
ヤヒロと呼ばれた三つ編みの少年は彼の飼うシアプカの手綱を離し、背の矢筒から一本矢を取り出すと、彼らが「マカコ」と呼ぶ弓を構える。
眉間の間に弓を置くイメージで、視線は常に獲物の方への固定する。
幼い頃から父に口を酸っぱくして言われた狩りの基礎を脳内で反復し、ヤヒロはギリギリと弦を引っ張る。呼吸を詰めず、腹に力が溜まっていくのを落ち着いて待つ。
よく調教された彼のシアプカは速度を落として突き放されないようにしつつ、主人の構えが乱れないように起伏の少ない道を駆け抜ける。
「しっ!」
刹那、ピュンと風を切る音と共に矢が放たれる。弦が揺れ、シアプカの背で残心を取りながら、矢の行く先を見定める。太い木の幹にしっかりと突き刺さる威力を持つ矢は、真っ直ぐに飛んでゆき、猪の背に着弾した。
「どうだ、やったぞヤエ!」
「こら、狩りの時に喜ばないの」
「…あぁ、ごめん」
右腕を突き上げて喜ぶヤヒロを、結われた長い髪を揺らしながらヤエは注意する。彼ら”山雅やまが”にとって狩りは神聖な行為であり、それはイスラム教徒がメッカに向けて巡礼するのに等しい行為なのだ。二人はシアプカの速度を落とし、ゆっくりと動かなくなった猪の元へと寄っていく。
ペルシャ絨毯のように滑らかな光悦茶の毛並みは一連の戦いで乱れ、矢の刺さった部位からは鮮血が流れる猪を前に、二人は示し合わせた訳でもなく、同時に目を閉じて祈りを捧げる。
──猪よ、貴方の聖なる肉を頂くことに感謝します
数秒か十数秒かが過ぎてから、ヤエは地面に降りて猪を担ぐ。麻の縄で死体をシアプカの後ろに括り付けてから、来た方向へと向いた。
「さ、帰りましょ。”イム”の皆が待ってるわ」
「そうだな。…にしても、今日は中々いい猪が採れたな。今夜は猪鍋かな〜」
「ホントにアンタってヤツは…もうちょっと慎みなさい」
気の知れた仲らしい、他愛もない会話を交わしながら、二人は彼らが今暮らす”イム”へと帰っていった。