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その日チェリーは風俗に行く

作者:

実話を元に、書きました。

つまり、半分フィクションと言うことです。


登場人物

・主人公

・そいつ(主人公の数少ない友達)



 高校が一緒で仲良くなり、別々の大学に進学したそいつとは、きっとこのままずっと友達付き合いを続けるんだろうなと思っていた。


 そんな友達。


 今までは無料のソシャゲのガチャの話や人間関係の愚痴、バイトやサークルの話をしていた友達が、まるでそれらと同じ様なトーンでこう話し出した。



 「この前彼女とウォータースライダーのあるラブホに言ってきたんだけどさあ……」



 そいつはたしかに、高校の頃から彼女がいたりいなかったりしていたし、そういう下世話な話をしたことはあった。

 

 だからなんとはなしに、たぶんそう言うことも経験しているとは思っていたし、驚きはなかった。


 だが、俺とそいつとの間に【ラブホ】なんて生々しい言葉は存在していなくて、


 新キャラを当ててそいつの性能が~


 そんな語り口で彼女と行ったラブホテルの性能について話しだされて、すごく衝撃的だったんだ。


 

 「なんでウォータースライダーがラブホにあるねん笑笑。で、どうやったん、そのラブホテル」



 うまく返答を返せただろうか。

 違和感を持たれていないだろうか。


 別になんでもない会話のはずなのに顔の筋肉は固ばり、俺とそいつとの間に大きな溝のようなものを感じていた。


 だが俺は、そんな自分の感情から目を背け、記憶に蓋をしていつもの自分を演じ続けた。


 


 それからも似たようなことは何度もあった。


 今まではなかった下世話な話をそいつがしだしたのは、俺のしらないそいつの新しい大学の友達からの影響だろうか。


 日常的に、そう言う性に関するしょうもない話で盛り上がったりしているのだろう。


 俺も、男なので下ネタはどちらかと言うと大好きだ。


 セクシー女優の話はもちろん、Hなお店の話で盛り上がったりもする。


 なら、なにも問題はないはずだ。


 だからそいつも俺にそう言う話をしてくれているのだと思う。


 だが、そいつの話す行き連りの女の話や、体は弛んでいて不細工だが抱き心地が最高の女の話を聞くたびに、心に黒い何かが貯まっていった。




◇◇◇


 誰しもがそうだとは言わないが、全てにおいて優れている者なんて居ないし、


 みんな違ってみんな良い


 それが偽善で見かけだけのものだとは言え、別に間違ってはいないと思っている。


 それでも、誰かに負けたくない。

 誰よりも良くありたい。


 そんな不可能だが、人間としてどうしても求めてしまう欲求は、決して満たされることはない。


 満たされることがないゆえに、


 コイツにだけは負けたくない!!


 そう言う、規模を小さくして表出し、代替えとして欲求を満たしている。


 つまり、俺はそいつに対して劣等感を感じていたのだ。


 俺の暗い感情に気づいているのか気づいていないのか。


 それがどちらかはわからないが、気づいたときには俺はそいつとの間に大きな溝を感じていた。


 その溝の底から声が聞こえてくる。



 だからお前は童貞やねん

 お前って、チェリーやろ?わかるわ

 あ~、っぽい!たしかに出てるわ、陰の気が

 ぶはっ、その反応が童貞の反応やわ笑笑


 

 そいつ

 大学の顔見知り

 新刊で同席になった同期の女の子

 そいつの弟


 

 それはかつて自分が言われた言葉だった。


 それが俺をその深い谷間から距離を取らせる。


 まだ走ってジャンプすれば渡れたとしても、俺は自ら谷に近づくことが出来ない。

 

 そうだ、俺は陰気な人間だ。


 それは、チェリーだからなのか?

 

 そんなに、性行為をしたことがあるか無いかに意味はあるのだろうか?


 チェリーじゃなくなれば、人は変わるのだろうか?


 きっと、こういう考え自体が陰気でチェリーなのだろうか。


 友達の定義を話し出す教室の端っこにいる奴らと同じで。


 大学に入ると、途端に童貞かどうかを気にする奴らが増える。


 そして同じく、チェリーをバカにされることが増えた。


 性行為をしたことがあるかの有無にどれほどの価値があるのだろうか。


 それだけで人間の価値は上がるのだろうか。


 友達の定義の話じゃないけど、人の価値ってそう言うもので決まるんじゃないと思うから。


 




 

◇◇◇




 高校時代の1番の友人と喧嘩別れしてからも、俺の過ごす毎日は変わらない。


 大学に決められた時間割り通り、一時間目に間に合うように家を出る。


 梅雨に出来たカビが未だに異臭を放つ7月の京阪特急は、今日も朽ち果てずに大阪と京都を往復する。


 午前で講義は終わり、昼からは実習が始まる。


 学部柄、1年から実習がはじまり、それは2年になった今はもちろん4年になるまで続く。


 実家暮らしで、毎朝弁当を用意してお風呂を沸かし、白衣にアイロンを当ててくれていた母と同じ優しい香りが自分の白衣からも香る。


 自分でそれらを準備するようになって、あの香りが母お気に入りの他よりも少し高い芳香剤の香りであったことを思い出して笑いが漏れる。


 自分の服にだけその洗剤を使っていたらしい。


 イタズラがばれちゃったと、ほっぺを指差して

 

 てへぺろ(・ωく)


 といった母に、真顔で歳を考えてほしいと思ったのだったか。


 それも含めて懐かしく、楽しい思い出だ。


 1人、クスクスと思い出し笑いをして、制汗剤の匂いの残るロッカールームを後にする。





◇◇◇




 そう言えば、俺にイベントがメインの派遣バイトを紹介してくれたのもそいつだったな。


 1番多いのは野球の案内スタッフだったが、卓球、プロレス、マラソン、ソシャゲ、アイドルライブ……


 正直、どれも辛い仕事だったが、1番辛かったのは人としてではなく数として働くことだった。


 何かを考えることは求められず、与えられた仕事をこなすことを望まれた。


 それは楽な仕事と言え、ただぼおっと立っているだけのバイトもあった。


 そこに責任はなく、苦労もなく、


 しかし、やり甲斐がなく、時間は長く感じた。


 そうして貯めた金は、苦労に釣り合わないほどあっさりと消えてなくなる。


 月末に金は消えたが手元に何も残っていないことなんてざらにあった。


 だが、今日は違う。


 今日はその尻ポケットにある長財布には一万円札が二枚ある。


 これから何をするのかを考えると、なんとも頼りないが、それが学生らしいではないかと思った。


 俺は今日、風俗に行く。

 





◇◇◇



 ディープな町として紹介される場所は東京、大阪に限らず、どの都道府県にも1つや2つはあるだろう。


 たしかにそう言われる町は夜もランランと輝き、怪しいフード男やいかついスーツの男たち、露出の激しい女がたむろしている。


 しかし、それはディープな町と呼ばれる町だけの話じゃあない。


 すぐそばにベットタウンのある住宅街でも、そう言う人や店はある。


 最寄り駅から7つ先のベットタウンわきにある小さな飲み屋街、そのさらに片隅に目的地はあった。


 そのビルは飲み屋街のすぐ背中に建っていて、表の看板には何階になんと言うBARや、スナックがあるのかが書かれていた。


 書かれていたが、三階の部分だけは空白になっていて何もかかれていなかった。


 それが法律なのか何なのかはしらないが、そこが目的地であった。


 エレベーターは表からは見つからず、目についた非常階段を上る。


 最近塗り直されたのか、新しい黒色の階段からは強いペンキの匂いがした。


 カーン

 カーン

 カーン

 カーン……


 初めは恥ずかしくて、酒を飲んでから行くべきかと思っていたが結局それは止めた。


 だが、今に思うとその必要はなかった。


 カーーン

 カーーン

 カーーン

 カーーン……


 その音は、自分が今までいた世界とは別の世界に飛び移っている音に感じた。


 全く酒気を帯びていないはずなのに、どこか頭がぼおっとする。


 興奮しているのだろうか。


 急速に早まる血流に、体が熱く感じる。


 カーーーン

 カーーーン

 カーーーン

 カーーーン……


 音が間延びして感じる。


 一歩一歩が重く感じる。


 それでも足は止まらない、いや止めない。


 カーーーーン……


 都合、3つ目の扉に差し掛かった。


 1階、2階、3階、もう夏だと言うのに、なぜか寒く感じる。


 それなのに吹き出て止まらない手汗をズボンでぬぐい、扉を開ける。


 廊下に入り見渡す限り暗く、どこも扉は固く閉ざされているが、1番奥手の扉は開け放たれていて、そこから中の明かりが漏れ出している。


 かなりの距離はあっても、直線上に違いはなく。


 カウンターの小窓から無精髭をたくわえた口元がこちらにニヤリと嗤いかけている。




◇◇◇



 Lulululululululu……プツッ



 『あー、もしもし……』



 「もしもし、久しぶり、元気してる?」



 『まあ、ボチボチかな。ってか、昨年留年したわ』



 「それはだるいな。でも、らしいわ」


 

 『失礼なこと言うな~、おまえ』



 「ははは、ごめん……」



 『それで、急にどうしたん?』



 「…………あの、謝りたくて。あの時はごめん」



 『…………』



 「大学でうまく行かんくて、新しい環境に変わってしんどくて、それはみんな変わらんけど、そんなこともわかってなくて、近くにいた人に誰彼かまわず当たり散らして、それで……」



 『ええよええよ、気にすんなや、俺らの仲やんか……って言っても良いんやけど、まあ、それは建前で、お前から謝ってきたから許したるわ。お前が自分から謝ってきたってことが大事やねん。それがわかったから、許したるわ……ラーメン一杯でな!』



 「すまん……ありがとう」




◇◇◇


 あの日チェリーの俺は風俗に行って、チェリーを卒業した。


 でも俺は、自分で自分の事を変わったなんて少しも思えないし、誰にも変わったとは全く言われない。


 それにたぶん、俺からなにか言わなかったらそいつは俺がチェリーがどうかなんて気づかないと思う。


 俺は、いきなり風俗に行って、そこまでに必要な全てを金で解決して、チェリーを捨てた。


 俺はもうチェリーじゃない。




 でも、そいつが言うチェリーかどうかと言う意味では、俺はチェリーなんだと思う。


 《チェリーかどうか》には、女性に、いや、人に選んでもらえるような人間なのか、と言う意味があるんだと思う。


 その質問を短くまとめ、意図を気づかせないと言う意味では確かにチェリーかどうかを訪ねるのはやり易いのかもしれない。


 しかし、


 人に自分を好きになってもらい、そして選んでもらえる。


 そのフィルターにかけられたからと言って、それはその人の何を保証する物でもない。


 フィルターの先に行けたとしても、素晴らしい人も居れば、ドブのような悪臭を放つ人間もいる。

 

 ならばその有意義に機能しない質問に、フィルターに意味はあるのだろうか?


 わざわざ、チェリーかどうかと、質問を濁してまでたずねる意味はあるのだろうか?


 そもそも、本当にその人の価値を測ると言う使い方をされているのだろうか。


 それはすごく好意的に見ただけであって、実際そんな深い意味はなく、そいつは、言葉通りにチェリーかどうかをたずねていたのではないだろうか。


 それは、


 男同士の格付けに、


 マウントの取り合いに、


 優越感を感じるのに、


 使っているんじゃないだろうかと思う。


 



































 だから俺は、お前を大切な親友だと思っているけど

 それと同じくらいに大っ嫌いだ。


 

最後まで読んでいただき感謝感激です。


余談ですが、大学に入るくらいの年齢からですね、嫌な人とも仲良さげに付き合わなければならなくなるのは。

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