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16 切れた糸

「気になります、その『中の国』から来られたお方」

「ええ」


 マユリアの言葉にラーラ様もそう答える。


「今、客殿に滞在されています」

「え?」


 マユリアには初耳であった。


「なぜですか?」

「キリエの責任で預かった客人だそうです」

「キリエの?」


 これも初耳であった。


「わたくしは伺っておりませんが」

「ええ、わたくしも謁見の時に初めて知りました」

「事情をお聞かせ願えますか?」

「はい」


 ラーラ様はキリエからではなく、今は客殿の「中の国」の方の部屋付きになったアーダから事情を聞いた。


「では、『エリス』とおっしゃるその方は、他の奥様方の手から逃れてこの国に来られて、ご主人からの迎えを待っていらっしゃる、ということですね。それが、賊に襲われ、宮に保護を願い出た、と」

「そのようです」

「キリエはなぜ自分の預かりにしたのでしょう?」

「アーダによると、やはり身元がはっきりしないということを問題にしたようです。それで、宮の責任で預かるのではなく、自分の責任で預かると」

「何かあった時には自分の責任だということですか。キリエらしいですね」

「ええ」


 おかしくはない話であった。

 完全に問題がないと判断できない、だが状況を見て見放すこともできない、そうキリエが判断したとすれば、そのような形にするだろうと思えた。


「託宣の時、ラーラ様がお付きになられたのは偶然ですか?」

「ええ」

「そうですか」


 だとしたら、キリエが一行をラーラ様に引き合わせようとしたのではあるまい。


「初めはネイが付く予定だったのですが、急用ができてわたくしがお付きすることになったのです」

「急用?」


 マユリアがふっと顔を上げてラーラ様に聞く。


「ええ」

「その急用がキリエからのものであれば、キリエがラーラ様を『中の国』の方に引き合わせるためにやったということも」

「え?」


 ラーラ様は考えもしていなかったようだ。


「一体なんのために」

「いえ、まだ少し考えをまとめてみないと」


 マユリアはそう言い、その話はそこまでとなった。


「ラーラ様は、今こうなってみてつながりを感じられますか?」


 マユリアの質問にラーラ様が困ったような顔をする。


「いえ……」

「そうですか……」

「マユリアは?」

「いえ……」


 お互いに尋ね合い、答えを聞いて黙る。


「つながりを感じる」とは、当代シャンタルとの間に、二千年の間ずっとつないできた代々シャンタルのつながりの糸の存在を感じるか、ということである。2人の間で何回も話題になってきたことだ。


「そもそもわたくしは十八年も前に人に戻った身、本来ならば先代との間にも感じられなくても不思議ではありません」

「ええ。ですが、先代があのような形でラーラ様とわたくしの体を借りていらっしゃったから、それでつながりができていたのでしょう」

「わたくしもそう思います」

 

 先代、「黒のシャンタル」は強い力を持ち、その存在すべてをこの国「シャンタリオ」とその神域のために使っていた。

 そのために自身を封印し、感覚を封印し、外のことを知るためには、ラーラ様とマユリアの体を借り、己は深く眠っていたような形であった。


「そのために本当に深いつながりができてしまっていた」

「ええ」

「ですが、当代とはそのつながりを感じない」

「…………」


 ラーラ様が無言で首を振り、ため息をついてから言った。


「当代がシャンタルであることは間違いがないのに、なぜなのでしょう」

「そのことは何度も話したと思いますが、答えの出ることではありません。ですが、おそらくは先代の存在が関係あるのだろうとの推測はできるかと」

「ええ」


 おそらくは、と2人が出した結論は、未だ糸の端は先代に、「黒のシャンタル」につながっているからだろう、とのことであった。


 もしかすると当代ともつながりはあるのかも知れないが、先代とのつながりがあまりに深く、それで感じられないのかも知れない。

 もしくは、先代がマユリアにならなかったため、糸が完全に次に渡されることがなく、そこで止まってしまっているのかも知れない。


 シャンタルとして生まれながら託宣をする力を持たぬ当代、その胸の内を思うと不憫でならない。


「ですが、いきなり次代様のご誕生を託宣なさった」

「ええ」

「しかも、常より2年も早く」

「ええ」

「もう確認には行ったのですよね?」


 マユリアが確かめる。


「ええ、衛士と神官が確認に行ったところ、確かにいらっしゃったと」

「間違いはない、と」

「ええ」


 シャンタルの託宣の者がそこにはいた。シャンタルが名を告げたその2人が存在し、しかもご懐妊されており、もう産み月もそう遠くない。

 託宣に間違いはないと言える。


 だが、ラーラ様にはもう一つ、その者が「親御様」と「お父上」であることが間違いないとの確信があった。


 「親御様」については、託宣の場にいない時にはマユリアにどこの誰かを告げることはない。

 なぜならば、マユリアは交代を終えたら「人」に戻る者。「親御様」がどこの誰であるかは明らかにされることではない。市井の者に戻ったマユリアが知る必要はないからだ。


「当代の時もわたくしは託宣を聞いておりません。そして次代様も。人に戻るものに必要はない」


 確認するようにマユリアがそう口にした。

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