15 共犯者
「マユリア、まだお仕事があるの?」
小さなシャンタルが、少し心配そうな顔でマユリアを見上げた。
「ええ、まだございます、ですが」
マユリアが小さな主の顔を見て、安心させるように続けた。
「シャンタルとお昼をいただいて、お昼寝なさる時間ぐらいまではご一緒できます」
「本当!」
小さなシャンタルが喜んでぴょん! と飛び上がった。
「危のうございますよ、転んでケガをなさったらどうなさいます?」
そう嗜めるマユリアの声も、ひどくやさしい響きをしていた。
昼食の時、シャンタルはラーラ様とマユリアに「お食事の手が止まっていますよ」と言われながらも、せいいっぱい自分が経験した「託宣」について、どれほど感動したか、どれほどうれしかったか、を聞いてもらっていた。
「ラーラ様もマユリアもああだったの?」
「ああ、とは?」
「託宣をした時」
黒い瞳がキラキラと輝き、2人の先達の意見を求める。
「どうでしたか……ラーラは何しろ、もうずっと昔のこと、すっかり感覚を忘れてしまいましたわ」
「そうなの?」
シャンタルは今までにも何度もこう聞いてきていた。
「ねえ、託宣をするというのはどのような感じなの?」
聞かれる度にラーラ様は返事に困っていた。
託宣とは、口でどうと説明できるものではない。
やろうとしてやれるものではない。
どうにか言葉にしてみたとしても、理解してもらえるものでもない。
故に、シャンタルの質問の内容は変わったが、やはりまた返答に困るものであった。
「頭の中にリュセルスの街が浮かんできたの。そして男の方とお腹の大きな女の方が見えて、その方たちが親御様だと分かったの!」
それをラーラ様に伝え、その後にそのお二人の名前が浮かんできたのだと言う。
「次代様のご様子については、同じような感じだったと思いますよ」
マユリアが優しい笑みでそう答える。
「やっぱりそうなの?」
それを聞くと小さなシャンタルはうれしそうに笑い、そして恥ずかしそうにまたこう言う。
「同じだった、マユリアと。ねえ、ラーラ様は?」
「わたくしもおそらくそうだったとは思いますが、何しろもう昔のことなので」
ふいに思いついたように、質問の内容が変わった。
「ラーラ様がご覧になった次代様がマユリアなのよね?」
「ええ、そうです」
「そして、マユリアがご覧になった次代様は、シャンタルをご覧になった方なのでしょう?」
「ええ、そうですよ」
「今は聖なる湖に眠っていらっしゃるのよね、シャンタル女神と一緒に、ああ……」
シャンタルは小さくため息をつく。
「お元気でいらっしゃったら、シャンタルのことが見えた時のことをお聞きできるのに!」
そのご様子を2人が少し陰った表情で見守った。
「さあさあ、いつまでもおしゃべりをしていらっしゃったら、お昼が終わりませんよ?」
「はあい」
ラーラ様に言われ、シャンタルは少し肩をすくめたが、その後は大人しく昼食を食べ終えた。
昼食後もしばらくは、そうしてまた色々な質問をしてきたりしていたが、午睡の時間になり、ラーラ様に連れられて寝室へと入る。
「ではマユリア、またお仕事が終わったらお話してくださいね」
「ええ、きっと」
マユリアはその後ろ姿を微笑みながら見送り、しばらく応接のソファに座って待っていた。
「やっとお休みになられました」
ラーラ様が寝室から出てきてマユリアの隣に座る。
「お疲れさまでした」
マユリアが労るようにラーラ様の手を取った。
「それで、託宣のことなのですが」
マユリアの言葉にラーラ様が固い表情で軽く頷く。
「確かに託宣はなされました。そして、次代様も確認されました」
「そうなのですか……」
2人の間に重い空気が流れる。
「ラーラ様はその時のことをご覧になられたのですよね」
「ええ」
「託宣でしたか?」
「おそらくは」
「そうですか」
黙ったまま2人とも目を閉じる。
「あろうはずがないことが……」
ラーラ様の言葉にマユリアも黙って頷く。
2人とも知っているのだ。
当代が託宣を行えないということを。
「わたくしたちは、先代にも当代にも、ひどいことをしているのですね」
「ええ、わたくしたちは共犯者なのです……」
ラーラ様の言葉にマユリアが答える。
「では、次代様の託宣はどなたが行ったということなのでしょうか」
「それは……」
ラーラ様が口ごもる。
「もう一度詳しく託宣の時のことを教えて下さい」
大体のあらましは耳にしている。当代からも、周囲の者たちからも。
だが、ラーラ様から詳しい状況を聞かなくては、真実が何かを知ることはできない。
ラーラ様は3組の託宣のために謁見を求めてきたものたちのこと、その3組目、「中の国」から来た御一行の託宣を行おうとした時に次代様の託宣があったこと、などをできる限り詳しく話した。
「中の国からの方……」
ベールを被り、髪の毛一筋見せぬ中の国の高貴な夫人。
ストールを被り、濃い茶の目だけを見せたその侍女。
薄い茶色い髪と目をしたまだ若い護衛の男。
大ケガをして顔全体に包帯を巻き、左目しか見えぬ黒髪の護衛の男。
そして、その4人に付き添って来たアルロス号の船長という初老の男。
「顔の見える者は若い護衛と船長だけ」
「ええ」
2人の元シャンタルが、言葉にせぬまま心の内をを交わした。




