７ 盗賊と魔法使い
「おつかれさん、よくがんばったな」
「うー、腕が痛い～」
そう言って手をぐりぐりと回しながらも、ベルが褒められてうれしそうにする。
シャンタルも馬車から降りてきて、
「あーずっと馬車の中は疲れるなあ」
そう言ってのんびりと伸びをした。
暗くなってくる中で夕飯をとり、少し休憩したら出発する。
「今度はトーヤ少し休めよ、そんでシャンタル、俺の横だ」
「しょうがないなあ」
そう言って案外すんなりとアランの隣に座る。
「そんじゃ俺はちっと寝る、愉快な連中が出たら教えてくれ」
「あいよ」
そう言ってトーヤは馬車の中に入り、毛布を体に巻くと床にごろっと寝っ転がった。
「座席で座って寝りゃいいじゃねえか」
ベルが言うが、
「おまえが座席で寝転んで寝ろ。また何回かやったら交代してもらうしな。先はまだまだ長い」
そう言ってベルを座席で寝かせる。
ガタガタと馬車の揺れに体を預け、馬車の中の２人は眠りの中に入っていた。
夜が更けていく。天気がいいので暗くなる空にどんどんと星が増えてきた。
「月も結構明るいね」
シャンタルがそう言うのに、
「そうだな」
と、アランも答える。
２人になった時、一番よくしゃべる組み合わせがトーヤとベルだ。次がベルとアランかシャンタル、そしてトーヤとシャンタルかアランが同じぐらいになる。
アランとシャンタルが２人の時は、そんなに話をすることがない。別に仲が悪いわけではないが、単にどちらも自分からはそんなに話をすることがないということだ。今回の組み合わせはそういうわけで、比較的静かな道行きとなった。
「ちょっと持ってみるか？」
もう暗いので、無理に持たせて教えることもないかと思いつつアランが聞くと、
「ちょっとだけ持ってみようかな」
と、シャンタルが手綱を受け取る。
思っていた以上にうまく操る。
「結構うまいじゃないか」
「そう？」
言いながらどうどう、と馬とも息が合った様子だ。
ただ……
「疲れたなあ、交代」
しばらくすると、そう言ってふいっと手綱をアランに返す。
「しょうがねえなあ」
苦笑しながらアランが受け取り、また黙って馬を操りだす。
どうどう、静かな夜の中を馬車は走る。馬の鼻息と足音、時折かけるアラン、もっと時々シャンタルの声以外はほとんど何も聞こえない。
そうして走り続けていたが、馬が少し疲れてきたので休憩を入れることにする。
適当な木にのそばに馬車を停めて休憩する。
「はあーすっきり」
御者台から降りて、シャンタルが伸びをしながら少し離れた。
するとアランが、
「おい、シャンタル戻れ」
「うん？」
言われて振り向くが遅かった。
じり、じり
何人かの人影が取り巻いているのが分かった。
どうやらこの場所、いい木があると思ったら、夜間に走行する馬車が休みやすい穴場のようだ。そこの周辺に隠れていて、停まった馬車を襲う一団がいるらしい。
「トーヤ起こしてくるか」
そういう状況ながら、アランの方もあまり慌てた様子は見せない。
「いや、トーヤも疲れてるでしょ、いいよ私だけで」
シャンタルが飄々とそう言う。
「大丈夫か？」
「うん、大丈夫でしょう」
のんきにそんな会話を交わす２人に賊の方がキレる。
「余裕だな、え」
「とりあえず金目のもん全部置いてきゃ痛い目には合せねえけどよ」
それなりに筋肉に自信あり、みたいな男が見たところ５人、手に手に何か得物を持って輪を狭めてくる。
「はあ、めんどくさいなあ」
マントの下からボソっと声がするのに周囲の男がさらにキレる。
「てめえ、ふざけんな、顔見せろ！」
そう言われて、しょうがないなあとつぶやきながらさらっとマントを外してみせる。
「おい、上物じゃねえかよ」
「でも男みたいだぜ」
「こんだけ上物だったらどっちでもいいってもんだ」
さっきまでの威嚇に、ニヤニヤと品のない笑いを浮かべてさらに近づいてくる。
「手を出してきたら痛いよ？」
気の毒そうにシャンタルが言うが、小馬鹿にしたように嫌な笑いを浮かべ続けながら、
「そんなこと言ってられんのも今のうちだぜ？」
そう言って、シャンタルに一番近い男が体に触れようとしたその時、
「い、いででででで、なんだ！」
誰も触れていないのに急に腕をねじ上げられたようになる。
「暴れたらもっと痛くなるよ？」
しらっとそう言うのに、
「てめえ、何しやが、ぎゃああ！」
ゴキッと音がしてどうやら肩が外れたようだ。
「な、なんだ」
他の４人がうろうろする前で、さっきの男が痛さと怖さにのたうち回る。
「だから言ったのに」
そう言うのに、
「かまうか！」
そう言って手に持ったナイフや棍棒でシャンタルに襲いかかってくるが、
「な！」
いきなり目標とは違う方向、仲間に向かって武器が走る。
１人の持っていたナイフが棍棒男の腕に刺さり、もう１人の棍棒がナイフ男の肩へ打ち下ろされる。
２人が悲鳴を上げて転げ回る。
これで残りが２人。
「どうする？ まだやる？」
目の前で起こった信じられない出来事、傷を負ってない２人が一目散に逃げ出す背中に向けて、
「あ、お友達忘れてるよ」
そう言うと、転げていた３人の体が吹っ飛び、後ろからぶつかって５人が団子状態に倒れた。
「やれやれ、いつ見てもこええなあ、魔法ってのはよ」
御者台からアランがそう言って首を振る。
