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黒のシャンタル 第二部 「新しい嵐の中へ」<完結>  作者: 小椋夏己
第一章 第四節 シャンタリオへの帰還

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17 色を選ぶ 

 食事を終えてしばらくすると、さきほどの侍女たちが食器を下げに来た。


「ごちそうさまでした、おいしかったです」


 アランが礼を言う。


「いえ。何かご不自由はございませんか?」

「今のところは」

「何かありましたら遠慮なくお申し付けください。本日はこちらの2名がお部屋係として控室に控えております。こちらの鈴を引いて及びください」


 薄い赤い衣装の侍女がそう言うと、10代の半ばになったかならないかの、まだ幼さが残る少女2人が頭を下げる。1人は薄い緑系、もう1人はまた違う緑系の衣装を身に付けていた。


 指導役らしい侍女が2人の年若い侍女に皆のお湯の支度などを申し付け、自分は下がっていった。


「あの、奥様のお世話は私がやりますので、湯殿や物のありかなどだけ教えてください」


 目だけ出した侍女にそう言われ、2人の少女が戸惑う。


「ですが……」

「決まりなのです」


 奥様付きの侍女がきっぱりと言う。


「家族と、認められた侍女以外にはお姿を見せぬ決まりになっておりますので」


 2人の少女が優美に絹に隠された女性を見る。


「あの、一度伺ってまいります」


 そう言って一度2人は下がり、しばらくして戻ってきた。


「上に伺ったところ、おっしゃる通りにとのことですので、ご案内いたします」


 そう言って奥様付きの侍女を必要なことがある場所に案内し、色々と説明をして戻っていった。


「それでは、私どもは控室におりますので、ご用がありましたらお申し付けください」


 こうして、やっとゆっくり4人で羽を伸ばすことができた。


「はー肩こったー」

「お疲れ様」


 そう言ってシャンタルがベルの肩を揉む。アランがそれをきびしい目で見ている。


「兄貴ー余計肩こるからやめてくんねえかな」

「大丈夫だ、見てるだけだ」


 聞いてシャンタルが笑う。


「あのね、トーヤ」

「ん、なんだ?」

「アランはね、ベルが女性らしくなったから、それで私といると心配するんだそうだよ」

「はあ?」


 包帯の下でトーヤの呆れた顔が見えるような声で言う。


「こんなガキにか? まだまだ100年は早いな」

「誰がガキだよ、立派な乙女だぞ!」


 ベルが抗議するが、やれやれと呆れたように手を上げて、


「先に風呂入る。おまえらも順番に入ってとっとと寝ろ」


 そう言って湯殿に行ってしまった。


 トーヤの後ろ姿を見送ると、今の間に、とベルが話を始めた。


「なあ、シャンタル」

「ん?」

「本当に侍女の中に知ってる人いなかった?」

「見えなかったからねえ」

「そうか」


 トーヤと違ってシャンタルは本当に見てなかったのだろう。


「そんじゃさ、知ってる人の衣装の色覚えてる? この宮じゃ侍女ごとに色が決まってるんだろ?」

「うん、そうだね」

「じゃあ、誰覚えてる?」

「マユリアは濃い紫だったよ。ラーラ様は薄い紫」


 この2人の色は何があろうと間違えるはずがない。


「他は?」

「キリエは茶と金かな」


 これは個人の色ではなく、役職の色である。最初は個人の色を決めていても、上位の役職に就く時にその色に変わる場合もある。


「それに、その色がどうしても嫌とかなら、途中で変わることもあったはずだよ」

「え、そうなのか。じゃあフェイって子も嫌って言えばよかったのに」

「それも言えねえほどおとなしい子だったんじゃねえのか?」

「そうか、そんなおとなしかったのか、フェイ……」


 ベルは自分と同じ10歳でトーヤと知り合い、短い生を終えたフェイに会ったことはないのに何か特別な思いを持ってしまっていた。


「でも大抵は同じ色、役職に就くまではだけど」

「じゃあさ、他の知ってる人は? えっと、タリアやネイ、それからリル、ミーヤ」


 ベルはあえて一番知りたい人を最後に言う。


「タリアとネイはシャンタル付きの役職だからね。紫ではないが、紫っぽい赤とか青だった気がする。紫っぽい色がその証なんだよ。何しろ紫は一番尊い色とされているからね」

「そうなんだ。じゃあ元は他の色で役職の色に変わった人たち、だな」

「うん、そうだね。リルは、確か緑だったかな。今日来た人たちも緑だったけど、多分、行儀見習いの侍女が緑系だった気がする」

「ふうん、色を決めるってのも色々あるんだな。そんで、ミーヤは?」

「オレンジだね」


 聞いてベルがやはり、と思った。


「行儀見習いではない侍女は、それこそ長い間使う色だから、比較的自分が好きな色を選べたはずだよ」

「え、じゃあフェイは?」

「う~ん、なんでだろね? まあ何人かで選んで残った色って言ってたから、なかったのかなあ」

「そうなのかな。おれだったらずっと使う色、気に入らない色しかなかったら他にないのかって聞くけどなあ」

「それはおまえが厚かましいからだよ」

「いっで!」


 久々にアランがベルにデコピンをかました。


「まあ、それはいいけど、そんじゃ今日会った侍女さんたちの真ん中にいた人、あれやっぱりミーヤさんだと思う」

「確かにオレンジだったな」

「だろ? だけどさ、トーヤは見てないって言うんだよな。おかしいよな、トーヤだったらしっかり観察するはずだぜ、いくら包帯ぐるぐるでもさ」

「そうだな」


 兄と妹の意見が一致した。

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