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黒のシャンタル 第二部 「新しい嵐の中へ」<完結>  作者: 小椋夏己
第一章 第四節 シャンタリオへの帰還
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 9 陰謀

「ってことでな、場合によってはということになった」

「おお~やったな!」


 ベルが右手を上げ、シャンタルの右手を合わせてベシッと音を立てた。


「助かったよ」

「だがその前に、一度会いに来られるとのことだ」

「アロさんか」

「ああ」

「大丈夫だ、今なら堂々と会える」


 トーヤがそう言って包帯だらけの姿でニヤリと笑ってみせた。


 商人は機会を逃すことはしない、動くとなったら即動く。そういうわけで、ディレンが話を持ってきたその日の午後、早速アロが「奥様の秘密の家」にやってきた。




「お邪魔いたします。『中の国』から来られた奥様はそちらの方でよろしいのですかな? 私はオーサ商会の会長、アロと申します。どうぞお見知りおきを」


 そう言って丁寧に頭を下げる姿を見て、侍女が奥様に何かを伝え、奥様が侍女に何かを答える


「ようこそいらっしゃいました。こちらは申し訳ないことに名乗ることは叶いませんが、この度はお世話をおかけいたします、とおっしゃっていらっしゃいます」


 侍女はまだ若い女の声ではっきりとそう答えた。


「あの、ケガ人が出たということですが、どちらに……」

「こちらです」


 まだ若い茶色い髪の男がアロと従者を1階の寝室へと案内をした。


「これまでは奥様がこちらでお過ごしでしたが、ケガ人が不自由であろうと今は譲られてご自分は2階でお過ごしです」

「さようですか。お優しいご主人ですな」

「ええ、全く。入るぞ」


 ドアを押し開けて薄暗い部屋に入る。

 寝台の上に寝ていた影がむっくりと起き上がり、不自由そうにゆっくりと寝台に腰掛けた姿勢になった。顔を包帯でぐるぐる巻きにし、右腕を吊るしている。


「少しばかり腰を痛めておりまして、失礼な姿勢なのはお許しいただければ」


 茶色い髪の若者がそう言い、寝台の上の影がゆっくりと頭を下げた。


「あの、お話しには?」

「命には別状ないのですが、顔に深く傷を負っておりまして、少しの間話すことができません」

「さようでしたか」


 茶色い髪の若者が寝台の男に近づき、アロのことを紹介し、事情を説明するとまた深く頭を下げた。


「さ、もう寝てろ」


 男を寝かせるとアロたちを部屋から出した。


「本来ならば私より手練の者なのですが、今回は奥様を守るためにあのようなケガをいたしまして、しばらくはいつも通りの働きをできなくなりました。私一人ではとても守り切る自信がなく、それでディレン殿に相談をしたというわけです」

「なるほど、よく分かりました」


 どうやら寝台の男は目と利き腕にケガをし、さらに腰を痛めているとのこと。なるほど、それでは自分が動くことすらままならぬであろう。


 居間に戻り、何があったのかを説明してもらう。


「と、このような状態で、部屋もまだ見ての通りです。なんとか賊に対峙している間に、騒ぎを聞きつけた近所の方が憲兵を呼んでくれて、それでようやく助かりました」

「なるほど」


 部屋は乱れていた。

 そこかしこに高級そうな家具の残骸が集めてあり、血の痕も残る。


 「奥様」と呼ばれる「中の国」からの客人は、しっとりと絹のベールに包まれながら、うなだれているように見える。


「一体、何者が襲ってきたと思われます? 賊に心当たりは?」


 茶色い髪の若者が、困ったように奥様に視線を送る。

 奥様が少し考えてから、ゆっくりと頷いて見せた。


「どこの国のどういう方であるかは申せませんが、奥様はある『中の国』の力のある方の数番目の夫人でいらっしゃいます。そして、そのご主人の寵愛の深さに、先よりいらっしゃるご婦人方から少しばかり、その、まあ邪魔な存在と見られていらっしゃいます」

「ディレン殿がそのようにおっしゃってましたな」

「そうですか。そしてそんな折にご主人がこちらの神域のある場所に赴任されることとなりました。数年に渡るであろうと。それで、奥様をお連れになったのには、近くに置きたいというばかりではなく、そのような場所に一人置くには、色々と危険なのではないかとの気持ちもあってのことだとか」

「そうなのですか」

「ええ」


 アランが言うと侍女も頷く。


「そうして一緒にこちらに来るはずが、色々と妨害があり、共には出られなくなりました。危険を感じ、心配されたご主人から、私たちに奥様の護衛と、こちらに無事に連れてきてほしい、との依頼があったのです」

「なるほど」

「そちらから馬車で連れ出すだけでも、それはもう色々大変でしたが、もうこちらまで来てしまえば一安心、そう思ってました。ですが、あちらは何らかの手を使ってこちらに来てから襲わせるように画策していたのかも知れません。そうすれば、この国での起きたこと、自分たちは知らぬ存ぜぬで通せますからね」

「そんなことが……」 


 アロが絶句する。


 シャンタリオは平和だ。生きる神の加護があるからか、元からの民族性が穏やかなのかは分からないが、そのような陰謀など、まるで遠い国でのおとぎ話のように聞こる。

 実際、この国での大きな揉め事など、八年前の王と王子のマユリアの取り合いぐらいのものであったが、それも王の一声と、突然の悲しい出来事によるマユリアの職務の継続でないも同然となっていた。

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