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黒のシャンタル 第二部 「新しい嵐の中へ」<完結>  作者: 小椋夏己
第一章 第四節 シャンタリオへの帰還

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 3 カトッティへ 

 その後思ったより順調に検めは終わり、一泊しただけでいよいよ王都リュセルスの港「カトッティ」に向けて最後の10日の旅に出た。


 ここサガンで降りた船客も多く、下船の時には「奥様」に、


「色々ありがとうございました」

「この先の旅の無事をお祈りいたします」

「一日も早くご主人とお会いできますように」


 そうお礼や祈りを告げ、離れがたそうに、だがいよいよ自分の故郷へと近づいた喜びに満ちた顔で去っていった。


 途中、3つほど小さな港があるが、アルロス号はそこには立ち寄らず、一路王都の港へと船を進める。


 外海とはいっても、シャンタリオの海沿いにずっと進む旅は波も穏やかで、リル島からの半月と同じぐらい穏やかで静かな旅であった。


 船客は半分ほどになり、誰もがみな、前よりずっと甲板に出てくる「奥様」の近くまで来て気さくに声をかけてくるようになった。


「私はカトッティから船を乗り換えてまだ先、もっと東まで帰ります」

「それは大変ですね、体に気をつけて旅をお続けください、とのことです」

「ありがとうございます」


 そうして、侍女を介してだが、みんなが色々と話をしていく。

 もちろん、不躾(ぶしつけ)に身元を聞いたり、失礼なことはせぬように気をつけてではあるが、静かに会話を楽しむのを好まれるようだと知ると、小さな子どもまでが「奥様」と話しかけてくるもので、自然に甲板にいる時間も増えてくる。


「本当に思った以上に親切で気さくな方だよな」

「本当だな、ああいう国の方なんで、俺らみたいな下々のもんになんぞ興味もないかと思っていたのに」

「ああ、まったくだ」

「早くご主人とお会いできるといいんだがな」


 船員たちもそのようなことを話している。


「で、ルギさんよ、ご主人って人とは連絡ついてんのかい?」

「いや、それなんだがな」


 手形の名前で呼ばれることにもうすっかり慣れてしまった(不愉快ではあるが)トーヤが、ふうっと息を吐く。


「とにかくできるだけ早くの船で追いかける、とだけ伝えてるってことでな、お迎えが来るまでは王都のどこかに滞在して、連絡つけるようにするまでが俺らの仕事なんだよ」

「そうなのか、そりゃ大変だ」

「そんで、どこにいらっしゃるんだ?」

「いや、それはな、あまり人に言えねえ」

「あ、そういうことか」

「ああ」


 何しろ「中の国」というのは秘密が多い国だ。どこのどういう偉い方か、あまり人に知られるわけにはいかないのだろう、と船員たちも納得する。


「どこのどういう方かは分かってんだな?」

「それはな、俺らには知らされてる」

「そうじゃないとなあ」

「ああ」


 トーヤがうんうん頷きながら、


「そんでな、しばらくの間王都のどこぞに家を借りたいって言ってんだが、なんかいい家あるかな」

「それはなあ、俺らもそういうの詳しいわけじゃねえし」

「船長に聞いてみたらどうだ?」

「そうだな、船長ならあっちの偉い人とも懇意だとかだし」

「なんか、どっかの大商会の会長って人と知り合いだ」

「そうだ、言ってたな」


 ありがたい言葉だが、トーヤはその人と会うわけにはいかんのだよ、諸君。


「そうか。まああっち着いたらまた聞いてみるよ」

「おう」

「またルギさんとも町で会えるかな」

「だな、しばらくはカトッティだっけ、そこにいるんだろ?」

「ああ、戻る足が整ったらまたアルディナに戻る旅だが、しばらくはいるかな」

「大体どんぐらいいるんだ?」

「う~ん、その時によるが、長けりゃ一月ぐらいか? 荷や客のぐあいでな」

「そうか、そんじゃあの土産持ってかわいいお姉ちゃんとゆっくりできんじゃねえか」

「だな、いい土産教えてもらってよかったぜ」

「ああ、俺も行きてえけどなあ、仕事さえなけりゃなあ」


 悲しそうに嘆いてみせると、船員たちが大笑いした。


「まあ、休みの日にでもまた町で会えりゃいいな」

「それに、案外早くご主人が来て、俺たちと一緒に戻れるかも知んねえぜ」

「ああ、そうなりゃ一番なんだがなあ。行ってみなけりゃ分からん」


 そんなこれと言うこともない会話をしている間に日は進み、あっという間にカトッティに到着した。


 もちろんカトッティでも「検め」はあるのだが、一度サガンで厳しく調べていることから、こちらは思った以上に簡単に下船許可が降りた。


 今回は「偉い方」が泊まる宿ではなく、ディレンがいつも泊まる宿に滞在することにした。


 理由は、


「ご主人と連絡を取るためにこの宿がちょうどいい」


 にしてある。


 アルロス号の船長に、と言伝があったら教えてもらうように宿に頼んである。もしも船が出港してしまっても、船長の定宿(じょうやど)にと伝えておけば、もしもどこかに家を借りても連絡が取れなくなるようなことはないだろう、そう理屈をつけてある。


 幸い、ディレンが泊まっている宿にも、従者の部屋が付いた続き部屋のある部屋が何室かある。それなりの値段はするが、島やサガンで泊まったような上宿ではないもので、ベルの顔が少し緩んでいるのにトーヤはホッとした。


「でもできるだけ早く、あまり金かかんねえよにしてくれよな!」

 

 ベルはそう一言いい添えるのを忘れはしなかったが。

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