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 4 共に行こう

「生意気言ってんじゃねえよ」


 ベルを一つはたいたことで、スッキリしたようにアランが笑う。


「ってえな~」


 そう言って頭を撫でながらベルも笑った。


「まあ、とっとと初恋ぐらい済ませとけよな」

「おま、まだ言うか」


 右手を振り上げる兄から身をよじってベルが逃げる。

 その姿を見てアランが声を上げて笑い始めた。


「まったく、なんだよそれ、恋だの愛だの偉そうに言える姿かっての、ガキのくせに」

「るせえな~女の子は複雑なんだよ」


 何かを吹っ切ったようにしばらく2人で笑った。


「そうか、そうだな、じゃあそうするか」

「うん、だな」


 何をどうすると言わず、兄と妹がそう言う。


「そんじゃ夜まで寝るか」

「そうだな、夕べは寝てねえし眠いもんな」


 そう言ってベルはベッドにそのままゴロリと寝転がり、アランもソファに体を伸ばす。


「おやすみ~」

「おう、おやすみ」


 そうして兄と妹はぐうぐうと寝てしまった。

 多分、隣の部屋のベッドでシャンタルがそうしてるだろうと同じように、ぐっすりと……





 

 夕方近く、どちらともなくのそのそと起きてきた元神様と兄妹が廊下で顔を合せ、


「おはよ~」

「おはよ」

「おう、おはよう」


 そう言って、示し合わせたように食堂へと降りる。

 

 食堂はちょうど混み始めるぐらいの時間だった。

 3人は席を探して隅のあたりに座り、運ばれた夕食をゆっくりととる。


「今日は魚か~結構うまいんだよな、ここの飯」

「そうだね、おいしいね」

「今朝の肉の煮込みもうまかったよな、親父、結構いい腕してるな」


 スープとサラダを持ってきた親父にベルがそう声をかける。


「ありがとうございます、明日のお弁当も楽しみにしておいてくださいな」


 ニコニコと宿の親父がそう答えた。


「晩飯、トーヤの分、とっといてやんなくていいのかな」

「いいんじゃねえか、なんか適当に食ってくるみたいだったし」

「遠足のパンでも作ってもらっとこうかなあ」


 シャンタルがそう言い、親父に説明してパンに夕飯の魚の焼き物と野菜をはさんでもらった。


「じゃあこれ、別料金で」


 シャンタルが金袋から小銭を出して親父に渡す。親父が頭を下げ下げ厨房に戻っていった。次々と客が来る中、手間をかけさせたことに対するちょっとしたチップも含んだ額に一層ニコニコ顔にもなるだろう。


 「遠足のパン」はアランたちもトーヤに作ってもらって何回も食べている。だが、そんな曰くのある思い出のあるメニューだとは今回まで知らなかった。


「にしても、多くねえか、6つ?」

「1人1つと、トーヤは余分に食べるかも知れないからね、もしも何も食べてなかったら、だけど」

「トーヤが食わなかったらおれらで分けて食おうぜ」


 ベルがにっこにこでそう言うと、


「そう、2つずつね」


 シャンタルもにっこりと答える。


 そうして早めの夕食を終え、それぞれお湯を使って部屋でのんびりしているとトーヤが戻った。


 トーヤもお湯を使って一休みした後、またアランとベルを部屋に呼ぶ。


「結構早かったな、もっと夜遅くなるのかと思ってた」

「ああ、思ったより早く探してたもんが見つかったんでな」


 アランにそう言いながら遠足のパンにかじりついていた。


「なんだよ、夕飯食ってなかったのか?」


 ベルが聞くと、


「さっと食ったが、これ好きだからな」


 遠慮なく2つ目にも手を伸ばす。


「飯食った上にそんなに食ったら太るぜ」

「大丈夫だ、そんだけ動いてるからな」

「でももうおっさん」


 そこまで言って、またはたかれそうになったベルがさっと頭をよける。


「るせえな、俺はまだまだ育ち盛りなんだよ。ってか、なんだ、おまえらこそ、俺が食わなかったら本格的に食った後で2個ずつ食う気だったろうが」

「こっちこそ本当に育ち盛りだからな」


 アランがそう言って笑う。


「まあ、そりゃそうか。そんで? おまえら、どうすることになったんだ?」


 食べ終わって指をなめながらそう言う。


「うん、どうするか決めた」

「うん、どうする?」

「付いてくよ」

「ん?」

「だから、トーヤとシャンタルに付いてシャンタリオに、シャンタルの神域に俺たちも行く」


 トーヤは少し真顔に戻り、じっとアランとベルの顔を見比べてから、


「そんでいいのか?」


 そう聞いた。


「うん」

「よく考えたのか?」

「よく考えたのかって言われると困るが、これしか結論がなかったからな」


 ベルとアランが順番に答える。


「どんなことが起こるか分かんねえんだぞ? やめるって言うなら今の間だ」

「いや、もう決めた」


 アランが冷静にきっぱり言うのを聞き、


「分かった」


 トーヤもあっさりとそれだけを言う。


「そんじゃ、明日の朝早くにここを出て東に向かう。とにかく日にちがないからな」

「そんな切羽詰まってんのか?」


 ベルが眉を寄せて聞く。


「どのぐらいだって?」

三月(みつき)ぐらいかな」


 トーヤの言葉にシャンタルが答える。


「え、前は半年ぐらいかかったって言ってなかったっけ?」

「それは船で外海をあっちこっち寄って仕事もしながらだからな。『中の国(なかのくに)』を馬や馬車で突っ切って一月(ひとつき)ほどで東の端の港、そこから海を一月、合せて二月ぐらいで着くつもりだ」


 トーヤが立て掛けてあった地図を広げた。


「そのためにこれまでそのあたりもうろうろして情報収集もしてきた。まあ間に合うだろうよ」

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