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17 私の道

「少し話がずれましたが、ではピンクの花についてはどなたもご存知なかったということですな」

「ええ、存じませんでした」

 

 ベルがそう答える。


「では、体に良くない成分を持つピンクの花を持ち出された覚えもない、そういうことでよろしいですな」

「え?」


 ベルがきょとんとした顔をしながら、


(そんなことまで分かってんのかよ、(あなど)れねえな衛士ってやつらも)


 と、心の中で舌打ちをする。


「我々は何者かが花の正体を知ってすり替えた、そう考えています」

「そうですか」


 ベルは困ったような顔をする。


「あの」


 それまで何も言わずに控えていたアランが口を開いた。


「奥様に頼まれてキリエさんのお見舞いを買いに行ったのは俺なんですよ。ディレン船長に店を教えてもらいながら一緒に買いました。色々注文をつけながらだったから、もしかしたら覚えてくれてる店員もいるかも知れません」

「ええ、そちらはもう調べてあります」

「ここに来る前にですか」


 アランが少し表情を変えた。


「あんまりいい気分のもんじゃないですね、聞いてくれればいいのに先にそうやって調べてから来てるってのは」

「申し訳ない、ですがこれも役目なものでして」

「そのへんは、まあ分からんではないですけどね」


 不愉快そうにアランがそう言う。


「それで、結局は何をどう言いたいわけです? 俺たちがキリエさんにその花を仕掛けたとか、そういうことを疑ってるわけですか? それでその香炉ってのにも関わってるんじゃないかって」

「まあ、一言で言うとそう疑いもある、ということです」

「なるほど。で、調べてみてどうです、疑いは晴れましたか?」


 アランがますます不愉快そうに言ってから、


「そういや、隊長さんが来た時にもそういうことありましたね。中の国の人を呼んで妹が本当に話せるかどうか調べたり」

「申し訳ない、こちらも役目なもので」

「さっきも聞きましたし、まあ理解はできますが、いい気分のもんじゃないですね」

「申し訳ない」

「それで、だからもうこれでいいってことですよね?」

「ええ結構です、そう申し上げたいのはやまやまなんですが」

「なんです、まだなんかあるんですか?」

「いえ、やはりね、どうしてもこちらの方々とあのピンクの花が無関係とは思えないもので」

「だったらどうしろと言うんです?」


 アランは珍しく苛立った様子でボーナムに詰め寄る。


「なんです、はっきり言ってくださいよ。他の花や食い物を買った俺が怪しいってのなら、どこにでも連れてって調べてくれて結構です」


 ずいっと前に歩み出て、押されるようにボーナムとゼトが後ろに引いた。


「いや、困りましたな」


 二人が顔を見合わせ、次の瞬間!


「あ!」


 アランがそう声を出したその瞬間、二人の衛士が椅子に座っていたルークを押さえつけ、その仮面を剥ぎ取った! アランに対する挑発はそのための布石だったようだ。


「おまえ……」


 左手で座っている男の肩を押さえ、右手に黒い布を持ったゼトが絶句した。


「黙って歩け!」


 仮面を剥がされたルークが、いや、トーヤがからかうように笑いながらそう言うと、次の瞬間、ゼトのみぞおちに拳を叩き込んで昏倒させた。

 ゼトは、八年前にトーヤが衛士たちに捕まった時、後ろからそう言ってトーヤの綱を握っていたあの衛士であった。 


 そしてその隣では、同じく右手を「ルーク」の肩にかけ、左手をかけて赤い仮面を下にずらしていた姿勢のボーナムが、こちらは後ろからアランの一撃を首の後ろに受け、一瞬にして意識を失う。


「ずらかるぞ!」


 立ち上がり、ゼトの腕を腰に付けていた縄で縛り上げながらトーヤが叫んだ。

 アランも同じようにしてボーナムの動きを封じる。


 そしてトーヤの掛け声と共に、座っていたエリス様ことシャンタルと、侍女のベルがさっと立ち上がる。


 ベルが、


「ごめんね」


 そう言って優しくアーダを言葉もないままに気絶させ、そっとソファに寝かせた。


 そうしておいて、奥様と侍女は部屋の窓からとっとと抜け出し、あっという間に姿が見えなくなった。

 日頃から窓の外を調べて、どこをどう通って抜け出すかを調べ尽くしておいたルートを駈け、宮から抜け出す手はずだ。


「と、トーヤ、これ……」

「おう」


 トーヤはつかつかと近寄ると、


「すまんな、ダル」

 

 そう言ってにんまり笑うと、こちらもやさしくみぞおちに一発ぶちこみ、衛士たちよりはやさしく縛り上げて床に寝かせた。


「さすがに妊婦さんには手出しできんから、そのまま動かないでくれよな、リル」

「ええ、分かったわ」


 リルは、すべてを合点したかのように言うと、


「あれ〜」


 そう一声残して昏倒する振りをして見せる。


「さすがリルだ」


 そう言って軽く笑うとトーヤは真面目な顔になり、ミーヤに近づき、左手でぐっと右手を取った。


「トーヤ……」

「あんたは……」


 トーヤは一瞬言葉を止めてから、


「あんたは、セルマに目をつけられてる。このままここに残ってても厳しく詮議されるだけだと思う。一緒に来てくれ」


 そう言った。


 だがミーヤは、


「いいえ、私は行けません。いえ、行きません」


 きっぱりとそう言ってトーヤの目をじっと見つめた。


「私はこの宮の侍女です。私には私の生きる道があるのです。一緒には行きません」


 もう一度ゆっくりとそう言った。

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