7 夢を見せる
「そんなことが……」
ミーヤとダルは黙ったままで、リルも一言だけそう言うと黙り込んでしまった。
無理もない。
八年前、シャンタルの不思議な力の片鱗を感じたことがあるとはいえ、それからは普通の生活をしてきた三人だ。
シャンタルが「次代様がいらっしゃる」と言ったから戻ってきた、それは三人には話していた。
「けどなあ、まさかそんなこともできるなんて……」
「できるんすよ……」
アランがそう言って虚無になる。
「ど、どうしたんだ?」
「いや……」
何も言いたくなさそうにするのに、
「いや、あのな」
トーヤがアランが実験台になった話をし、三人が驚きながらも笑いを噛み殺した。
「そんな笑わなくても……」
アランが虚脱しながら文句をこぼす。
「ご、ごめんなさいね、いや、あの……ぷ……」
「もう、リル」
「いや、ごめんな、けど、いや、なんてのかな」
「うん、年頃の少年が色々とそうやって知られるのは気の毒よ、ね……ご、ごめんなさい」
リルが我慢できないという風に吹き出す。
「いや、いいっすよ……なんてか、まあ、もうしゃあねえし」
「まあ、その貴重な犠牲のおかげでそういうことができたってこった」
「あの、お疲れさまでした」
ミーヤが困ったようにそう声をかけた。
「ども……」
少年はなかなか立ち直れないようだ。
「でな、そういうことで、その手が使えるんじゃねえかと思ってる」
「お二人に何かを見せるってことね?」
「そういうことだ」
トーヤがリルに頷いて見せる。
「きっと二人の中にもなんとなく知ってる人間だってのはあると思うんだ。それが思い出せりゃいいんだろ?」
「それがセルマ様だってこと?」
「多分、誰かにやらせてるってことはないと思う。もしも誰かにやらせてそいつがびびってバレてみろ、その危険性を考えたら自分で動いてると思う」
「俺もそうかなと思う。そして多分、あの投げ文もそうだったんだろうな」
「あれだけは自分じゃやってないんじゃないですか?」
やっと少し立ち直ったアランが言う。
「うん、そのためだけに宮から外に出てこられるってことはないだろうし」
「だよねえ、外の誰かに頼んだ気がするな」
「お金で誰かを雇ったのかしら?」
「かもな」
リルとダルの推測にトーヤもそう言う。
「そっちの方はルギの旦那がなんとか調べさせてるんじゃねえかな。だから俺らはそのお嬢さんたちに夢を見てもらう方で動けばいいだろう」
「キリエ様に伺ってみます」
ミーヤがそう言う。
「頼む」
「あのお二人のことはあまり他の侍女には知らされていないと思います。私は教育係だったので、一応伝えておくとキリエ様からそう伺いました」
「キリエさんが?」
「ええ、衛士の取り調べがあり、関係ありそうな侍女が何名か呼ばれ、その時に持ってきた人間を知っているのはあのお二人だけなので、狙われないように保護する、ルギがキリエ様にそう伝えてきたそうです」
「そうか」
「他に呼ばれた侍女ってどの方たちなのかしら?」
リルがそう聞く。
「私は奥宮の食事係の方からセルマ様がいらっしゃったことを聞いたのだけれど、その方は何かを聞かれたとはおっしゃっていなかったから、取り調べを受けてはいないと思うの」
「だろうな。キリエさんの具合が悪くなったのが食事のせいだってはなってないだろうから」
「それもルギに知らせたらどうかしら? そうしたら食事係の方々から、セルマ様がいらっしゃっていたって話も出るかも」
「う~ん、出すかなあ」
「もしかしたら思っても言わないかもな」
トーヤとアランは食事係についてはそういう意見である。
「キリエさんが食事に一服盛られた、ってのは公のことにはなってねえし、いらんことは言わんかもな」
「あの花のこともなかったことになってんだろ?」
「そうか、今、問題になっているのは青い香炉だけだものね」
リルが悔しそうに言う。
「だから、その青い香炉絡みで犯人を思い出せばいいんだね」
ダルがそう納得する。
「そういうこった。アラン」
「あいよ」
「俺たちは部屋に戻るから、ベルからシャンタルに伝えてくれ」
「分かった」
「そんじゃ、お嬢さん方またな」
トーヤがそう言ってダルの部屋へ戻って行った。
「ベル、少し奥様に伝えてほしいことがある」
ベルの侍女部屋にアランが声をかけ、一度アーダをミーヤとリルのところに預けると、ざっとこれからのことを説明する。
「分かった、奥様に伝えてくるよ」
そうしてベルからシャンタルへと作戦の顛末が伝えられた。
「じゃあまたキリエのところへ行って、その侍女たちに誰を見たか思い出させればいいんだね」
「思い出すのか? ちびシャンタルの時みたいにそういう場面を夢みたいに見せるんじゃねえの?」
「本当に見たことを思い出すのが一番いいと思うよ」
「それはそうだけど、ちゃんと見られてたのかなあ」
「声でもいいんだよね」
「だな。まあ、覚えてりゃそれを思い出してもらうのが一番いいと思うけどさ、だめだったら思わせるようにするしかねえんじゃねえの?」
「うーん、あんまり嘘はつきたくないんだけどね」
「そうか、神様は嘘つけねえもんなあ」
「そうなんだよ」
いつものようにのほほんと、そしてなんとなく深刻そうにシャンタルとベルがぼつぼつと話をした。




