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 3 取り調べ

 セルマは他にも2つ3つ質問をしてから、2名の新入り侍女を部屋に帰した。


「警護隊隊長をこれへ」


 当番の侍女にルギを呼びに行かせる。

 しばらくして、警護隊隊長のルギがセルマの執務室へやってきた。


 セルマが椅子に座るように(うなが)し、自分も座ってから前置きなく尋ねる。


「キリエ殿の部屋に、嗅いだ者が不調になる香の入った香炉が届けられたこと、存じていますか?」

「いえ、初めて伺いました」


 それはそうだろう。

 今日のキリエの担当の侍女があの香炉を見つけ、その時にキリエが大層不快そうであったので侍医を呼んで見せたところ、あの香の匂いに気がついたのだ。それほどよく知られている香である。医師の学問のうちに入るほどの。以前持っていったあの花とは違い、医学を学ぶ者ならば気がついて当然な。

 それからすぐにセルマに報告が届き、香炉を持って行っただろう新入りの侍女をセルマの執務室に呼び、事情を聞いてすぐにルギを呼びにやった。聞いているはずがない。


「そうですか。ではわたくしから説明いたしましょう」


 ルギは、セルマの一人称、この宮ではマユリアとラーラ様だけが使っているはずの一人称を耳にしても、顔色一つ変えずじっと話を聞いている。

 先ほどの「キリエ殿」にも同じ反応しかしていない。


 セルマはチラリとルギを見る。

 色々と噂は聞いている男だ。


 マユリア直属

 まだ子どもの頃にいきなり宮に現れてその日から突然衛士見習いとして配属された

 実力でも人望でも間違いがない

 位もなく第一警護隊の隊長に抜擢された

 八年前に正式な兵としての位をいただいた後はあっという間に宮の衛士の隊長になった

 

 他にも色々と聞いている。

 八年前のあの騒動の時、王がマユリアとの仲を疑ったという、本当か嘘か分からぬ噂もあった。


 今までセルマは直接ルギと言葉を交わしたことはない。

 何よりほぼマユリア直属だったもので、セルマに限らず、衛士以外で直接接する者はほとんどいない。

 大柄で強面、ほぼ表情を見せることもなく口数も少ない。本来なら見た目だけで恐れる者がいても不思議でもないが、衛士たちにはひどく慕われ信用を得ていることと、マユリアが親しげな様子を見せることから、侍女たちも特にそうする様子もないとは聞いている。


 セルマは視線を外すと今朝の侍女2名への「取り調べ」について説明をした。


「では、茶色の衣装の侍女、侍女頭付きの侍女がその2名に香炉を持ってくるように指示を出した、ということでしょうか」

「いえ、そこまではっきりとは2名共申してはおりません。ですが、その可能性が高そうだということです」

「なるほど」


 ルギはどう思っているのか、表情を見ただけでは判断がつかない。


「どう思います?」

「どう、とは?」

「侍女頭付きの侍女が、そのようなものを運ばせたと思いますか?」

「それはどうでしょう」

 

 ルギは淡々と続ける。


「あえて侍女頭付きの者に容疑をかけさせるよう、似たような色の衣装の者が命じた可能性もあるかと」

「なるほど」


 なかなかこの男は自分の思ったようにはならぬだろうとセルマは思った。


「では、どうします?」


 ルギは少し考え、


「その2名の者に私も話を聞いてみたいと思います。それからキリエ様のその日の係の侍女にも。それから神具係の者で、その香炉を見たことがある者がいるかどうか、それも調べませんと」

「なるほど」


 セルマはチラリとルギを見て続ける。


「では、一刻も早く始めてください。お命まで狙う意図があったとは思えませんが、仮にもシャンタル宮の奥宮でそのような不祥事、あってはならぬことです。一日も早く解決のために力を尽くしてください」

「承知いたしました」


 ルギは丁寧に頭を下げると部屋から出ていった。




 それから本当に間もなく、シャンタル宮警護隊隊長の名の元、関係者が警護隊隊長室へと集められた。


 集まったのは最初に容疑をかけられた2名の新米侍女、その侍女のその日の指導担当であった上役神具係の侍女ライナ、侍医、キリエの部屋のその日の担当で、侍医を呼んできた侍女頭付き侍女のヤナ、ヤナ以外の侍女頭付きの侍女、つまり茶系の衣装の侍女たち6名であった。

 そこに責任者としてセルマと警護隊長のルギ、今日の隊長付きの衛士2名の合計15名がルギの執務室に集まった。


「では聞き取りを始める」


 ルギが静かにそう言い、順番に話を聞いていく。


 まずは侍女頭付きで、その日のキリエの担当であったヤナから。全てはこの侍女がキリエの不調に気づいて侍医を呼びに行ったことから始まった。


「はい、このところ少しご体調がよさそうであったキリエ様が、随分と顔色が悪くていらっしゃいましたので、驚いて侍医を呼びにまいりました」

「それは何時頃のことか」

「昼食の少し前のことかと思います。お食事のことでお聞きしたいことがあり、それでお部屋に伺ったらそのような状態でいらっしゃったので慌てました」


 ヤナはその時のことを思い出したようで、小さくため息をついた。


「すぐに侍医が来てくれて、この匂いは何かと聞きましたが、私にはすぐには分かりませんでした。それで侍医が部屋を探し、青い香炉をこれはいつからここにあるのかと聞かれ、私はその時に初めてそれに気がつきました」

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