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19 ダルの策略

「宮の中に疑わしい人間がいると思いたくはないが、外から紛れ込んでくる可能性もあるしな」


 ルギが手紙をじっと見ながらそう言う。


「謁見の客とか?」

「それもあるが、今は王宮からの来客も増えた」

「王宮からの来客?」

「ああ」

「それってどんな?」


 ダルの問いにルギは少し黙ってから、


「神官長や取次役の客だ」

「ああ」


 それはダルも耳にはしていた。


 毎日のように、今の宮の権力者とおぼしき神官長と取次役に貴族や有力者などが面会を求め、足繁く宮と神殿に足を向けてくるのだと。

 

「そんなにして来て何をしてもらいたいんだろう」

「さあな」


 ダルの質問にルギは素っ気なく答える。


「それと、外から来た者は他にもいるな」

「ん、誰?」

「エリス様一行だ」

「え?」


 ダルが驚いて答える。


「え、だって、エリス様は襲われた(ほう)だけど」

「誰がその場面を見た?」

「いや、そう言われると……」


 ダルは心の中に冷や汗をかいていた。

 

 ダルはエリス様一行の正体を知っている。その上でその正体に力を貸してルギのところへやってきたのだ。


(やぶへびだったんじゃ……)


 ルギを使おうと思うとトーヤから聞いた時、それがいいようにダルにも思えた。

 しかしその事で、ルギが疑いの目をエリス様に向けてしまったとしたら、余計なことをしてしまったのではないか、と少しだけ後悔した。


 だが……


「まあ、そこまで考えていくとキリがないがな」


 ルギは手紙を見つめながらさらっとそう言う。


「うーん、けど、言われてみたら、そういうこともあるのかもなあ、と俺も少しだけ思えてきたが、どうなんだろう……」


 ダルはあえてルギの話に乗ったように答えることにした。


「だって、言われてみたら確かに誰も見てないもんな」


 ルギは意外そうな目でダルを見た。


「何か不審なところがあるのか?」

「いや、全然」

 

 ダルはふるふると首を横に振る。


「ただ、言われてみればそうだと思っただけだよ。確かにあの方たちも外から来られた方だからな。それに、色々と言えないことも多いということで、エリス様の名前も偽名だ」

「そうなのか」

「なんか誓いがあるらしい」

「誓い?」

「うん、身元を決して知られないと誓ったって。中の国ではご主人が絶対でさ、誓ったことは絶対守らないといけないらしい」

「そういう話は聞いたことがあるが」

「だろ? だから俺もそういうことならと思ったけどさ、もしもだよ、エリス様の言ってることが嘘だとしたら?」


 ルギがダルをじっと見て話を聞く。


「俺はさ、自分の感じではあの方たちは大丈夫だと思った。でも俺はやっぱりまだまだ甘いのかも知れない。さっきルギに言われてハッとした。俺個人なら別にそれでいいかも知れないと思う。けど、おれは月虹隊の隊長なんだよ、それじゃだめなんだ」


 ルギはダルの目をじっと見ている。


「俺個人の感想だけじゃだめなんだ、ルギみたいにもっと冷静に、全体に物事を見ないといけないんだよ。分かってたはずなのになあ」


 ダルはそう言ってため息をついた。


「何度も言うけど、俺個人としてはエリス様とそのお仲間を信じたいんだ。けど、今の気持ちじゃもうほっとけないんだよ。だから、一度ルギも話を聞いてみてほしいと思った」

「俺がか」

「うん、警護隊隊長として、一度エリス様一行を調べてほしい」


 思い切った提案であった。

 トーヤはルギには自分の扮装がバレるかも知れないと言っていた、それをあえてルギをエリス様御一行に会わせるようにと話を進めているのだ。


 ルギはダルの話を聞いて少し考えていたが、


「確かにな」


 取り調べをする気になったようだ。


「よかった。ルギに確認してもらえたら俺も安心するよ。でも、もしもエリス様たちが怪しいってなった時はどうしようかなあ」


 少し困ったような顔になる。


「もしもそうだとしても、怪しい場合は怪しいと言うぞ」

「うん、それはもちろんだよ。ただ、俺の立場なくなるかなと思っただけだ」

「特に気にすることはあるまい。何しろ状況が変わってきたんだからな」


 そう言ってルギが手に持っている手紙を振って見せる。


「それにキリエ様が預かった一行なのだろ? あの方が怪しい者を宮に入れるとは思えん」


 ルギがエリス様を調べなかったのは、その部分が大きいようだ。


「うん、そうなんだけど、キリエ様がそう判断した時にはこんなの来てなかっただろ?」


 どんどんと自分から話を進める。


「それにさっきも言ったけど、俺が安心したいから頼んでるんだよ。多分、というかほとんど大丈夫と思ってるけど、こんな中途半端な気持ちのままじゃ困るからな」

「そうか」

 

 ルギはダルの言葉に嘘がなさそうだと思ったようだ。


「そういうことなら分かった、一度会ってみよう」

「助かるよ」


 ダルはホッとした表情になる。


「ただ、エリス様はさっきも言ったように絶対に顔は出せない。それとケガをしてる人がいて、その人にもまだ無理させられないから、そこだけはちょっと考えてくれるかな」

「分かった」




 そうして、ルギが一行の取り調べに来るとトーヤたちに伝えられた。


「な、っんで、そんないらねえことすんだよ!」


 ベルが憤慨してダルに詰め寄るが、


「ダル、おまえ、やるようになったな」


 トーヤはそう言って満足そうに笑った。

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