6 さらに背後
ミーヤが部屋を出ていった後、ダルも自室へと戻っていった。
「出る時に気をつけてな」
「うん、分かったよ」
そう言って扉のところに行く前にダルが戻ってくる。
「どうした?」
「うん、あのな」
ダルがトーヤをじっと見て。
「本当に戻ってきた、そんでこんな近くにいるんだと思ってな、確認したかっただけだ」
「なんだよそりゃー」
「そんじゃ」
笑いながらあらためて部屋を出ていった。
「さあ、そんじゃ俺たちももう寝るか。続きは明日な」
トーヤがそう言い、シャンタルは奥様の主寝室へ、ベルは侍女用の寝室へ戻ろうとするのに、ちらりと目線で合図を送った。
「それじゃあおやすみ~」
「おう、おやすみ」
「おれもー」
「また明日な」
何事もないようにトーヤとアランはベルの隣の従者部屋へ入る。
「なんだ、何が話したいんだよ」
部屋に入るなりアランがトーヤに聞く。
「さすがアラン。まあベルが来てからな」
少しすると寝間着に着替えたベルが従者部屋へとやってきた。
「なんだよ、なんか話あるんだろ」
「ああ」
「こうしておれをここに呼んだってことは、シャンタルに聞かせられない話なんだな?」
「そういうことだ」
「そんで、シャンタルに聞かせられない話ってことは、例の秘密だな?」
「さすがベル」
トーヤが茶化すようにそう言った。
「今言ったことな、あの秘密を多分セルマは知ってるんだと思う」
「え、なんで!」
「おそらく神官長が教えたんだろうよ」
「そのおっさんはなんでそれ知ってんだよ」
「そこなんだがな」
トーヤが続ける。
「ミーヤがキリエさんと話したってのが多分それじゃねえかなと思う」
「だろうな」
アランも同意する。
「まあ、シャンタルとダルがいるところで話せることじゃねえよな」
ベルもそう言う。
「だな。思い出したんだが、次代様な、託宣があったら選ばれた衛士と神官がお迎えに行くんだそうだ」
「神官長がそのお迎えに行ってたってことか?」
「多分な。当時、まだ神官長でなかったとしてもその役目に就いてたことはありえる」
「そうか」
「宮の中だけでなく、外で知るものがまだいたってこった。俺が最初に聞いた時みたいにな」
「他にもいるのかな?」
「さっき言った衛士の中にもいるかも知れねえが、可能性は低いと思ってる」
「なんでだ?」
「特定の衛士が決まった役目にだけ就くとはちょっと考えられねえ。そういうのって多分人が変わるだろう。そんで知った秘密を話すなと言われたら、そう簡単に同僚に話したりもしねえだろうさ」
「ルギは?」
いきなりベルが言う。
「ルギってなんか特別扱いなんだろ?」
「だったが、そんでもここに来たのがマユリアがシャンタル時代だからな」
「あの暴れこんでやろうって時だよな? 物騒なやっちゃなあ」
ベルが迷惑そうにまた額にシワを寄せるが、さっきトーヤにデコピンされたことを思い出して急いで額を押さえる。
「そうだ、やめとけ」
トーヤがそう言ってちょっと笑ってから、
「だからまあ、ルギは特別だとしても知らねえんじゃねえかと思う」
「俺もそう思うな」
アランも頷く。
「ってことは、その神官長ってやつ、本当に運がいいやつなんだな」
「まあ、そうとも言えるかな。あんだけ不運背負ってそうな顔しててな」
トーヤの言い草にベルが吹き出した。
「そいつ、そんなにしょぼいやつなのか?」
「ああ、しょぼい。ずっと人の顔色伺ってるようなおっさんだった」
「そんなやつがねえ」
アランが信じられないという顔になる。
「ってことは、そいつも誰かに動かされてるってことは?」
「ありえるな」
「誰なんだよ?」
「さあ、それが分からねえ」
トーヤが考えるに神官長は自分の野望で宮の中をどうこうしてやろう、と考えつくようなタイプではない。
できれば揉め事、厄介事は全部避けたい。できるだけ平穏無事に人生を過ごしたい、そう思ってそうな人間であった。
事によると神官長なんてのになったのすら、どっちかってと災厄と思っていそうな。
「それがな、今、この宮を乗っ取って好き勝手しようとしてる。それはなんでだ?」
「そりゃ、この国の先行きに不安になったからじゃねえの?」
「アランの言うことにも一理ある。俺だってそんなこと知ったらどうすりゃいいんだって思うわな」
「でもさ、そんな不安なとこ、乗っ取ってどうなんの? おれだったらそんなもん背負い込むのめんどくさいからいらねえけどなあ」
「ベルの言うことももっともだな。俺もどっちかってと面倒だから逃げ出すかもな」
「どうだかなあ」
ベルが胡散臭そうにトーヤを見る。
「どっちかってと、トーヤは面白がって自分から飛び込んでいきそ、いで!」
デコピン!
「まあ、どっちにしてもああいうのは、ほんとなら、先のこと怖がりながら何もありませんように、そう祈ってびびりながら一生終わるだろう、そんなおっさんだ」
「えらい言い方だな」
アランが少し笑う。
「そんな事なかれ主義が、なんでそんな野望持っちまったんだろうなあ」
「しかもセルマなんて超めんどくさそうなの取り込んでなあ」
兄と妹が疑問に頷き合った。
「誰があのヤギの飼い主なんだ? もしかすると、えらいのが後ろに付いてるかも知れねえな」




