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 5 秘密の中の秘密

「ここまでは皆の考えは同じってことだな。つまり、セルマは何かの考えがあって、自分の信念とは違うことに無理して従ってる」

「そうですね」

「だな」

「俺もそう思う」

「おれも」

「そんだけの『何か』があるってことだよな。その『何か』をまず見つけなくちゃいけねえか」

「いえ、その前にもう一つあるかと思います」


 ミーヤがトーヤにそう言う。


「その前?」

「はい、セルマ様が誰の命令で動いているかです。その誰かはおそらく神官長ではないかと」

「やっぱりか」


 トーヤは八年前に一度だけ話をしたヤギのように弱々しい男の姿を思い浮かべた。


「けどな、あのおっさん、俺も一度話したことがあるだけだけど、そんなことしそうなおっさんには見えなかったぞ」

「はい、そうなのです」


 ミーヤも認める。


「キリエ様ともそのような話になりました。あの神官長がなぜ、と」

「だろうな」

「なあなあ、その神官長ってどんなおっさん?」


 ベルが額にシワを寄せて聞いてくる。


「おまえ、そこにシワ出っぱなしになんぞ」

「いてっ!」


 トーヤが額に軽くデコピンをかまし、ベルが両手で押さえる。


「どんなってなあ、俺が見た限りだが、上の人間の言うことに大人しく従う人間って感じだった」

「そうですね」


 ミーヤも認める。


「多分、これまでもそうして大人しく、実直に、真面目に神殿での仕事やってきて、それで可もなく不可もなくで運よく神官長なんてものになっちまった、そういうおっさんに見えたな」

「トーヤの言う通りに私も思います」

「キリエさんは神官長についてはなんも言ってなかったのか?」

「キリエ様はあえてお名前を出さずにいらっしゃいますから」

「そうか」

「ですが、お名前を出さず、どなたであるのかをお伝えになられました」

「なんて?」

 

『マユリアがご誕生の時にはまだ今の立場ではありませんでしたが、それでも十分それを知り得るだけの立場にはなっていたと思います』


 キリエはそう言ってミーヤに誰のことかを伝えてきた。

 だが、今、ここでその秘密のことを話すわけにはいかない。


「ごめんなさい、それはちょっと今ここでは申せません」

「そうか」


 なんとなくトーヤもそのことを察したようだ。


「じゃあまあ、それはいいとして、キリエさんも神官長がセルマを取り込んで、それでやらしてることだって思ってる、そんでいいよな?」

「はい」

「なあなあ」


 ベルが何かを思いついたように言う。


「そういう頭がっちがちの人をさあ、なんて言ってそこまで命令聞かせてるんだろ?」

「それは……」


『おそらく、セルマにそれを教えた者が知る秘密です』


 もしかするとアランとベルはその秘密のことを知っているのではないだろうか。

 ダルとリルはどうなのかは分からない。

 そしてシャンタルは知らない秘密だ。


「なあなあ、侍女頭はそのへんなんか言ってなかったのか?」

「いえ……」


 なんと言えばいいのだろう。

 

「そらおまえ、そいつらの秘密の話がなんかあるんだろうよ」


 トーヤが何かを察したのだろう、そう言ってベルを止める。


「秘密の話?」

「そうだ」

 

 聞いてベルも何かに思い当たったようだ。


「そうか、秘密の話か。そんじゃ今話してもわかんねえかな」

「だな」

「そうだな、それをこれから探るしかねえんじゃねえの?」


 アランもそう言ってやわらかく話を変える。

 この2人には話しているのだろう、ミーヤはそう確信した。


「うーん、秘密の話ねえ……なんか、そういう話、どこかからうちに入ってないかなあ」


 ダルが頭を捻って考える。


「そのへん、なんかあったら頼むわ。神殿と取次役の癒着、なんてことがあったら」

「分かった、気をつけておくよ。けど、今のところ心当たりないんだよな」


 ダルは知らないのか、もしくは思い当たっていないのかそう言う。


 ミーヤはとにかくトーヤにはそのことを話したいと思ったが、その場を持つのは困難な気がした。

 あるとすれば、トーヤの部屋にこっそりと来てもらうことだろうが、いつどうやって抜け出して、どうやって話す段取りをつければいいものか。


『あー、じゃあ、どうすっかなあ。ずっとここでこそこそ話すってのもなあ、逢い引きじゃああるまいし』


 いきなりそんな言葉が頭に浮かんだ。 

 思わず顔に朱が(のぼ)るのを感じる。


「え、どうしたのミーヤさん」


 ベルがいち早く気がついたようでそう聞いてきた。


「え、え、なんです?」

「いや、なんか顔が赤い」

「そ、そうですか?」


 急いでやや下を向き、両手を頬に当てて隠すようにするが、


「いや、本当にちょっと赤いな。熱、あるんじゃねえの?」


 そう言ってトーヤが手を伸ばしてきて額に当てた。


「あ、あの、大丈夫です……ちょっと色々と考えて、少し頭に血が上ったようです」


 額に手を当てられたまま、じっと下を向いて動かなくなる。


「熱があるようでもないが」


 心配そうにトーヤが手を放し、


「今日は色んな事があったから疲れたのかも知れねえな。いや、悪い、部屋戻ってもう休んでくれ」


 気がつけばもう深夜に差し掛かる時刻だ。


「ええ、そうですね。ごめんなさい、今日はもう失礼します」

 

 皆にそう挨拶をして部屋から出ていくのをトーヤが心配そうに見守り、さらにそれを見てベルが「ははーん」という顔でニヤリと笑った。

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