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11 懐かしい顔ぶれ

 シャンタルからの招待状をありがたく受けた。

 そしてその返事にはこう質問をしておいた。


「世話役の2名の侍女と、月虹隊のダル隊長も一緒にお伺いしてよろしいでしょうか」


 「歓迎いたします」とすぐに返事があり、招待状が届いた翌日の午後、シャンタルの私室を訪問することとなった。




「あの、私、そんな、まだ『前の宮の者』の立場であり、『奥宮』への出入りも許されていない身で、そんな、シャンタルの私室にお邪魔するなど、そんな大それた……」


 アーダはそう言って顔色を変え、恐縮して辞退しようとしたが、


「あちらからはどうぞおいでくださいとのことですので、アーダが辞退したらとってもがっかりなさると思いますよ。それに他のお二方も気を遣ってご自分たちも、ということにもなりません。ぜひご一緒なさってくださいな」


 と、ベルに説得され、カチカチになりながらなんとか承諾した。




「せめてものアーダへのお礼と思ったけど、かえって気の毒だったのかなあ」


 ベルが少しばかり考えるように言うが、


「なあに、いざ行ってしまえば感激するって。ほんとに俺たちがアーダに返せることってなあ、こんなことぐらいしかねえからな」

「俺もそう思うぜ。多分アーダの一生の思い出になるだろうさ」

「ならいいけど……」


 トーヤとアランにそう言われても、まだ少し心配そうなベルに、先代シャンタルも言葉を添える。


「うん、きっとうれしいと思うよ。だって『奥宮』って本当に退屈だからねえ。いつも決まった侍女が特に変わったこともなく黙って世話してくれて、話すことといっても特にないし」

「って、だからあ、それはおまえだけじゃん。おまえが寝てて話さなかったからじゃん」

「まあ、そういうこともあるかな」


 シャンタルとそう軽口を交わし、ベルも少し気持ちがほぐれたようだ。


「まあ、楽しい茶会にしようぜ」

 

 トーヤが笑いながらそう言うが、心の中からあの謎の手紙のことが消えることはない。


(もしかしたら、こうして茶会に出ることでまた何か動きがあるかも知れない。もしも、あの手紙をよこしたのがこの『宮』の人間だとしたら)


 そうも思っていた。


 三度目のお茶会当日、早めにやってきたダルと世話役の2名の侍女と一行4人、合計7人でシャンタルの私室へと向かう。


 「奥宮」から最奥へ向かう最後の立ち番の衛士に訪問の理由を告げる。すんなりと奥へと通された。


「失礼いたします」


 ベルがそう声をかけ、開かれた扉を通って室内へと入った。


 アーダが、蒼白を通り越して透き通ってしまうのではないかと思うほど真っ白な顔色で、一行と共に聖域中の聖域へと足を踏み入れる。




「よくいらっしゃいました」


 ラーラ様がにこやかに一行を迎え入れる。

 

 食事係らしい侍女2名がお茶とお菓子の準備をすると、すぐに下がっていく。

 その時にチラリとミーヤとアーダの方を見た気がしたが、幸いにも緊張しているアーダは気がつくゆとりもなく、ミーヤは見えていたとしても反応をしなかった。


「今日は賑やかですね、どうぞ座ってください」


 マユリアが天上の笑みを浮かべて一行に声をかける。

 アーダが今の自分が信じられないという表情で感激をしている。

 

 トーヤが八年前のことを懐かしく思い出していた。

 ミーヤもダルもリルも、初めてマユリアに直接声をかけてもらった時、こんなだったな、と。

 

 いつものソファの向かって右側に小さな主、シャンタルが座り、その向かって左にラーラ様。そして今日はシャンタルのそばにもう一脚の椅子を置き、そこにマユリアが座る。


 一行はソファに「ルーク」「アラン」が並んで座り、次のソファにダル、ミーヤ、アーダが。少しだけ離れていつものように衝立の中に「エリス様」とその横に通訳を兼ねてベルが座った。


「ミーヤ、ダル、久しぶりですね」

「本当に」


 マユリアとラーラ様が2人に懐かしそうに声をかける。


「はい、ご無沙汰しております」

「お久しゅうございます」


 ダルとミーヤが立ち上がり、あらためて膝をついて正式の礼をする

 アーダが驚いて目を丸くして2人に釘付けになった。


「あの」


 ベルも驚いた振りをして、キョロキョロしながら尋ねた。


「お二人は面識がおありなのですか?」

「ええ、そうなのです」


 マユリアがベルに向かって楽しそうに、歌うように答える。


「以前、2人には大変お世話になったことがあるのです」

「まあ、そうだったのですか」


 ベルが「エリス様」に説明をする。


「本当に久しぶりです。2人ともお元気そうでよかった」


 ラーラ様も幸せそうにそう言う。


「マユリアもラーラ様もこのお二人をご存知なの?」


 小さなシャンタルも目を丸くして尋ねる。


「はい、そうなのです。この者たちと後2名、先代に大変力を貸してくれたのです」

御先代(ごせんだい)に?」

「ええ」


 マユリアが懐かしそうに遠い目になり、ラーラ様も続ける。


「ミーヤとダル、それからトーヤとリルの4名には、本当にお世話になりました」

「トーヤとリル? その方たちはどうして今日はいらしてらっしゃらないの?」


 小さなシャンタルが不思議そうに尋ねる。


「はい、リルは結婚をして『宮』を辞し、今は『外の侍女」となっております」

「トーヤは月虹兵として少し遠くへ参っております」


 ミーヤとダルが順に答えた。

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