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 8 つながること

「私がミーヤは固まらない! って言ったらね、いいえ、固まってしまいますって動かなくて、服を着るのと自分が固まるの、どっちが嫌かって。それでミーヤが固まるのが嫌だって言ったら、じゃあ服を着てくださいって」


 みんなが笑い続け、ミーヤが赤くなって下を向き続ける。


「そこをキリエに見られてね、すごく恥ずかしがってた」

「やっぱ、面白いな、あんた」

「もう!」


 トーヤがそう言うと、ミーヤが一度トーヤを睨んでから、ぷいっと横を向く。


 そうしていると、扉が叩かれた。


 シャンタルがベールをかぶったのを確認してから、ベルが扉を開ける。

 アーダとダルが並んで立っていた。


 アーダが少しだけ考えてから、どう言っていいのかという顔で、


「楽しそうに笑っていらっしゃいましたね」


 と、ベルに言った。


 今まで、奥様ご一行がそんな大きな声で楽しそうに笑っていたことはなかった。

 初めてのことにアーダが少し戸惑っていた。


 大きな声で笑っていたので、廊下まで聞こえていたようだ。

 この部屋は「客殿」の部屋よりも狭い、気をつけないといけない。


 ベルがとっさに、


「ええ、兄が、私に、ミーヤ様とアーダ様を見習って、もっとおしとやかになれ、と言いまして、それに私が言い返したら、それで奥様がお笑いに」

「まあ」

「奥様の笑い声を久しぶりにお聞きしたもので、それで楽しくなってしまいました」

「そうでしたの」

「ええ、少しばかりはしゃぎすぎたかも知れません。恥ずかしいわ、聞こえていたなんて」


 そう言いながら2人を部屋の中に招き入れる。




 前もこんなことがあったな、とトーヤが思い出す。




 八年前、当時、まだ何も知らされていなかったリルがダルの世話役になり、3人で話をしていると仲間はずれにされているように感じていた。その機嫌を取るために、ダルがとっさにリルのことを話題にしていたと言ったことから、父親のことを知り、アロと接触することになったのだった。


(そうだった)


 トーヤがさらに思い出す。

 

(それでアロさんに手形を出してもらうことになったり、『サガン』まで船で送ってもらえたりした。その上、その時に話した内容からディレンが俺のことを知り、色々あったが手助けしてもらえることになったんだったな)


 今、ここにいるのも思えばその時、ダルが思いつきのようにリルのことをほめたと話を作ったこととつながっている。


(ってことは、もしかしたらアーダもそうなのか?)


 もしも、偶然ベルが今話したことから何かにつながるとしたら……


 トーヤは少し背中がゾクリとした。


(あの頃、本当に色々あったが、思い出してみれば全部つながってたんだ)


 今もそうなのだろうか?

 今、アーダに対して何気なく言ったベルの一言、それもまた何かにつながるのか? それとも、今回は何も関係がないのか?


(なんにしても)


 トーヤはさらに考える。


(アーダを仲間外れにするようなことだけは、関係あろうがなかろうがしないようにしないとな。そうでないと気の毒だ)


 今、この部屋の中であのことを知らないのはアーダだけだ。

 そのことを気遣うのは当然のことだろう。

 

 自分自身はまだ話す姿を見せることはできず、そのまま席につき、他の者たちと話をしているアーダを見ながら、トーヤはそう考えていた。


 


 その夜、ミーヤもアーダも部屋から辞した後、ダルも残って色々とそういう話をする。


「そうだったなあ」


 ダルが思い出してため息をついた。


「最初のうち、ほんと、リルがずっとくっついてて、困ったんだったよなあ」

「おい、今それ言ったらえらい目に合うぞ」

「だな」

 

 ダルがブルっと体を震わせ、他のみんなが笑った。


「そうだよなあ、アーダにはなんも悪いとこないのに、そんな気持ちにしたらかわいそうだよな」


 すでにアーダと仲良く話をするようになっているベルは、特にそう思ったようだ。


「ただな、さっきも言ったように、リルにダルが言ったことが今、ここにつながってるとも言える。ベルはとっさに言っちまったことだろうけど、それもつながってる可能性があるんだ」

「それなあ……」

 

 アランがふうっとため息をつく。


「トーヤからこっち来る時に八年前のことを色々聞いて、そんでまた不思議なこともあったもんだ、この2人、なんつー経験してんだよと思ったんだが、もう俺たちも同じ皿の上に乗っちまったようなことになってんのかな」

「かも知れんな」


 特になんということもない風にトーヤが言う。


「なんにしても、後にして思えばってやつだ。まあ考えてもしょうがねえ」

「そりゃそうなんだが」

「なんかさ、おれらがあそこでシャンタルに見つけてもらったのも、ここに全部つながってんのかな?」

「そうかも知れないね」


 シャンタルもさも普通にそう言う。


「でも、考えてもしょうがないよ。人は誰でもそう、今、自分にやれることをやる、それしかできないから」

「そうだな」


 トーヤが頷く。


「だからまあ、おまえ、アーダと仲良くしてやってくれ。この中でそれができるのはおまえだけだからな」

「うん、分かった」

「今の状態をなんとかしねえと、アーダもこの先かわいそうになる。きっとそれを分かった上で、俺らの世話役と月虹兵付きを受け入れてくれたんだろう。その気持に応えてやらねえとな」

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