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黒のシャンタル 第二部 「新しい嵐の中へ」<完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第五節 守りたい場所
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14 リルの手土産

 リルの覚悟のほどが深く突き刺さる言葉であった。


「私はね」


 リルが静かに続ける。


「最初はあなたたちのお邪魔になっていたかも知れない。それほどあの頃の私は自分勝手で幼くて、私が私がと他の人のことを考える余裕もなく、自分こそが一番だと思っているような、そんな人間だったわ。それを間違いだと教えてくださったのが、そこにおられる『エリス様』なの」


 リルが、ベールの下からのぞく銀色の髪、褐色の肌、深い深い緑の瞳の「主」を見つめる。


「今もどれほど成長できたか分からないわ。もしかしたら、ほとんど変わっていないのかも知れない。それでもね、自分の意識は変わったと思う。少なくとも自分だけではなく、この先のことを考えている。子どもたちのためなら何でもするわ」


 ラーラ様とはまた違う「母」の姿を見たとトーヤは思った。


「分かったよ」


 しっかりとリルを見て言う。


「リルがそれだけの覚悟を決めてるってことはな。俺は、そういう人間が好きだ」

「ありがとう」


 にっこりとリルが微笑み、トーヤも微笑み返した。


「ただな、くれぐれも言っておくが、本当に無理だけはしないでくれ」

「もちろんよ。言ったでしょ、子どもたちのためだって。この子に助けてはもらうけれど、決して犠牲になんてさせないわ」

「分かった。頼むよ、おっかさん」

「ええ、任せて」


 そうしてリルは、いくつかの決まり事を決めて帰っていった。




「すげえ人だったな……」


 ベルが呆けたように言う。


「ダルさんもかなりしっかりしてるって思ったが、いや、想像できないような人だった」


 アランもなんかすごいものを見た、という顔でそう言う。


 2人の言葉を聞いてトーヤが楽しそうに笑った。


「本当にな。リルには黙ってようかと思ってた自分を殴ってやりたくなるな」


 それを聞いて、シャンタルがたまらなくなったように吹き出した。


「頼もしいね、リル。あの頃も一番おもしろかったけど、今は比べ物にならないよ」


 シャンタルの言葉を皮切りに、4人で大笑いすることになった。


 どう動いていいか分からなかった暗い道に、一人、また一人と力強い仲間が並んでくれた、そんな気がしていた。


「さあて、俺も動くかな」

「どうするの?」

「まあ歩く訓練だ。色々と見て回る」

「おれ、付いていこうか?」

「そうだな、もうちょいしたら付き添いもいらなくなるだろうし、ちょっと付いてきてもらうか」

「うん」

「あ、その前にリルさんが持ってきてくれた荷物を見てみないと」


 「アロの使い」ということで、そう大きくも重くもないが、両手で抱えられるぐらいのバスケットを持ってきていた。


「なんだろうな」


 バスケットの中には布で包まれたものがいくつか入っている。


 ごそごそと包みを開き、


「なんだよこりゃあ」


 トーヤが腹を抱えて笑い出す。


「なんだ?」


 出てきたのは、あの島、「リル島」の意匠が入ったさまざまな商品だった。

 一緒に手紙が入っていた。




 島の新しい商品をいくつか考えてみました

 みなさまのお気に召しましたでしょうか?

 どれを商品化すれば売れるのかご意見を伺いたい




「なんだよーあのおっさん、結局商売の話かよー」

「いや、さすが大商人だ」

「ああ、さすがだな」


 それをしらっと持ってきたリルにも感心する。


「まあ、特にやることもないんだし、どれがいいか検分ぐらいしてやってもいいだろうよ」


 アロとリル親子のおかげで、すっかり気分がほぐれた「エリス様」ご一行だった。




 アロからの荷物を見て思いつき、少し動く時間を考え直した。

 午後、またあのミーヤに連れられた侍女一行が通り掛かるだろう時間を見て、廊下に行く。


 廊下の「客殿」寄り、トーヤの部屋よりは手前のあたりで待っていると、予想通りに侍女の一団が「奥宮」方面へ向かって歩いてくるのが見えた。

 

 先頭にいるオレンジの衣装の侍女、ミーヤが2人に気がついたようだ。


 壁にもたれたように立つ「緋色の戦士」から離れ、「中の国」の侍女がミーヤに近づく。


「先日はお世話になりました」


 そう言ってゆっくりと丁寧に頭を下げる。


「いえ、大したことは。あの、あの後、いかがでしたでしょうか」

「おかげさまで、部屋に戻って休みましたら、すぐに回復いたしました」

「そうですか、それはよかったです」

「それで、あのこれを」


 「中の国」の侍女が、抱えていた布を開いて中を見せる。


「こちらに来る時に立ち寄りました島で買い求めたものですが、みなさまでどうぞお分け下さいと、主からの気持ちでございます」


 開いた絹の上にあったのは、あの島特産の香木の細工物であった。


「うわあ、きれい」

「素敵ね」

 

 ミーヤが連れていた侍女見習いたちがキャッキャと喜びの声を上げる。


「あの、このように貴重な物をいただくわけには。大したことをしたわけではございませんし」


 ミーヤがそう言って断ろうとする。


「いえ、受け取っていただかなくては困ります。主の気持ちです」

「ですが」

「些細なことのようにおっしゃいますが、この者は主を守ろうとしてケガをいたしました。その者を助けていただいたこと、すなわち主を助けていただいたことと同義でございます」


 「中の国」の侍女は譲らない。

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