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黒のシャンタル 第二部 「新しい嵐の中へ」<完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第五節 守りたい場所
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12 先代と当代 

「なあなあ、おれ、ちょっと気になったんだけど」

「なあに、ベル」


 もうすっかり旧知の仲という雰囲気だ。


「3歳になってしゃべれるようになったら、初めての謁見ってのやるんだろ?」

「ええ、そうよ」

「じゃあさ、うちのシャンタルはどうだったの? こいつ、全然しゃべらなかったんだろ?」

「こ、こいつ……」


 さすがに一瞬リルがひるんだが、瞬時に頭の中で切り替えたらしく、すぐに答えを返した。


「先代はね、ご自分の言葉こそお話しにならなかったけど、でも託宣はなさっていたのよ」

「え、そんなことあるのか!」

「ええ、そう伺っているわ」

「おまえ、すごいなシャンタル!」


 ベルがシャンタルを振り向いて言うのにまた一瞬リルはひるんだが、またすぐに切り替えたらしく、何も言わずに2人に視線を送る。


「そう? ベルに褒められるのは悪くないね」

「で、で、しゃべれないのに託宣するって、どんな感じだったの?」


 またベルがリルに話を振った。


「ええとね、私も自分が実際に見たり聞いたりしたわけではないので、あくまで聞いた話になるのだけれど、先代はまだ1歳になられないうちから、いきなり何かをおっしゃってらしたらしいの」

「へえ!」

「それをマユリアがお聞きになって、託宣がありましたってみなにお伝えになっていたと聞いたわ」

「へええええ、すげえな!」


 もう一度シャンタルを振り返ってそう言い、


「けど、ちょっと怖いな」


 少し眉を寄せてそう言った。


「ベルは相変わらず正直だなあ」


 シャンタルがそう言って朗らかに笑うのを見て、今度はリルがひるんだままになる。


 八年前の出来事で親しく話をしたと言っても、あくまで「主」として接していた方が、こんなに親しそうにまだ幼いとすら言える女の子と仲良く話していることに、やはり多少の違和感があるものらしい。


「シャンタルはそういうの覚えてないんだろ?」

「うん、残念ながらね」

「でも、こないだ次代様が生まれるってのは託宣したの覚えてるんだろ? いつ頃からのを覚えてるんだ?」

「うーんとね……後で言われてそうだったのかなっていうのはあったんだけど、自分で言ったのを託宣だったなって思ったのはそれだけかな」

「え!」


 リルが驚いて声を上げた。


「次代様って、託宣って、それは一体……」

「トーヤ、リルはまだ知らなかったの?」


 シャンタルがのほほんと言い、リルが困った顔になる。


「ああ、リルとダルにはまだ言ってなかった」


 トーヤが答える


「トーヤ、それって一体どういうことなのかしら?」

「ちょっとゆっくり話すから、戻ったらダルにも伝えてほしい」

「ええ、分かったわ」


 そうしてトーヤがシャンタルが「次代様がいらっしゃる」と言ったことがきっかけで、予定より二年早く戻ってきたことを説明する。


「それで今戻ってきたのね……」

「そういうことだ」

「そうよね、てっきり次の交代は十年後、まだ二年先だと思っていたもの」

「だろうな」

「でも本当にもう次代様がいらっしゃるの? 当代が託宣をなさったという話はまだ聞いていないけれど」

「いや、確認した。もうすぐ交代がある」

「本当なの?」

「間違いない」

「ということは、王都にいらっしゃるということ? 遠くの方だったら確認するのも難しいものね」

「ああ」

「もう宮に?」

「おそらくは」

「まだ発表がないということは、ご誕生までにまだ月日があるということね」


 前回は「親御様」が姿を消していたこともあり、「次代様」が「宮」へ入ったのは臨月に入ってから、ご誕生まで一月もない差し迫った状態になってからだった。そのために「王都封鎖」まで日にちがなく、「宮」は大層慌ただしくなったのだった。


「そうだったわ、忙しかったわ、あの時は」

「普通は数ヶ月あるんだろ?」

「ええ、そう聞いているわ。ということは、今回は通常通りの交代が行われるということかしら」

「少なくとも、前回みたいなことはないだろうな」

「それはそうでしょう」


 二千年で初めての出来事だ。そんなことが毎回起こるはずはないだろう。


「こいつは三月(みつき)ほどって言ったんだが、そろそろ三月になる。早いこと王都封鎖してもらわねえと、ちょっとばかり困るんだがな。いつ頃になるんだろう」

「困る?」

「ああ、アルロス号だ。封鎖してもらわねえと船があっちに戻っちまうかも知れねえ。そうなった場合、ここからどうやって出るか考え直さねえとならんからな」

「船が出る予定があるの?」

「ああ」

「それだったらなんとかなるかも」

「そうなのか?」

「ええ、お父様になんとか言ってみればなんとかなるかも」

「おい」


 トーヤがリルの言い方に笑う。


「相変わらず娘に甘々なんだな、アロさん」

「ええ、それと今は孫にもね」 


 リルはそう言うといたずらっぽく片目をつぶってみせた。


「だから、それはそんなに気にしなくても大丈夫よ、なんとかするわ」

「すげえな。前より何倍もすごくなってるな」

「そうよ、『おっかさん』は強いのよ?」


 お茶目な言い方にみんなが笑った。

 

 リルが来てくれたおかげで、随分と色々なことが楽になった気がする。

 声をかけるかどうかすら悩んでいたことがバカバカしくなるほどだ、とトーヤは思った。

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