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黒のシャンタル 第二部 「新しい嵐の中へ」<完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第五節 守りたい場所
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 7 懐かしい人々

「なんにしろ、早いほうがいいだろう」


 その後すぐに一度自分の部屋へディレンとアランを連れていく。

 本当なら「宮」での月虹隊の係の侍女であるミーヤを呼んで2人を出入りさせることを伝えるべきなのだろうが、生憎とミーヤは明日まで見習い侍女の教育係の仕事があり、すぐに連絡がつかなかった。


「だから、キリエ様に面会を申し入れるよ」


 他の侍女に頼んで部屋でしばらく待っていると、キリエの執務室に来るようにとの連絡があり、3人で向かう。




 執務室に入るとすでにキリエが待っていた。

 案内をしてきた侍女を返すと、3人に椅子を勧める。


「月虹兵もあの事件のことを調べるのですか」


 表情を変えずにキリエが聞く。


「ええ。それでこのお二人を私の部屋に呼んで話を聞くことが増えると思います。『エリス様』に直接お話を伺うことはできないようですし、侍女の方だけを呼ぶのも少し(はばか)られます。何しろあのような国の女性ですから」

「そうですね、そのような心配りが必要でしょう」

「ええ。そしてケガをなさっている『ルーク』殿にもまだ無理はさせられないようですが、もしかするとリュセルスに足を伸ばしてもらう必要も出てくるかも知れません。それで『アラヌス』殿とディレン殿にご協力を願おうと」

「それが妥当でしょうね」

「ええ。しばらく騒がしくするかも知れませんが、お伝えしておこうと思いまして」

「分かりました。侍女たちにも申し伝えます」

「ありがとうございます」


 そのように、あくまで侍女頭に役目の報告をするという形で面会は終了した。


「ダル」


 部屋を出ようとしたらキリエがそう言って声をかける。


「なんでしょう?」

「リュセルスでのこともあるでしょうから、『外の侍女』にも声をかけるのでしょう」

「はい、そのつもりです」

「その者に、一度こちらにも足を向けるようにと伝えて下さい。私からも聞きたいこともありますから」

「分かりました」


 そう言って頭を下げ、3人で部屋を出た。




「すごい人ですね」


 部屋から出て、ふうっと息を吐くとアランがそう言う。


「すごい威圧感だったな」

 

 ディレンもそう言う。


「そう? でもまあ、俺も最初はそうだったかな」

「今は平気なんですか?」

「まあ~色々と知ってしまったしね。本当はほんとにほんとに優しい方だ、とか」


 ダルがそう言って笑う。



 3人でダルの部屋へ入る。


「とりあえず、連絡がある時は俺か、今朝連れてきたマトかナル、それともう1人ぐらい誰か決めてその名前を伝えます。その4人以外からの連絡は聞かないで下さい」

「え、それって」

「うん、月虹兵の中にもまだ入って新しい人もいるし、もしかしたらってこともあるからね。信用できる人の連絡にだけ返事して下さい」

「分かりました」

「それと、トーヤは顔出すわけにいかないから余り動けないと思うんだけど、それでもやりたいこと、できることがあったら無茶すると思うんだ、それ、止めてくれる?」


 聞いてアランもディレンも思わず笑った。


「よく分かってるなあ」

「ほんとに」

「いや、もう、八年前に色々見てるからね」

「そういうやつだからなあ」

「ええ」

「海まで行くだけって言ってたのに、結局海渡って『キノス』まで行ったりしてね、そんでいきなり船買っちゃったり」

「聞きました」

「なんだそりゃ、俺は聞いてないぞ」

「また細かく話します」

「あ、俺も話したい。ほんっと、あの時はくたくたになったからなあ」

「そうか、そんじゃ俺はあいつがちびの頃の話してやるか」

「あ、それ聞きたいです!」

「俺も聞きたいなあ」

「トーヤが聞いたらすんごい嫌がるだろうな」


 そう言って3人で大いに笑った。


「そんじゃ俺は街に戻ってリルと連絡取ります。俺に連絡したい時はどうしようかなあ」

「月虹兵の待機場所みたいなとこ、ないんですか?」

「うん、ある。街の東西に2ヶ所。地図描くよ」


 さらっと簡単に場所を記した地図を描く。


「そこか、カースまで来てもらうってのもありかな」

「カース、何度も名前聞いた村だ」


 トーヤの、今では故郷のようになった村の名前にアランが感慨深そうに言う。


「トーヤが帰ってきてるって聞いたら、みんなすごく喜ぶんだけどなあ。今の状態じゃ教えられないよね」

「そうですね」

「あの、アラン」


 ダルがあらためて言う。


「人がいる時は立場的にお互いしょうがないけど、普段は敬語なしでいこうよ。その方が楽だ」

「分かりました、って、分かった」

「うん、その調子」

「俺にもそれでいいぞ」


 ディレンが言うが、


「いやあ、さすがにそれは。年長者ですし」

「だよなあ。トーヤはあんな風だけど、やっぱりちょっと」

「そうか? だったらまあどっちでもいい、話しやすい方でいってくれ。ただ遠慮はいらねえからな」

「分かりました」

「あ!」


 いきなりダルが言う。


「言うの忘れたからトーヤに伝えてもらえるかな?」

「なに?」

「うちのじいちゃんもばあちゃんも、両親もみんな元気だって。みんな、何かあるとトーヤのこと思い出してどうしてるか心配してる。それと兄貴は上の兄貴は結婚したけど、2番目はまだ遊んでて母ちゃんにはたかれてるって」

「分かった」


 こういう楽しい伝言は大歓迎だとアランは思った。

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