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黒のシャンタル 第二部 「新しい嵐の中へ」<完結>  作者: 小椋夏己
第二章 第四節 おかえり、ただいま
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12 旧友

「ほんとによかったよ、ずっと会いたかった」


 そう言うとダルはぽろぽろと涙をこぼした。


「おいおい、おまえももう親父んなってるんだろ? 相変わらず涙もろいよなあ」

「だってな……」


 ぐすぐすと鼻をすする。


「第一、月虹隊だっけか? それの隊長やってんだろ? 泣くなよ、なあ」

「いや、だってな、俺、ずっとずっとトーヤのこと気になっててな……」


 涙で声が続かない。


「しゃあねえなあ」


 そう言いながらトーヤがうれしそうなのを見て、アランは少しだけベルの気持ちが分かったような気がした。

 

 アランはベルと違って頭ではきちんと理解している。トーヤが、自分たちと出会う前にすでに大事な人間がいただろうということを。

 だが、それでもこうして実際にダルと会い、2人の間の絆を感じると、なんとなく面白くないと言っていいのか、どう表現していいのか分からないが、もやもやとしたものを感じた。


「おい、出てこいよ」


 そうしてアランが一人でカーテンのそばに立っているとトーヤが呼んだ。


「え、誰かいるのか?」


 ダルが驚いて聞く。


「俺の仲間のアランだ」

「どうも」


 どういう顔をして出ていいのか、困ったようにそう言って頭を下げる。


「トーヤの仲間か! どうも、はじめまして、俺ダルって言います。よろしく」


 ダルは相変わらず細長い体を半分に折り曲げるようにして、深く頭を下げた。


 それを見た途端、アランの中で何かがストンと落ちた。


「あ、俺、アランって言います。トーヤとは3年前から仲間になりまして、ダルさんのことも色々聞きました。よろしくおねがいします」


 同じように深く頭を下げる。


 なんだろう、すごく自然に受け入れられたことがうれしかった。

 話に聞いて、想像していた通りの人だったからだろうか、知らない人という感じがしなかった。


「ここはちょっとゆっくり話ができるな」

「いや、それはいいけどさ、なんなんだよ、その格好。俺、まだトーヤの顔見てないよ」

「あーそういやそうか」


 トーヤは笑いながら、今の状況を説明する。


「じゃあ、街で噂になってる『中の国』の奥様って……」

「そうだ」


 誰かとは言わない。ただ、それで通じる。


「そうか、ご無事なんだな」


 そう言うとまたダルが涙声になる。


「だから泣くなって。俺が付いてんだぞ? 無事なのは当たり前じゃねえかよ」

「うん、うん、そうだな。でもさ、実際にお元気だと聞いてホッとしたよ」


 ダルはこの国を出る最後の最後まで付いてきてくれたのだ。その気持ちも分かる。


「それで、今知ってるのはキリエさんとミーヤと、そんで俺ってわけだな? この後どうするつもりなんだ? なんでマユリアたちに言わないんだ?」

「それなんだがな……」


 ダルの質問にどう答えようかという前に、一つ引っかかることがある。


「おまえな、前はミーヤさんって言ってたよな? ミーヤもダルさんって。なんで今はどっちも呼び捨てなんだ?」


 それが大きかったのだ、あの勘違いには。

 あれだけ丁寧に人のことを呼ぶミーヤが呼び捨てにしただけではなく、ダルもそうだというのが気になった。


「ああ、リルだよ」


 ダルがあっさりと答える。


「リル?」

「うん、リルがね、アミと色々話をしてて、そのついでみたいに、友達になったんだから呼び方が他人行儀だ、今日からみんな呼び捨てでいくって言ってな」

「リルかよー」


 トーヤがゲラゲラと笑った。

 なるほど、リルなら言いそうだ。


「そうだよーそんで、今はそうなってる」

「なるほどな、よく分かった」


 まだ笑い続けているトーヤを、少しばかり冷たい目でアランが見ている。そんなこと気にしてる場合か? と目が言っている。だが、トーヤにとっては大きな問題だったのだ。


「そんでおまえ、アミちゃんと無事に結婚できたんだな、よかったな、おめでとう」

「うん、ありがとな」


 照れくさそうにダルが赤くなる。

 もう結婚して何年にもなり、子どもまでいるというのに、全く変わらないやつだとトーヤは思った。


「それより他に話があるだろ?」


 とうとうしびれを切らしたようにアランがトーヤに言う。


「あ、そうだな。うん、大事な話がある」


 こうなってまでまだトーヤがふわふわしているようで、ちょっとアランがイラッとした顔になる。

 まったくなんでだろうな、とトーヤも自分で思う。


「はっきり言うがな、この先どうすりゃいいのか俺にもまったく分かんねえんだよ」


 正直にトーヤが言う。


「今、この国が、この宮がどうなってるのか、少しは見えてきたがな、なんか色々変わってて、そこにあいつ連れて帰ったものの、どうするのがいいのか分かんねえんだよ」


 ダルが人のいい顔を引き締める。

 ちょっと隊長っぽく見える気がする。


「そうかあ……」


 ダルはそう言って、ふと思い出したようにトーヤとアランに椅子をすすめ、自分も同じように腰をかける。


「まあ、少しは話せるんだろ? ちょっとゆっくり話そう」


 ダルはダルで何か言いたいことがあるようだ。


「えっと……」


 座ってからアランをチラッと見る。


「ああ、こいつと、こいつの妹のベルってのがいるんだが、こっちに来るまでのことは全部話してある。後もう一人、アルロス号の船長も俺の知己でな、そいつも全部知ってる」

「そうか」


 ダルがそれなら、という顔になる。

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